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パン職人の修造46 江川と修造シリーズ スケアリーキング

パン職人の修造 江川と修造シリーズ スケアリーキング

*このお話を読む前に

パン職人の修造は全てフィクションです。実在の人物や店舗、団体などとは関係ありません。「パンと愛の小説シリーズ」には素晴らしいパンの世界が毎回違った形で出てきます。読んでいるとひょっとしてパンに詳しくなれるかもしれません。今回はどんなパンが出てくるのでしょうか。



*スケアリーキング*

田所一家は、修造の妻律子の実家がある長野県長野市に来ていた。

律子の実家は東京駅から北陸新幹線はくたかに乗り長野駅で降りてから、レンタカーを借りて、車で一時間の山の上にある。

トマトやレタス、セロリなど育てている農家だ。

修造にとって義理の父 高梨厳(たかなしいわお)と義理の母 高梨容子(ようこ)は内心修造をよく思っていない。
修造がドイツに行ってる間、しょっちゅうアパートに来て律子に離婚して実家に帰ってくる様に言っていた。なので修造も足が遠のいていたが今回律子の勧めもあって「嫁の実家にお泊り」なのだ。


そんな中、律子の妹その子だけは優しい。

「修造兄さん、運転お疲れ様。お姉ちゃん、緑ちゃん、久しぶり」その子が明るく声をかけてくれるのでホッとして修造は車から降りた。

「その子ちゃん、パン王座決定戦の時は野菜を持ってきて貰ってごめんね」

「良いのよ、役に立てたなら嬉しいわ。中へどうぞ」



「緑ちゃんや〜こっちおいで、さあさあお入り。ケーキを買ってあるんだよ」

厳と容子は修造を無視して緑を中に招き入れた。可愛い孫にぞっこんメロメロだ。


「あの」

「はあ?」

修造が挨拶しようとしたが、厳の目は三角になっている。

こわ

そこで容子に挨拶する事にした。

「ご無沙汰してすみません」

「ほんと、久しぶりだわね。長い事どこに行ってたのか知らないけど。ま、お入りなさいよ」


こわ

もう帰りたい。


しょんぼりしている修造の背中を律子が押して中に入れた。

「ごめんね、うちの親が」

「律子、違うんだよ。悪いのは俺なんだ」

「いつまでも言ってるうちの親に問題があるわよ」

「お父さんお母さん!修造は緑の大切なお父さんなのよ」

「わかってるわかってる」二人の返事はおざなりだ。


律子の生家は広い敷地の農地が見渡せる真ん中にある三階建てだ。

皆、一階にある和室の居間に移動して座った。

大きめの机が置いてあり、その周りに座布団が敷いてある。

修造は厳と対極の端っこに座った。

「はい、どうぞ」その子はお茶を入れてきて配った。

律子はみんなが座ったのをみて「あの」と切り出した。

「どうした、とうとう帰ってくる気になったのか?」

「まだ言ってるの?」

「ちょっと、なんなの会ったばかりなのに!」

その子はテレビをつけて場の空気を変える事にした。

「ほら、パン屋さんがテレビに出てるわよ。あ、この人NNテレビのパン王座決定戦で一緒に出てた人じゃない?」

お昼前の奥様向けの情報番組にブーランジェリータカユキのオーナー那須田シェフが出ている。

美しいクロワッサンや、目にも鮮やかなバイカラークロワッサンを紹介している。

バイカラークロワッサンは生地の表面に赤や緑の色付きの生地を重ね、巻くと色付きの生地とバターの層がくっきりと綺麗なパンの呼び名だ。

修造は急に顔つきが変わり、真剣に見だしたのを律子は見逃さなかった。


律子の解析はこうだ


那須田シェフだ!

この店はクロワッサンが有名なんだよ。

今度の一次審査にもヴィエノワズリーがあるんだ。

店の場所は上越妙高駅近くか。

ここから結構近いな。

行って色々教わりたいけど、今それを言うわけにはいかないな。。


律子は超能力者の様に全ての表情を見てとった。

「良いわよ修造」

「えっでも」

急に始まった二人の会話に驚いた厳が修造を睨んだ。


「何が良いんだ」

「いえ、なんでもありません」修造は小さくなってペコっと頭を下げた。

「修造は今から上越妙高駅に用があるんですって」

「長野駅に車を置いて行けば良いわ。私達はここでのんびりしてるわよ」

それを聞いて厳は急に気が変わった。

大嫌いな修造がいなくなるし緑を独り占めできるし。

「行ってきなさい。用が済んだらすぐ帰ってこいよ」

「はい!すみません」


修造は言うが早いか長野駅で借りたレンタカーのキーを握った。


「律子ごめんね」

ふふ。良いわよ修造。

どうせ行っちゃうんだから。

あなたはパンの事になるといてもたってもいられないのよ。

「気をつけてね、戻ったら話したい事があるの」

「うん」

律子は修造の背中を見送った。


つづく

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