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だれもが自らの意志で、選択し生きることができるように⑤当事者の声から

施設から地域サービスへの転換をテーマに、スウェーデンをはじめとした、海外の取り組みを紹介し、日本の今後の制度、サービスのあり方について考える、シリーズ5回目になります。ご興味ある方は、①、②、③、④もご覧ください。

今回はピープルファースト東久留米が出している「知的障害者が入所施設ではなく地域で暮らすための本」当事者と支援者のためのマニュアル、から当事者の望むくらしと支援について考えてみたいと思います。この本は、2007年6月に発行されたものから増補改訂され、2010年に出されたものです。改訂版は、制度が変更になったため、そして自立生活をされていた方、2名が亡くなられたという悲しい出来事についても書かれています。それでも自立生活を希望する仲間たちのためを思い、このことが、なぜ起こってしまったのか、くり返さないために何が必要なのかを真摯に考え、つづられています。今回は、この内容からも学ぶことが非常に多かったので、ご紹介していきたいと思います。


1.ピープルファースト東久留米について

アメリカ、カナダで広がりを見せた、当事者によるピープルファーストの活動については、「だれもが自らの意志で、選択し生きることができるように②と③で書きました。2004年には、ピープルファーストジャパンも結成されました。

ピープルファースト東久留米は、地元にピープルファーストを作りたい、全国にこの活動を広めたいという願いからつくられました。現在では、施設を出て地域で生活したいという仲間の支援、日常生活の相談や、仕事や楽しみのための余暇活動に取り組んでいます。また、地域で自立生活を実現するための制度のあり方などについて、議員や省庁への働き掛けも行っています。

2.当事者が体験を通じて感じていること

①支援者へ望むこと

病気などの健康管理、お金の管理、生活における安全など、すべてを本人の責任とすることはできず、そのために支援は必要になります。そのため、様々な支援者が当事者に意見を言うことは避けられないのですが、そこは常に、当事者のプライベートな領域に関わるという意味で慎重に考え、議論する姿勢が重要だと記されています。そのうえで、以下の点をぜひ、考えてほしいというのです。

・支援者は他の支援者から口出しされたくないという狭い発想にならず、広く意見を取り入れられるようにする
・自分が問題と感じること、なぜそのような発想になるのかをいつも自問しておく
・周囲からの批判に左右されずに自分で責任をもって判断する
・判断の理由、根拠を当事者、周囲に十分説明できるようにする

②恋愛や結婚への支援

さらに、恋愛や結婚の支援についても取り上げられています。交際中、または結婚しているカップルの相談にのること、また恋愛における様々な経験の中で努力や反省を繰りかえすなかで、当事者の気持ちを聞いたり、支えていくことが求められていると語られています。また、結婚後、出産を迎えるカップルには、その後の子育て支援も必要になります。

3.施設や親元から自立するまでのマニュアル

施設や親元から離れ、自立を望む当事者のためのマニュアルも記されています。

まずは、相談、支援団体探し、その後の施設や家族、行政担当者との話し合い。そして、具体的な住まい、日中の活動の場所、仕事さがし、利用できる制度の活用、自立生活体験プログラムの利用など、非常に具体的に書かれています。

さらに、同様の内容で、支援者が当事者の立場でに立ち、どのように地域移行支援を進めていくことが必要か、支援者へのマニュアルもまとめられています。

4.支援の失敗から学ぶ

ピープルファースト東久留米のメンバーである女性2人が、1人は誤嚥による窒息で、もう一人の方は自死により、亡くなったという非常に重い出来事から、同じことを繰り返したくないと議論を重ね、整理し、見えてきたことは以下のことでした。

①1つの団体が抱え込むこと

支援は、はじめは複数の事業所が関わっていたのが、だんだんとピープルファーストに集中させてしまった。そのことで、支援者も当事者も視野が狭くなり、お互いに逃げ場がなくなり、状況が悪化したと言います。

②本人の力を弱めてしまうかかわり

本人がやってうまくいかないときに、先回りして支援者がやるということが当たり前になってしまい、当事者は「どうせ自分は何もできない」と自尊感情が失われてしまった。

③男性と女性の違い

女性介護者が1対1で介護に入ることができなくなり、代わりに男性介護者が入ったが、「女性である」当事者という世界を支えるのに十分ではなかったと振り返っています。

女性にとって、女性同士のコミュニケーション、恋愛関係、家族との関係の比重は、男性より、より大切だと感じたとここで書かれています。

④精神科医療とのコミュニケーション

生活の支援が限界となった時、例えば支援者がもたなくなった、当事者の精神状態が不安定な場合の治療、入院の必要性がここでは強調されています。

知的障がいのある当事者にとって、支援の限界が本人の命の危険にもつながりかねないという厳しい現実が垣間見えます。

一方では、支援者の不足という福祉現場では恒常的な課題も影響しているかもしれません。

⑤支援の限界

ピープルファースト東久留米では、1対1の介護を最大毎日24時間行ってきました。しかし、介護者と当事者だけの関係性には息苦しさも生じてしまい、また、介護者への期待や依存が強くなりすぎる状況もうまれてしまう。そのため、介護者がもたなくなってしまうのです。

また、支援者にも自身の生活、人生があり、自分の何かを犠牲にするような支援は長続きしないという現実も記されています。

⑥家族関係、恋愛・結婚

本書では、家族が本人の幸せを願うあまり、保護的なかかわりとなり、将来を案じて施設に入所の形をとることが、本人が人生を決めることを妨げてしまうという状況も指摘しています。

本人が親元から、また施設から自立を考えるとき、本人の意向を優先するために、また本人を守るために、家族との距離をとるケースもあったそうです。そのことが最後のライフラインを断ち切ってしまうことにつながってしまったと、ここで語られています。また、恋愛や結婚という形で新たな家族を持つことの大切さにも触れられています。

たとえ離れていても、家族という存在がどれほど大きな意味を持ち、無意識にでも本人を支えているか、当事者にとっての家族の重要さが、この部分で強く語られています。

この章では、支援者が先回りせずに待つ姿勢の大切さとともに、日々をどう乗り越えるかだけでなく、10年単位の長い目で見るという視点が必要だと語っています。そのことで、支援者が、相手の変化や成長を長い目で待てるようになるというのです。

支援に携わっていると、これでよかったのかと反省させられること、また、支援者自身が追い込まれてしまう場面も生じるのが実際だと思います。このことに向き合うことには、つらさもあったと思います。しかし、この出来事から、大切なものをこの本を手に取った人々に伝えてくれたと、私は感じました。

5.映画「みんなに伝えたいことーピープルファースト25年の歩みー」

3年前になりますが、ピープルファーストの歩みを取り上げた、映画「みんなに伝えたいことーピープルファースト25年の歩みー」が製作されました。現在でも、Web配信(有料)されており、いつでも見ることができます。参考までに予告編ムービーを貼っておきます。ご関心のある方は、ぜひご覧ください。

※以下が、今回取り上げた「知的障害者が入所施設ではなく地域で暮らすための本」当事者と支援者のためのマニュアルです。


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