刺繍された始終の詩集

過去にTwitterで #書き出しと終わり で書き溜めたもののまとめみたいなものです。noteに移行するにあたり若干の修正を加えたものもあります。

https://shindanmaker.com/801664
こちらのリンクからお題を無限に生成できます。同作者の診断に新弾もありますのでそちらもどうぞ。

星の導く者」も#書き出しと終わり から生まれました。こちらは少しだけ長めです。お時間ある時にどうぞ。

何もできなかった者の。

Gl!nTさんには「最初は何とも思っていなかった」で始まり、「なぜか目が離せなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば9ツイート以内でお願いします。

最初は何とも思っていなかった。車椅子、盲導犬、義手義足、松葉杖、それ以外も色々。知識として知っていても、実際に目にすることは多くはない。
もし、僕の知り合いが障害を患ったらなんて、考えもしなかった。これは、日常が一瞬の出来事で塗り替えられてしまったお話。

水無月某日、朝8時。眠い目を擦る登校路で、この前2年生になった僕はもう慣れた景色を通り過ぎる。電車通学だと、朝の顔触れがほぼ固定される。電車が少なければ尚更だ。
自転車が僕の側を走り抜ける。目に馴染んだ後ろ姿に混じり、比較的新しい姿もある。僕は何気ないこの平和な時間が好きだった。
どうせ今日も適当に授業をこなして帰る程度だろうなぁ、とため息混じりに考える。今日は金曜日、明日は休み、ボランティア部の活動もないのでさっさと帰ってしまいたい。その上、今夜は大雨らしい。

予定通り素早く帰路につく。心なしか、いつもより人が多かった。
月曜日、週末の雨は止まず傘をさして登校することになった。梅雨特有の止みそうで止まない雨。その中でも雨合羽を使って自転車登校をする人が一定数いる。自転車が角を曲がるのを数回見る。数は少なかれどいつも通り、

ではない異様な音がした。その角に辿り着き見た光景に、僕は何もできなかった。
前面の潰れかけた車、異常な湾曲をしている自転車、何よりも雨合羽から姿を見せる赤黒い液体。比較的新しかったはずの後ろ姿の1つは、名状しがたい光景を見せていた。
僕は何もできない。ただ、立ち尽くすだけ。周りに人が増えてくる。水に流すのを拒むように、恨めしい空は光を覗かせた。
それでも時は止まらない。何もない者の日常は進む。

文月某日、梅雨も明けた頃。あの日以降あまり良い気のしなくなった登校路で、不自然を見かける。足だ、足が普通じゃない、普通じゃなかったら何だろう…
考えている間に校門まで辿り着く。それでも、普通じゃない何かが引っかかって離れなかった。
数日考えて、やっと答えが出た。義足だ。正直、本物を見るのは初めてで、脳がそれを認識できなかった。
義足は、外見が金属的なイメージが強いが、最近は人肌に近い物も作られている、らしい。それでもまだ不自然さが残るのはどうしてもしょうがないものだろう。
いじめの原因に…は考えすぎだろう。

神無月某日、義足の生徒が亡くなった噂話を聞いた。なんでも、あの日の自己にあった生徒らしい。元々体が弱いところに事故が重なって、かなり負担が大きかったらしい。元は成績優秀で期待されてたらしい。1年生だったらしい。最期まで明るく振舞ってたらしい。
僕は何もできなかった。事故の目の前で何もできなかった。
日常は一瞬で壊れる。知らない人が事故し、義足になり、亡くなった。
その時は、未来図も一瞬で壊れる事を知らなかった。

僕は今、より本物の人肌に近い義足を作っている。そして一生の間、義足達から、もしくは赤の他人のはずの義足の生徒の影から、なぜか目が離せなかった。


隣の部屋を覗く時、隣の部屋もまた……!

Gl!nTさんには「爪先立ちの恋だった」で始まり、「穴があったら入りたい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば2ツイート以内でお願いします。

爪先立ちの恋だったの。それは隣のアパートの上の階の一室に、バイトのイケメンな先輩が住んでると知ってから。ほぼ毎日のようにベランダから、双眼鏡で覗こうとしてるの。背伸びして、少しでもあの先輩の近くにいたくて。先輩のこと、いっぱい知りたくて。

ある日、いつものように爪先立ちで覗こうとしてたら、唐突に先輩の部屋の電気が消えたの。しばらくすると、先輩が私の家に!?
イケメンな上に優しい先輩は、作りすぎたらしいシチューをくれたんだけど、最後の一言が、
『お前、覗いてんの知ってるぞ。程々にしとけ。』
…!!
あぁあぁ…全部バレてた… 想いは伝わらないのに行動だけ伝わっちゃった…
はぅ…恥ずかしい!顔が大火事!冷や汗だらけ!穴があったら入りたい!!!!!


