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【引越しツバキ 4】

――それから、月日は流れ椿は29歳。桂介は33歳。

この頃には、月に数回は仕事を休むようになっていた桂介。
上司の桂介に対する扱いは他の社員にも伝播していた、それに触発される古株の社員達。
そう教育されてきた社員は、そういう教育方法しか知らないのだ。
「はい、かしこまりました。」
それしか発言ができない桂介は、ただ耐える事しかできない。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

椿はと言うとひたすらに仕事に励んだ、とうとう桂介が体調を崩したからだ。
朝の出勤時間になると、とてつもない腹痛に襲われるようになっていた桂介。

はじめの頃はチクチク…
それは次第と強さを増し、縫い針だったものが千枚通し、そして牛刀へと姿を変えて桂介に痛みを与えた。

桂介の通勤は車である。
運転中にそんな痛みに襲われては、必死に耐えていた。
しかし、そんな状態で仕事などまともに出来るわけがない。
車の運転も出来なくなる程の痛みに桂介は限界を感じたある日、病院へと車を走らせた。
そこで告げられたのは十二指腸潰瘍という病名だった。

「もう、我慢して続けなくていいよ。私が仕事を頑張るから。」
それを聞いた椿は、桂介へ退職を促す。
「……うん、ごめんね」
俯いたまま桂介はそう答えた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

こうして、罵倒される日々から解放された桂介は『主夫』となる。
ターニングポイントは桂介のこの主夫生活から始まった。

椿は桂介との生活の為に、自分が頑張れば良いと考え仕事に勤しむ。
桂介は椿の帰りを待ちながら家事をしていた。
しかし、家事といえど2人暮らしという事もあり、1日という時間を消費する程の工程などはない。

なので、桂介はそれまで数回しか触れていなかったともいえよう、ゲーム機に手を伸ばす。
どちらかと言えば今までは、椿が主に使用していたものだ。
桂介も全くではないが、稀に使用してはいた。
この時はなんとなく、その時間を消費するには手軽に感じた。
今まではやろうという気力もなかっただけで、今は時間も気力もあるのだから。

帰宅すると食事の準備を済ませた桂介が出迎える。
TVにはゲーム画面が映っていた。その姿を椿は受け入れた。
毎日、落ち込んで帰宅する桂介よりも楽しく過ごす桂介の方がいいに決まっている。
家事もしてくれて、笑顔の桂介がいる事で椿にとってメリットしかないからだ。

しかし、桂介はここで欲が出た――誰かと一緒に楽しみたい。
そこで桂介はSNSを始め、そこで『友達』を探し始めたのだ。

#小説 #恋愛 #創作 #SNS依存症 #オムニバス #ゲーム依存症

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