【引越しツバキ 3】

「お前はこんな事もできないのか、非常識なやつだな。」
「お前は俺の秘書だろ。」
「口答えするな!」

新人で気の弱い桂介に付け込み、営業部長は桂介にひときわ強く当たった。
桂介は秘書ではない営業マンだ。自分の雑務を桂介に押し付け、質問をすれば口答えだといって答えない。

次第に営業部長は、桂介という人間を理解していないにも関わらず人格をも否定するようになっていった。

桂介は「何を言っても…聞いてもらえないんだ。」そう思い、
「はい、かしこまりました。」
そう言っては、営業部長に耐える日々を送っていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

桂介はうなだれて帰宅する日々が続いており、椿に会社の話をしていた。
ただ、椿も桂介の状況をどうにか改善したかった為、アドバイス的な発言をしたのだ。
「そんな事はできない、自分は発言する事すら許されないんだ…」
「でも…桂さんが、何か行動しないと状況は変わらないんじゃないかな。」
桂介の「ただいま」からタメ息をなくしたい。それだけが椿の望みだった。

しかし、桂介にとって椿の言っている事は至極難題で、自分の欲しい言葉も対応もしない椿。
「俺はアドバイスが欲しいわけじゃない!ただ話を聞いてくれるだけでいいんだ!」
大声で怒鳴るように威圧した桂介。

「…そう、ごめんなさい。何とか良くしたかっただけなんだけど…私が悪かったね。」
良かれと思っていた事は桂介にとってはマイナスであった事で、椿は自分を責めた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

――あれから半年が経った、かわりばえのない朝。
トボトボと椿に歩みより、虫の鳴く声で桂介は言葉をこぼした。
「…仕事にいきたくない…」
桂介が否定されていると感じないように努める椿は、
「うん、じゃあ今日はゆっくり休んで。」
そう答えた。

しかし、桂介の中で『自信』のゲージは少しずつ減っている。
この『自信』のゲージの中身というものは始めから、総量が多くはなかった…
椿が思うよりもはるかに、桂介のダメージは致命的だったのだ。

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