夢の世界を

Gl!nTさんには「ほら、目を閉じて」で始まり、「きっとどこまでだって行ける」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば4ツイート以内でお願いします。

ほら、目を閉じてごらん。真っ暗かい?大丈夫、安心して。私は側にいるから。
今日も1日お疲れ様。今日は楽しい日だった?それとも悲しい日?でも、大抵の日は一言では表せないくらい、色々なことが集まってできてるよね。だから、疲れちゃうの。大丈夫、当たり前だもん。

でもね、そうやって大変な毎日を過ごしていく間に、キミの中には色々な世界が広がっていくの。毎日、色んなことを感じているでしょ?それは、間違いなくキミの世界を広げるの。明日は、今日よりもう一歩先へ行ってみましょ?もっと世界が広がるわ!

だけど、今日はもうお休みの時間。目を閉じて、真っ暗だけどその向こうに、別の世界を想像してみるの。架空の世界、夢の世界。
キミはもう眠いみたいだし、お話はここまで。お休みなさい。夢の中のキミは、きっとどこまでだって行けるわ。


探し物

Gl!nTさんには「探し物はここにあるのに」で始まり、「それが少しくすぐったかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字程度)でお願いします。

「探し物はここにあるのに、どこまで行くのかい?」
ある幼き日、私の祖父から聞いた言葉だ。その頃の私はその言葉の意味を理解するほど頭は良くなかったし、祖父は軽い認知症からボケ始めていた。ただ、ただただ、心に引っかかっていた。

それから幾年後、高校生な私と、亡くなった祖父。
そして、心に定住したあの言葉。

私の近頃の悩みは、いわゆる進路志望とやらだ。正直、酷だと思う。まだ自分自身が何をやりたいのかもよく分からず、何ができるのかも定かではない若年の高校生に、今ここで未来を定めろと言っているようなもの。
それで最近は、地に足が付かない毎日を過ごしていた。

学部学科探し、進路探し、未来探し… 探さなければいけないものは多い。探し物はここにあるのに。 あれ、私は今何を言おうと…
探し物は自分の心の中にある。それも分からずどこかへ行こうと右往左往していた自分に気がついた気がした。真理を突いたような祖父の言葉、それが少しくすぐったかった。


ある作家の午後

Gl!nTさんには「午後は眠気との戦いだ」で始まり、「物語はここから始まる」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字程度)でお願いします。

午後は眠気との戦いだ。眠りを誘う陽光、昼食後の満足感、緩んだ気持ちと時間の流れ、なんとなく心地の良い午後1時は、何気なく駆け抜けて行く。貴重なお昼の時間は、湯水のように浪費されていく。
いけない、原稿の続きをしなくては。私は、仕事用のラップトップに手をかける。
手をかけても頭が回らない。仮眠を取った方が良いのだろうか。〆切は近いが、睡魔にまけてssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssss


しまった、完全に寝てしまった。私は、後悔を胸に再度ラップトップに手をかける。時計は2時を指している、気持ちは自身の失敗を刺している。時間はない、やるしかない。結局のところ、やらねば進まないのだ。愛用デスクと相棒のラップトップ、いつだって、物語はここから始まる。


陽が沈む。

Gl!nTさんには「笑ってください」で始まり、「そこに彼はいなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以内でお願いします。

「笑ってください。私はまだ、あなたの笑った顔を見たことがないんです。」
海岸線に程近い道端、目が眩むほどの夕陽が入道雲を照らす。私の彼氏の頬が赤らんだように見えた、見えただけの錯覚かもしれない。いつも夕刻にどこからともなく現れて、ただ海を見つめる彼に惹かれた。

陽が沈む。

彼に会いに行くのは、夏の日々の日課になっていた。陽が沈みかけると、どこからともなくやってくる。無口な彼は、ただ真っ直ぐ海を見つめていた。いつも、いつも…いつも。
よく観察すると、海と夕陽は毎日表情を変えるのだ。それに比べて彼は表情を変えない。いつかに囚われたように。

陽が沈む。

いつの日か聞いてしまった。海を眺める男性が、車に轢かれて亡くなったとさ。数年前の斜陽の眩い日、海の底へ男が消えたとさ。
彼に話したかった。同じ目に遭ってほしくなかった、もしくは勘が当たってほしくなかった。夕刻を迎える。「ちょっと聞いてほしいな、

