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【引越しツバキ 5】

朝、椿が家を後にするのを桂介は見送る。
そして、桂介は家事をする日々。
「ありがとう。」
帰宅した椿にそう言われるのが、桂介の報酬だ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

そして、家事を終えると…桂介はSNSで友達と連絡をとる。

桂介は友達が少ない。
学生時代の友人というのは、今でも多少なりと付き合いはあるが、こういった趣味を共有するようなタイプではなかった。

そんな中で、色んな自分をさらけ出せたのは椿。
椿は自身が桂介にさらけ出していた分、桂介も椿に自身をさらけ出した。

年甲斐もなく、ゲームやアニメが好きな事を狭い世間では良しとしない人間はごまんといるのだ。
ただ、2人はそんな部分も認めあえた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

桂介に初めて出来た友達は『ヨル』
SNSでの桂介は『kei』と名乗っていた。
一緒のタイトルをプレイしている事、やりとりが楽しかった事。

「はじめまして、ヨルです~。」
桂介の鼓膜を若い声がくすぐる。
「……あ、はじめまして。keiです!」
初めての通話をしながらのゲームをプレイする事に、緊張で声を震わせる桂介。

これが、ヨルとの出会いだった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

ヨルとは日々、通話しながらのプレイをするようになった。
ゲームの話は勿論、なぜ昼間に時間があるのか…それを互いに話していく。 

ヨルは桂介より若く、24歳。
正直なところ、感性でつながった友達であった為、年齢は気にしていなかった。
彼女も求職中で主夫はしつつも桂介も同じ立場。
同じ立場という共通点が、桂介の気持ちを軽くしたのだった。
そうして傷を優しく撫でるヨルは、簡単にディープな存在になっていく。

――3ヶ月の月日はヨルと桂介の親密度を濃くするには充分すぎる時間だった。

椿が帰宅すると桂介とヨルが通話している事が増えた。
ヨルの存在は椿も知っていた、桂介と3人で通話する事もあり、ヨルとは次第に仲良くなっていた。
桂介の友人になってくれてありがとう、そういう気持ちでいた椿。

桂介の顔に笑顔は戻った。
しかし、桂介の態度に少しずつ変化が起きていた。

2人で久々にちょっとした遠出をした際の出来事だ…
――桂介はずっと携帯を眺めている。
観光地での写真、食事の写真…それを、昼食の時間や夕食の時間にせっせとSNSにアップする桂介。

椿はほとんど会話のない旅行に、イライラが募っていた。
「ねぇ…まだ携帯いじるの?」
「……ん」
椿の声が届いていない、浮ついた返事に椿は腹を立てた。
「そんなにSNSが楽しいの…?夕飯くらいは会話できると思って何も言わなかったけど、いい加減にしてよ!」
はっとした桂介は、携帯を置いて「ごめん」と呟く。

「椿との久々の旅行で楽しかったから…今日の写真を、他の人にも共有したかっただけなんだ…」
桂介の言い分を、椿は理解できなかった。
椿はその今日を楽しく過ごせたかと言うと、そうではなかったからだ。

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