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だれもが自らの意志で、選択し生きることができるように③セルフアドボカシー

施設から地域サービスへの転換をテーマに、スウェーデンをはじめとした、海外の取り組みを紹介し、日本の今後の制度、サービスのあり方について考える、シリーズ3回目になります。興味ある方は、①、②もご覧ください。

今回は、当事者によるセルフ・アドボカシー活動(自ら権利を獲得し、擁護する力を与えられること〈エンパワーメント〉)について取り上げていきます。すでに、日本でも活動している、ピープルファーストは、アメリカとカナダでその活動をスタートしました。現地でどのように政策や地域サービスに参画し、差別と闘ってきたのか取り上げていきます。またスウェーデンの当事者活動についても書いていきたいと思います。


1.当事者によるセルフアドボカシー活動

(1)カリフォルニアピープルファーストの活動

①カリフォルニアピープルファーストについて

1973年、アメリカのオレゴン州で約500人の知的障がいを持つ人が集まり、この場で一人の参加者が、「障がい者」でなく「まず人間としてあつかわれたい(I want to be treated like people first」と発言しました。この言葉は多くの参加者の共感を得て、ピープルファーストという名で活動するグループが州内の各地で誕生しました。

知的障がいを持つ人々が声をあげるきっかけとなったのは、スウェーデンで1960年代後半にノーマライゼーション(どんなに障害が重くても普通の生活ができるように環境を整える)の理念に基づいた政策が実施されたことに始まります。そのために、社会は環境を整備すべきだという考えが広まりました。その後、スウェーデン各地で、当事者が集まり、自分たちで議題を選び、自分たちのペースで議論を行ったと言います

ピープルファーストの理念は、セルフアドボカシーで自分の意見や感じ方を尊重し、権利や主張を社会に伝えていくことです。ピープルファーストの活動はその後アメリカ、カナダの全土に広がりました。

②ピープルファーストと州の連携

1983年、アメリカ、カリフォルニア・ピープルファーストは州の審議会に対して以下についての契約を結びました。

①当事者を対象としたサービスに関するニーズ実施
②ニーズ把握のために、直接当事者から情報を引き出すためにどうしたらよいか、その方法を考えること
③セルフアドボカシーのグループのリーダーになるためのノウハウを考え出すこと
④これらの調査に基づいて、当事者が自らの人生の決定にどうしたらもっと積極的にかかわっていけるか、その方法を考え出し、報告書を制度を管理する立場にある民間、公共機関、政策決定機関に提出すること

調査チームは、地域の居住施設と職場を訪問し、当事者、家族、サービス提供者にインタビューしました。こうして1984年に出版された報告書は、国外の当事者、福祉関係者に衝撃を与えました。「遅れ」をつくっているのは、それぞれが持っている障がいより、むしろ環境であることが明確になったからでした。

③遅れを招く環境

「遅れを招く環境」によって、知的障がいを持つ人は、自分が価値を低められ、自らに自信が持てなくなっていること、そのため、自分の感情や考えを肯定し、表現することに自信が持てるようになると、自分の人生における選択・決定を自分の意志で行うことができるようになるのだと、多くの人が気づかされたのでした。

遅れを招く環境とは、例えば、知的障がいのある人が、まるで子どものように扱われている状況、また作業所という環境についても、ある当事者は「知的障がいの人ばかりが集まっていて、どんな風にふるまっていいかお互いにまねしあっている感じがする」と語っています。

しかし、新たな課題も起こっていると言います。自分自身で生活を管理して、家事をし、様々な支払いや交通機関の利用もできるのに、孤立し、人間関係ができないことに気づき愕然とするというのです。知的障がいのある人が自分の趣味や興味に合った、障がいのない人たちとの交流の機会を持てることが求められます。社会への参加が進むことで、誤解や差別の軽減にもつながっていくでしょう。

④家族への支援

調査では、地域社会で、遅れを招く環境に置かれず、自身の意思に基づき生活している人もおり、家族や地域に支えられ実現していることがわかりました。障がいをもつ子どもと暮らす家族にとって、サービスについての情報を知り、地域のサポートネットワークにつながることは、とても大切です。家族が疲弊せず、安心して生活できる援助は、次の世代のためにもぜひ必要なのです。

また、成人した、当事者にとっても、慣れ親しんだ地域で生活を続けることは、とても大切なことだと思います。独立した生活を送る場合と同様、家族と同居を希望する場合もまた、本人、家族への十分な支援を充実させることが不可欠です。

⑤プロテクション・アンド・アドボカシー(保護と権利擁護)

当事者の権利が守られるために、国の補助金によって各州にプロテクション・アンド・アドボカシーが設立されていることにも、着目したいと思います。この団体の活動内容は

・当事者の権利が守られているかどうかの監視
・障がいを持つ人を対象としたサービスに関する情報提供と紹介
・虐待、人権侵害などのケースを被害者の立場から、法律をもって弁護する
・教育分野におけるオンブズマン(行政を監視、調査し救済の勧告をする第三者組織)の提供

これらの活動において、強調しておかなければならないことは、常に当事者中心で立案され、進められていることです。当事者の意見を聞くということが徹底されていることに、大きな衝撃を受けました。私自身の意識も見直しを迫られた感じがしています。

(2)スウェーデンの当事者中心活動

スウェーデンにおける障がい者政策は、深く根ざした大衆運動の伝統に影響を受けてきました。彼らの運動は、広報、世論形成、政治的に重要な障がいの問題について、国や地域に働きかけ、協力関係のもと政策立案、問題提起、障がい者自身の参加を通じて解決に向け、努力しています。また、そうした活動に国や地方自治体から財政的な支援を受けています。

これらの団体は、当事者によって運営、統治されています。担当当局にとっても、この問題の貴重なアドバイザーとみなされ、各団体の代表者は、障がいに関する重要な立案のための作業グループや調査委員会に、参加しています。

当事者を支える支援者、家族がセルフアドボカシーの重要性を認識し、彼らを応援していくことが必要なのだと痛感します。次回は、当事者視点での支援のあり方について取り上げていきたいと思います。

※以下が参考文献です。


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