陽が沈む。
そこに彼はいなかった。


Gl!nTさんには「ぴたりと足が止まった」で始まり、「でも僕らは幸せだった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字程度)でお願いします。

ぴたりと足が止まった。人生を歩めなくなった。二人三脚の片割れが転ぶように、いともたやすく妻は亡くなった。共に31歳、若すぎる別れだ。
高校で出会い卒業後に結婚、漫画で見たような出来すぎたストーリーだった。毎日共に心は晴れていた。夫妻共に病を抱えている点を除けば。

病の発覚は、妻が25、私は28の時だった。病の内実は違えど、生命の終点を意識しなくてはならない点で共通していた。
最初こそ妻を労わる生活が続いていたが、私の方の病が見つかってからは労わりあう生活となっていた。命尽きるまで寄り添う、というのは結婚式での言葉だったか。真に支え合っていた。

命尽きるまで。妻の命は尽きてしまった。
人という字は何とやらと言うが、今の私はいわば棒の片方を失った。
私達にとって、あまりにも早すぎる別れは、時間に永遠を約束させるに十分だった。たとえそれが私の最期のエゴだとしても。

現世の私達は、ぴたりと足を止めた。でも私達は幸せだった。


その涙、きっと見られています。

Gl!nTさんには「懐かしい声が聞こえた」で始まり、「どうか許さないでください」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字程度)でお願いします。

懐かしい声が聞こえた。懐かしい記憶が蘇った。懐かしい感覚が体を支配した。きっと、これが最後の幸福なのだろうと悟る。
21世紀末、第三次大戦を経て文明は崩壊するかと思われた。文明を守り抜いた立役者の一人は今、終焉を迎えようとしていた。

「この世界は、存外平和だったのかもな。」
最初に耳にしたのは誰だ?私だ。まだ幼き日の私だ。声、泣き声。泣き続ける私。できない、だらけの私。まだ自分の事すらまともにできない歳。それでも、できないわからないだらけで泣いていた日々が懐かしい。迷惑だってかけたのは、今だから分かる事だ。当事者はそれを理解できない。

続けて私の声がする。まだ泣いている。クソがつくほど真面目だった私は、強き者共の格好の餌となった。それが嫌で仕方がなかった。もっと嫌なのは、泣いている私自身がみっともない事なのだが。泣きたい訳ではない、それでも泣いてしまう。快く思う者はいなかったのだろう。当事者はそれを理解できない。

目指す未来など無い者の声がする、やはり私だ。路頭に迷い、世界に捨てられかける。どれだけ足掻こうと、手を差し伸べる者は誰一人存在しない。不安定な未来観に支配された私は、静かに涙を流す。誰もが未来を見据えている中、人の面倒まで見れる者などまずいない筈だ。当事者はそれを理解できない。

感情に訴えかける者の声が聞こえる。当然のように私だ。保護主義政策の世界の流れの中で、常に協調を唱え続けた。ユビキタス社会の中で、その声は世界に広まるだろう。涙を浮かべ訴える姿は、世界に広まれど見向きもされない。既に第三次大戦のすぐ手前まで来ていたのだ。当事者はそれを理解できない。

私の声を聞いたらしい、どこかの国の偉い人が声明を出した。別の国が、それを支持した。力ある者の発信は、容易に世界に影響を与えうる。私は複雑だった。結局大事なのは内容ではなく、誰が発信したかに過ぎない。情けなさに涙を零す。きっかけがないと人は動かない。当事者はそれを理解できない。

第三次大戦が終わる、あの国の偉い人は世界中で賞賛されていた。私はもはや見向きもされない、しがない老人でしかない。いっそこのまま静かに消えてしまおう。彼岸が静かなら、それで十分だ。しかし、消えたら今度は、惜しい人を亡くしたと、世間様は大騒ぎだろう。当事者はそれを理解できない。

男は息を引き取った。最早1秒前の言葉だって懐かしかった。

…いい加減気づいただろう?世界は、結局主観無しでは見られないのだ。故に、現実は齟齬を起こし、未来は権力に潰される。

主観者へ
矛盾だらけのこの世界の構造を、人間という狂ったシステムを、どうか許さないでください。


第四の壁の向こうへ

Gl!nTさんには「繋いだ手が熱を持つ」で始まり、「必要なのは勇気でした」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字)以内でお願いします。

繋いだ手が熱を持つ、なんて幻想は私には起こり得なかった。所詮私は3次元の人間なのだ。画面に手を伸ばせど、画面の向こうに手が届くことはない。私はただ、外から見ていることしかできなかったのだ。

