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【休日と銀座】歩いて考え、考えてまた歩く

仕事は休み。ゴンチチのアルバム《PHYSICS》をBGMにパスタを茹でたら、パスタと同時に理想的な“休日の昼下がり”も仕上がった。

午後、地下鉄にのって銀座をめざす。

図書館で借りた『コーネルの箱』というふしぎな本を拾い読みしていたところ、“1947年1月24日にコーネルがやったこと”という文章が目にとまった。それによると、ジョセフ・コーネルもまたこんなふうに電車でクイーンズの自宅からマンハッタンまで“通った”らしい。

有楽町の駅で降り、銀座を歩くつもりが気が変わって東京駅まで歩くことにする。こんなふうに快適に歩くことのできる日って、一年のうちに何日くらいあるだろう?そんなにはない気がする。そういう意味でゆくと、きょうは数少ないうちの一日。

東京ステーションギャラリーで春陽会の展覧会。

さすがというべきか、地味な企画だけにとても空いている。なによりカシャカシャというシャッター音が聞こえないのがいい(撮影不可だったのかもしれないが)。いつも思うのは、みんなあんなに熱心に絵を写真に収めているけれど、家に帰ってからも何度も見返したりするのだろうか? 絶対に見返さない自信があるので僕は撮らない。せめてSNS用に一、二枚は撮っておいた方がよいのだけれどそれすら忘れる。


春陽会という組織については名前くらいしか知らなかったのだが、近代日本の洋画が好きなので見ごたえがあった。会としての全体像はつかみにくいが、ひとりひとりの個性で際立っていた。一匹狼の集団といった印象。

別れた妻は美術の仕事をしていて、一枚の絵を評価するのによく“この絵には力がある”という言い方をしていた。きょう、カンヌを描いた梅原猛や中川一政の駒ヶ岳、あるいは鳥海青児の黒々とした畑の絵などを見てその意味がわかった気がした。どれもモチーフとしてはありふれたものだが、思わず前のめりになってしまうような見る者を惹きつけてやまないエネルギーが感じられる。

丸の内から八重洲側へ。連絡通路にはたくさんの旅行客の姿。東京駅に来るたび、どこでもいいから旅をしたくなる。

赤信号。平日の八重洲界隈は近隣ではたらくビジネスマンやOLが7割、外国人観光客が2割といったぐあいで、僕のようにいかにも休日といったいでたちの人間はほぼみあたらない。一斉にひとが動き出す。再開発の工事現場からはさまざまな金属音。


このあいだ蔦屋書店でみかけた韓国の小説がずっと気になっている。ところが、作家の名前はおろかタイトルすら憶えていない。表紙を見れば思い出すかもしれないと丸善に寄ってみたのだが、やはりわからなかった。チラ見する程度にしか興味がなかったはずなのに、ここまでわからないとかえって気になってしまう。

あきらめて日本橋高島屋の地下に向かう。先日、こんぶ土居という関西のブランドの「10倍だし」という商品がすごく旨いという話を聞き気になっていたところ、東京では日本橋の高島屋で買えるらしいということがわかった。そこで探してみたのだが、あると聞いていた場所にみあたらない。あるいは、売り切れてしまったのかもしれない。どうしても欲しかったわけでもないのに、ないとなると無性にほしくなるのはどういうわけか。そしてきょうはどうやらそういう日らしい。

太陽もだいぶ傾いてきた。こちらもあきらめて、京橋界隈をキョロキョロしながら地下鉄の銀座一丁目をめざす。


ひっそりとハーマン・ミラーのショップがあるのを発見。前からあったっけ? 雨の日にショーウィンドウを撮ったらいい感じの写真になりそうだ。

並木通りを、とても大きな声で話す老人がふたり。耳が遠いだけかもしれないが、ひさしぶりにおたがい元気で再会できたことがうれしくて声がつい大きくなってしまうのかもしれない。そうだったらいいな。満足したのできょうの散歩はここまで。


帰宅後、本棚から洲之内徹の“気まぐれ美術館”シリーズを引っ張り出して拾い読みする。僕は、この稀代の目利きとしても知られる作家のエッセイとも私小説ともつかない文章を読むのが好きなのだが、そのなかにきょう展覧会でみた画家たちとのエピソードや作品のことがいろいろ書かれていたのを思い出したのだ。

岸田劉生、木村荘八、萬鐵五郎、原精一、岡鹿之助など。とりわけ鳥海青児の“うづら”という絵を手に入れた話は何度も読んでも面白い。いい絵とは“買えなければ盗んでも自分のものにしたくなるような絵”のことであるという言葉を地でゆくようなエピソード。


夜、イ・ヒョリの新曲が公開されていた。僕は、彼女が済州島の自宅を一般の視聴者に開放したリアリティ番組《ヒョリの民泊》を通してその気取らない人柄の魅力にふれた一人だが、肩の力がいい感じに抜けたとても心地いい楽曲でいかにも彼女らしい。何度かリピートして楽しんだ。

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