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Windy City miracle  時事英語 #8

by 古家

まずはこの動画を見てほしい。
アメリカのMajor League Soccer(MLS)で現地時間3月17日土曜日(日本時間では翌日曜日)に行われたシカゴ対モントリオールの試合からだ。左上の時間表示にもご注目を。試合はすでに90分を経過し、9分のアディショナルタイムも尽きようとしている。

シカゴは前半のうちに2失点し、1点は取り返したものの後半にさらに失点。1対3の2点ビハインドから立ち直ったのは82分に相手チームの選手1人にレッドカードが提示されてからだ。その2分後に2対3とし、試合終了間際の90+5分にようやく追いついた。さらに4分後、上記の動画はまさにラストワンプレーだっただろう。

動画に添えられているテキストはTHAT'S WHY THEY CALL IT THE WINDY CITYとしているが、Windy Cityとはシカゴの街のニックネーム。ミシガン湖から吹きつける強い風はたしかに街の風物詩だが、一方で気位が高く尊大な(windy、full of wind、blowhard、windbagなど、すべて同様の意味)シカゴ人気質から生まれた表現だという説もある(*1)。

MLSの公式サイトでもWindy City miracle!と報じている(*2)が、こちらではlast-ditch service into the box than a shot on target とも伝えている。last-ditchは「最後の、土壇場での」。シュートというよりいわゆる「放り込み」だったようだ。

ゴールを決めた当のアコスタ選手も試合後のインタビュー(*3)で、「シュートではなくとにかく前線にボールを送りたかっただけだ」と述べている。それがゴールに入ったことについては、「風のおかげもあるけど、St. Patrick’s Day luckがあったんだろうね」とも。St. Patrickとはアイルランドの守護聖人、聖パトリックのことで、例年シカゴでも盛大なパレードなどが行われるその祝日(*4)はこの日曜日だった。

luckということばが出てきたところで僕が連想したのはhail Mary passというフレーズ。もとはアメリカンフットボールの試合で負けているチームが土壇場での一発逆転を狙ってイチかバチかの無謀なロングパスをゴールラインに向かって投げるプレイのこと。パスが通ってタッチダウンが決まればもちろん大喝采だが、やっぱり無理だったねという結果になることが多い。バスケットボールのbuzzer beaterも似たようなものだが、こちらの用語は特にシュートが決まったときに使われる(*5)。

hail Maryというのはラテン語のアベ・マリアの英語訳(*6)。「マリア様、お願い!」という気分だろう。イギリスのDaily Mail紙がロイター電として伝えている記事(*7)の見出しではAcosta scores PRAYERと表現している。わざわざ大文字にしているこのPRAYERこそ、hail Maryの本質。勝利への執念がこもった「祈り」だ。

アコスタ選手にとっては、今年シカゴに移籍してきてこのチームでは初めてのゴールだったそうだ。アシストは映像を見れば明白だが、ゴールキーパーのブレイディ選手についている。アコスタ選手は先述のインタビューで「彼にとっては初めてのアシストだろうから、おめでとう!」と言及している。クラブにとっても今シーズン4試合目で初勝利。それがこんなに劇的な展開だったのだから、サポーターはさぞかし狂喜乱舞したことだろう。

*1
history.com, Collins, Merriam Webster

*2
MSL公式サイト

*3
クラブ公式サイト

*4

*5
https://www.sports-reference.com/blog/2020/02/buzzer-beaters-explainer-html

*6
dictionary.com

*7
https://www.dailymail.co.uk/sport/football/article-13205459/Chicago-Fire-Kellyn-Acosta-CF-Montreal-goal-MLS.html

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