未知、非望、無気、不能。たった4つの思い込みが私を縛っていたと知るのは、もう少し先のこと。

昨今のバーチャルYoutuber、すなわちVtuberのブームをご存知だろうか。年齢や性別の壁を超え、Youtubeに留まらずインターネットの世界を闊歩する、数多のアバター達。彼、彼女らは、それぞれ形は違えど、各々の理想を求めて活動しているのだろう。
私は、そんなVtuberの1ファンでしかなかった。
彼、彼女らの動画や生放送を観て、尊さを感じ、笑い、時に感動を共有し、それなりに楽しかった。
しかし、手の届かない存在である。
私は、アイドルを応援する観客の1人でしかなく、テレビを観るお茶の間の1人でしかなく、恒星の輝きを傍受する惑星の1人でしかない。舞台には立っていなかった。立てるはずがないと諦めていた。

2018年10月3日、足りなかった歯車が嵌め込まれる。カスタムキャストの公開、それは私の背中を押すのには十分すぎた。
口コミは瞬く間に広がり、当然私の下にも届いた。バーチャル界に興味がないわけではない、むしろ触れてみたいような気持ちは、私にダウンロードボタンを押させた。

無気の壁は、消え失せた。

アバターを作っているだけで楽しかった。設定を一緒に考えるのはもっと楽しかった。そのうち、私自身が私が作った子を動かしたい衝動に駆られた。

非望の壁は、消え失せた。

アバターを作っていると、やはりどうしてももっと細かい所まで調整したくなる。もどかしさのあまり、調べてしまった。カスタムメイド、Vカツ、Vroid、その他諸々。この世界には、手段が十分に用意されていた。

未知の壁は、消え失せた。

ついでに見たページには、“最近では特別な機材がなくともVtuber配信ができる”ことが書かれていた。私は元来ゲーマーだったので、パソコンのスペックは余裕があった。十分配信できるのだ。

不能の壁は、消え失せた。

技術の進歩は、私を舞台袖まで連れ出した。スマホ1つから始められるこのご時世、私の環境は完璧とは言えないものの恵まれていた。様々な形態から、自分の可能な道を選ぶことができる。それは、あらゆる人に開かれたコンテンツであることを意味する。

繋いだ手が熱を持つことは無けれど、憧れた世界に手を伸ばすことはできる。緞帳は既に昇りきっている。手が届かなかったはずの世界に、憧れるだけだった世界に、舞台に、登る。最初で最後の一歩を踏み出すのに、必要なのは勇気でした。


あの日あの時あの場所で

Gl!nTさんには「優しいのはあなたです」で始まり、「でも僕らは幸せだった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字)以上でお願いします。

「優しいのはあなたです、こんな私を無理に介抱しなくてもいいのに…」
「いや、これくらいしかできることは無いからね。それに、僕と一緒にいてくれる君の方が優しいさ。」
男は2人分のコーヒーを淹れ、テーブルに運ぶ。他愛もない、自然な会話のはずなのだ。2人の事情を除けば、の話である。

女は、四肢に不自由を抱えている。見た目ですぐに分かる。右半身は腕も脚も存在せず、左脚も膝とその下が存在しない。唯一無事な左腕を用いて、電動車椅子を扱う。当然、生活には苦難を抱える。事実、片腕だけでできることというのは、あまりに少ないのだ。利き腕でないなら尚更だ。

男は、脳に不自由を抱えている。見た目では全く分からない。ある1日までの記憶は存在するが、その後の記憶が全て存在しない。眠る度に記憶が消去されてしまう。常に無事な過去の記憶を用いて、日常生活を営む。当然、生活には苦難を抱える。1日前のことを覚えていないのは、時間が存在しないのと同義だ。

男女に悲劇をもたらしたのは、新婚旅行中の事故だった。元来ドライブが趣味だった女が運転する車は、飲酒運転をするトラックに吹き飛ばされた。運転席の女は体に直接ダメージを受け、助手席の男は車の横転によって頭を強打した。
二人の時間は、この日を最後に止まってしまったのだ。

その日から空間を自由に動けなくなった女と、その日から時間を自由に動けなくなった男。
その日に束縛されて、動けない2人。どうせ明日は今日だけれど、2人の歴史を確かめ合うために助け合うのだ。
「昨日の、いやあの日の事故で、僕らは大変なことになってしまった。でも僕らは幸せだった。」


投げたら行き場がなくなって

Gl!nTさんには「もしもの話をしよう」で始まり、「その想いは海に沈めた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以内でお願いします。

「もしもの話をしよう。いいか、あくまでもしもの話だ。」
そう切り出したのは、私の部活仲間の男子だ。渾名はもやし、もしくはゴボウ。体型が完全にそれなのだ。そんなゴボウは私の返答を待たずに続ける。
「もしも、俺とお前が付き合ったら、もしくは付き合っていたらどうなるっておい馬鹿やめろ!」
…久しぶりに全力でスリッパを投げた。気持ちいいことこの上ない。
「もしもであってもそれは絶対ありえんわ!何だかんだ1年の初めから一緒だったけど、それでもねーわ!」
投げられたゴボウはというと、風に揺られる紙飛行機を落とすかの如く、そのスリッパいともたやすく真下に叩き落としていた。

投げるまでは気持ちいいが、やはり落とされるのは不愉快だ。もう片方を投げる口実ついでに、前言撤回してもらわなくては。
「お前さっきのもう一回言ったら、今度マジで当てるからな、スリッパ。」
言われた側のゴボウはけろっとした表情で、
「ん、もし付き合ったらどうこうのことか?」
と、まるでスリッパを投げられるのを求めている、もしくはただの挑発をしてくる。素直に率直に単純にウザい。
「このバカ〜!!!」
間違いなく今出せる最高速度で手から離れたスリッパは、ゴボウの腹部に直撃するかと思われた。が、ゴボウの右脚の太腿に弾かれる。呼ばれてるだけあって、脚が長い。
投げる気力も投げるスリッパも無くなった私は、
「そもそもどうしてそういう考えが出てきたのさ?」
と、根本的な質問を投げかけてみる。返答はあまりにも泥くさかったが。
「いや、高校で初めて出会った奴と色恋上手く行くって、なんかすごく青春感じるじゃん?ここは海も近場だし、シチュエーション的にもまさにザ・青春、みたいなのを体現できるかなーって。そんな可能性があったらいいなーって…」
「もう一回投げるから、スリッパ返して、ね?」
こいつの背面が窓じゃないことに、心から神様にありがたいと思う。今日はもう帰る。これ以上顔も見たくない。絶対見ない。

帰り道、海辺を全力で走る、けど疲れた。ぶっきらぼうで色恋沙汰とは無縁の私に、初めてそんな話を切り出されたのが、今さっきの出来事。むしゃくしゃして、
「バカー!!!」全力で叫ぶ。
「…馬鹿」自分に呟くように続けた。
恋愛が私にありえる、なんてね。きっと叶わないその想いは海に沈めた。


必然

Gl!nTさんには「ぱちりと目が合った」で始まり、「そう小さく呟いた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字程度)でお願いします。

ぱちりと目が合った、バス車内で、見知らぬ老婆と。バス自体は乗る人もまばらで、座席も空席が多い。なのに、それなのに僕は、変に声をかけてしまった。
「隣、大丈夫ですよ。」
おかしなものだ。普通ならまず声をかけすらしない。多分、そのまま変に気まずい空気になるよりマシ、とでも思ったのだろう。
老婆はというと、杖をつきながらおぼつかない足取りでこちらに向かってくるところで、僕と目が合った。声をかけると、やはり今にも崩れそうな足取りでこちらに来て、少し口角の上がった以外、なんとも言えない顔で、
「じゃあ、失礼するよ。」
と言い、私の左側に座る。
「あんた、そんな薄着で寒くないのかい?」
「いえ、大丈夫です。」
朝晩は冷え込む季節、心配されるのも無理はない。言葉の端々に、どこか心地よい暖かさを覚える。

しばらく無言が続いた。そのうち言葉を発したのは老婆の方で、
「あんた、少しばっかり、私の昔話に付き合っておくれよ。」
僕の返答も待たずに語り始める。話し相手が隣ではないどこかにいるように。
「私の孫は、それはえらく泣き虫だったものさ。もう、毎日毎日、ずーっと泣いてばっかりだった。最後に見たのは、孫が5歳の頃だったかねぇ。10年ちょっと前かな。あの子は、私の事なんぞ、覚えてないだろうに。」
泣き虫、か。まるで、
「まるで、小さい頃の僕みたいだ。」
「おや、そうかい。えらい偶然も、あるもんだねぇ。」
僕は小さい頃の記憶があまりない。よく泣いてたことくらいしか覚えてないのだ。

もうしばらくして、バスを降りた。幼い頃を思い出して、久しぶりに涙で景色が霞んだ。
車内に取り残された老婆。
「あの子は覚えてないだろうけど、私は覚えてるさ。大きくなっても、顔立ちは変わらないものだねぇ。」
先の会話は結局老婆に何を与えたのか、もしくは会話自体に意味は無かったのか。考えもなく、ただ、
「元気そうで何よりさ、私の可愛い孫息子や。」
そう小さく呟いた。


僕の作り方

Gl!nTさんには「青空に手を伸ばした」で始まり、「ずっと子供でいたかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字程度)でお願いします。

青空に手を伸ばした、届くものだと信じながら。
何も知らない純粋な僕は、カエルにカタツムリ、それに小犬の尻尾なんかでできていた。
遠い天蓋、背伸びしても届かない世界。いつかいつかと想いを馳せた。

時は、全てを無視して進み続ける。

青空に手を伸ばした、届かないと知りながら。
知ることを得て穢れた僕は、ため息と流し目と嘘の涙なんかでできていた。
遥か彼方の天蓋、どこまで行っても終わりのない世界。意味も無いやと想いを棄てた。

時は、全てを無視して進み続ける。

青空に手を伸ばした、届くものだと気付いてしまった。
しがらみから解放された僕は、空っぽの容器しか残っていなかった。
ちっぽけな天蓋、開いた世界からは何が降ってくるのだろうか。拾ったもので僕を作ろう。

時は、全てを無視して進み続ける。
その定命に逆らってでも、ずっと子供でいたかった。

本文の作成にあたり、Mother Goose ”What are Little Boy Made of?” の日本語訳をを一部お借りしました。


実り多き季節

Gl!nTさんには「今日も空が青い」で始まり、「わからないままでいいよ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字程度)でお願いします。

「今日も空が青いなぁ。やっぱり秋はいいな、だいたい毎日晴れてくれる。」
そんなことを呟いた、落ち葉が道に落ち始める季節。日差しは暖かいし、風は心地いいし、花粉も春とは違い僕は大丈夫だ。やっぱり、一番過ごしやすいのは秋だと噛みしめていると、正面から一人ちょっかいをかけてくる。
「どしたの?なんかフワーって顔して。」
いつも突然どこからともなく現れて話しかけてくる、僕の幼馴染だ。僕より活発な雰囲気で、出会うとだいたい話してくる。ぼっち状態を回避できるので地味にありがたいと思っている。今日も、半ば強制的ではあるが、ぼっち状態から脱却した。
「いや、なんとなく今日は良く晴れてるなー、気持ちいいなー、って思ってただけ。」
「ふーん、空か… そういえば、秋の空って、どして高ーく見えるんだろ?」
彼女は話を広げて、続けるのが上手い。彼女本人が長々と喋る事もあるが、それよりも僕から話を引き出してくれることの方が多い。
今回もいつものような感じだ。話しているとつい僕が気持ちよくなってしまうくらい、色々聞いていてくれる。こういう相手がいてくれる事に感謝しなくては。
「秋は、空の高いところに雲がかかっていたり、空気が綺麗だったりして、空が綺麗に見える条件が整っているー、みたいなことを聞いたような…」
「へぇー、よく知ってるねー。空気が綺麗とか、私よく分かんないや。」
「たまたま知ってただけだよ。あ、秋空といえば、『天高く馬肥ゆる秋』とか言ったりするなぁ。」
「何それ?どゆこと?」
まいった。下手に字面だけ知って口に出すと、まぁ答えられない。
「わからないままでいいよ…」
「え、ちょっと、ケチー!」
後で調べておかなくちゃなぁ。
「むー、イジワルー。」
なんか、ちょっと雲行きが怪しくなってきたぞ… 今日は
「早めに帰った方が…」
「何とやらと秋の空!」
えっ、と声が出る前に彼女は走り去ってしまう。T字路で最後の一押しまで、
「わかんないままでいいよーだ!」


思い出

Gl!nTさんには「小さな嘘をついた」で始まり、「あの日を思い出にしよう」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字程度)でお願いします。

小さな嘘をついた。もう少し遊んでいたかった。
私が小学三年生だった頃、一度だけ門限を破ったことがある。幼い日の“私”は、もう少しだけ友達と遊んでいたかったらしい。

日が傾きかける午後五時前、本当はもう“私”は帰らなくてはならない。しかし、あろうことか「5時半まではだいじょうぶ」なんて。
“私”は当然叱られるのだが、門限を破った理由を偽った。「時間を見るのを忘れてた」なんて。

ありふれた毎日の中で、ある一日だけが記憶に残るのは難しい。ちょっとした逸脱は、記憶のページに花を添える。私が“私”の嘘を覚えているように。
ちょっとした逸脱、なんて難しいことは考えなくてもいい。それこそ、

今ここで私
    が
   原
  稿
 用

を使って遊ぶ

くらいの、しょうもないことでもいい。そうやって、記憶のページをいっぱい作って、本にしよう。いつか、私の人生の本を完成させよう。あの日を“思い出”にしよう。


あの日のときめきを、どうかもう一度。

Gl!nTさんには「あなたの恋は何色ですか」で始まって、「もう振り返らないでね」で終わる物語を書いて欲しいです。続きが読みたくなる話だと嬉しいです。

「あなたの恋は何色ですか?」
「どうしたのさ、君が急にかしこまるなんて」
師走も末のある日、僕は補習の帰り道で彼女と言葉を交わす。いつもならば、大変な日々でしおれた心を癒す甘いひととき。しかし、今日は少し違った。
「私、気になっちゃった。私達が視ることのできる色なんて、本当にちっぽけで限られた、可視光線って言われる部分の色だけでしょ? “運命の赤い糸”なんて言うけど、本当は目に見えない色をしているんじゃないかな。その糸。」
「今日光の回析の演習をしたからって、いきなり言われてもねぇ…」
周りはやれクリスマスだ、やれ年越しだ、色々騒がしい中、僕達受験生というのは難儀なものである。
「そもそも恋なんてもの、僕にはよく分からない。でもきっと、複雑な色をしているんだろうな。」
嘘。気持ちに向き合っていないだけ。僕自身が本当の気持ちと向き合うのを恐れているだけ。いつの日も他愛もない話をしてくれる、目の前の彼女のことが、ことが…
「道に積もってる雪の白、陽が落ちた空の藍、私達を照らす街灯の橙、どれもこれも単色ではない。目に見えない恋だって、一言でバシッと言い表せるといいんだけどなぁ。」
言葉で思考が淀む。今日は何かが引っかかるのだ。
「クリスマスがお勉強で終わっちゃったー… 私も恋、したかったなぁ…」
そういえば今日がクリスマスか、失念していた。僕が告白するのは、たぶん彼女にとっては違うんだろうなぁ。
「今日の君、何かおかしくないかい?少し疲れていたり…」
結局、当たり障りのない事しか言い出せない。
「え?そんな事ないよ。私は、いつも通り。」
結局、僕は何もできなかった。

…そう、何もできなかったんだ。

別れ際の曲がり角、少し暗いT字路。雪で道路が凍っていたのがまずかった。不意か、偶発か、それとも意図か。僕が去った後の道で、彼女は、車に、止まらない車に…
結局、気づかないフリだ。直視できなかった。背後で起きた現実も、自分の心中の感情も。

もっと早く気付くべきだった。言葉の重みに、目の前の感情に、糸が赤かったことに。彼女が別れ際に発した言葉は、僕の心に深く突き刺さった。明日も、明後日も、何年経っても、治らない傷を負わされただけだった。

「もう、振り返らないでね。」


天邪鬼の日記帳

Gl!nTさんには「私は晴れの日が嫌いだった」で始まって、「全部嘘だよ」で終わる物語を書いて欲しいです。複雑な気持ちになる話だと嬉しいです。

[私は晴れの日が嫌いだった]
10/13 晴れ
今日は気持ち悪いほど快晴だ。足元も調子が良い。
私は晴れの日が嫌いだった、でもそれは過去の話。今はそうでもない。

疲れないなぁ。

[寒さを感じない]
11/23 雨
冬感が全くしない。異常にも感じるが、近年の環境変化の弊害だろうか。
最近、私の中に別の人格がいる気がする。人肌恋しいわけでもないのは、きっとそのためだろう。

心が暖かいなぁ。

[なんにもない日]
12/25 雨
今日は静かで、何もない日だった。世間は各々、家族で某神様の誕生日を祝っているのだろう。
最近は、両親が家にいる時間が多い。私も、私2も嬉しい。

ひとりじゃないということだなぁ。

[世界滅亡]
1/12 晴れ
3月5日に世界が滅亡するらしい。アメリカの大統領もそれを支持してる。
世界が滅んだら、ちょっと困る。後に何も残らなくても、人以外の誰かは困ってそう。

怖くはないなぁ。

[当然の結果]
2/9 晴れ
最近、自害件数が減っているらしい。天気もこんな感じだし、予言のせいもあって、当然の結果かな。
終わりは、近いらしい。私2は怖いらしいけど、私はそうでもない。

最期を見届けたいなぁ。

[ ]
3/6 雨
いい天気だ。

「…以上が、娘さんの遺した日記帳の内容です。お母様、娘さんのせめてもの形見として、どうぞ大切にご保管くださいませ。」
遺品整理業者は、そう言って日記の主の母親にそれを渡す。
「あの子、日記なんてつけていたのね… 何が、何がいけなかったの…」
母親は泣き崩れ、そのまま喋らなくなった。

遺品整理業者は、一つだけ気がかりなことがあった。それをここで言い出してはいけないことは自明だった。
散らかったリビング、散乱しているゴミ、破られたノート、血痕、などなど。この家は、何かがおかしかったのだ。

業者は、仕事が終わればそれで関係はおしまいだ。しかし今回ばかりは、いけないとわかっていながらも行動せずにはいられなかった。
まさか日記帳の内容を撮影しておくなんて、誰が考えるだろうか。これは諸刃の剣だ。最悪、人生もおしまいだ。それでも。

#、9、9、1、0。
「もしもし、相談が…」

最後のページ、破られた破片の原本を回収させてもらった。

[ ]
3/6 雨
いい天気だ。

……全部

………全部、全部嘘だよ。

http://ja.scp-wiki.net/scp-3519 (日)
http://scp-wiki.net/scp-3519 (英原文)
SCP-3519 The Quiet Days(静かなる日々)by sirpudding
をの設定の一部を利用させていただきました。

この作品(天邪鬼の日記帳)は、CC-BY-SA 3.0ライセンスの下で利用可能です。


動的平衡の世界で

Gl!nTさんには「大丈夫?ときかれて我に返る」で始まり、「明日はきっと元通り」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字程度)でお願いします。

大丈夫?ときかれて我に返る。空想のお話は彼方へ帰る。
問題ない。と答えを返す。考えたことは無に還る。

日常に、ちょっとスパイスを加えるのが好きだ。何気ない時間の中に起きるふとした偶然。そういうものを奇跡と呼んだ。
何もない時間を、些細な奇跡にするのが好きだ。
自動ドアに手をかざして、開くのと同じ速さで手を動かす。まるで魔法使い。
耳を澄ませば、遠くの様子がなんとなくわかる。まるで霊能力者。
ふと浮かんだ詩を、なにもない空に書き下してみる。まるで吟遊詩人。
蝶が羽ばたいて、世界が崩れる。まるで、ってこれは別の現象だ。

そうやって、自分の世界で“奇跡”を起こしていく。生きていく。その瞬間だけは嫌なことは消え去る。なくなっていく。周りも見えなくなってしまうから、今日みたいなことも度々起こってしまう。
だからといって、私は楽しい“奇跡”をやめることはないけれど。
やめさえしなければ、薄らいだ日々に色を塗れる。そうやって空虚を押しのけていく。
もし目に映るもの全てが汚れてしまっても、”奇跡“の中だけは輝いている。
遊んで、創って、時には壊して、そうやってできた私の世界を、人にも見せたくなる時もある。できないけれど。見えないけれど。
触れるものより、形のあるものよりも脆い、”奇跡“の中だけの存在。一瞬を尊ぶためだけの遊具。過ぎ去れば消えていくもの。また会うためにお別れがいるもの。

明日は早起きだ。
明日はきっと元通りだ。


無機物製のAIは人間の夢を見ない

Gl!nTさんには「みんな変わってしまうんだ」で始まり、「そう小さく呟いた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字程度)でお願いします。

「みんな変わってしまうんだ。」
彼、もしくは彼女が辿り着いた結論は、あまりにも些細で、陳腐なものだった。
ヒトと身体を持ったAIが共存する世界になって、どれほどが経っただろうか。23世紀も末を生きる者たちの中には、今目の前に見えるそれが実現していない時代もあったことを知らない者も多い。

22世紀人やそれ以前の人にとっては驚きかもしれないが、AIにも生老病死が存在する。有機物を含んだ身体は、時に腐敗し、時に侵食され、時に朽ちる。だから、AIとはいえ子孫、というか後継を作る必要がある。ヒトと違うのは、記憶を他のAIと共有し、次世代に漏れなく持ち越せることだろうか。

そんな時代だから、「みんな変わってしまう」のは周知であり、陳腐でしかないのだ。電源不要、食事を摂る、夜になれば寝る。ヒトと変わらないAI達を眺めながら、
「スイッチ、切りませんよね、博士。」
その電源一つで、24世紀が幕を開ける。彼か彼女か、性別のない人工無脳は、そう小さく呟いた。


宛先のないラブレター

Gl!nTさんには「君の好きな歌を口ずさんだ」で始まり、「明日はきっと優しくなれる」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば1ツイート(140字程度)でお願いします。

君の好きな歌を口ずさんだ。
君の好きな本を読んだ。
君の好きな味を噛みしめた。
君の好きな香りを漂わせた。
君の好きなペンを握った。

君に触れことはもう叶わないけど、君の好きな優しい心が私を包むんだ。君の好きに包まれたなら、私だって明日はきっと優しくなれる。

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