見出し画像

中小企業の技術力をイノベーションに変える「ひろしまビジネス実験部」:広島県×GOB

モノづくりで知られる広島県には、高い技術力や資源を持つ企業が数多く存在します。しかし1社のリソースだけで新規事業やイノベーションを生み出すのは簡単ではありません。

そんな中、オープンイノベーションの考え方を基礎に、そうした企業間の連携を進めるのが広島県主催の「ひろしまビジネス実験部」です。

GOB Incubation Partners(以下、GOB)も、2017年のプロジェクト発足から現在までプログラム全体の運営に携わってきました。

3年目の今期は県内の中小企業8社がプログラムに参加。製品レベルに近いプロトタイプを作り上げ、2月19日に開催した「デモデイ」では温めたアイデアを発表しました。

これまで3年間のプロジェクトの変遷や成果を、広島県商工労働局 イノベーション推進チーム イノベーション環境整備グループの松田敦子さん(産業振興監)、同チームの山本照久さん(参事)、同じく松尾香太郎さん(主事)に聞きました。 

左から、松尾香太郎さん、山本照久さん、松田敦子さん

6ヶ月でプロトタイプまで、イノベーション立県を目指す「ひろしまビジネス実験部」

──まずは、「ひろしまビジネス実験部」のプロジェクトの概要や特長を教えてください。

松田敦子さん(以下、松田):「ひろしまビジネス実験部」は、県内のものづくり企業を対象とした新規事業開発プログラムです。6ヶ月の期間中全7回程度のプログラム参加によるレクチャーと、その他メンタリング等のサポートを受けながら進めます。プログラムの成果は「デモデイ」で発表し、その後の製品化に向けたフィードバックを受けるところで一旦の着地となります。

オープンイノベーション型で進めること、リアルな企業課題を背景に、単なる勉強会ではなく製品化までをスコープに入れている点が特長です。

──「ひろしまビジネス実験部」を立ち上げたねらいはどこにあったのでしょうか?

松田:広島県は「イノベーション立県」の実現を掲げていまして、私たちは特に、イノベーションが持続的に起こる環境整備をミッションとしています。

「ひろしまビジネス実験部」もそうしたビジョンの実現に向けた取組みの1つです。実験部は広島県内のものづくり企業を対象とした約6ヶ月間のプログラムで、課題発見からプロトタイプの制作までを行います。

参加企業に共通しているのは、経営者を含め,全社をあげて新規事業の立ち上げにコミットする意志を持っていることです。そうしたモチベーションの高い企業による新機軸の製品サービスの開発などをサポートしたいと考えています。

──広島県というと「モノづくり」のイメージが強いですよね。

松田:そうですね。広島県の製造品出荷額は、中国・四国・九州地方で14年連続1位です。これからは「モノづくり」から「コトづくり」の視点が重要であると言われています。昔から培ってきたモノづくりの経験や技術力は活かしつつも、そういった視点も意識することを,プログラム全体を貫く大きな思想の1つとして持っています。

──実際に実験部に参加している企業や社員の印象はどう見えていますか?

山本照久さん(以下、山本):規模でいうと50人〜100人ほどの中小企業が多くを占めています。新商品や新規事業に対するモチベーションが高く、アイデアの種をすでに持っていたり、試作品を作っていたりといったところが参加しています。

同時に、会社や代表の方針としてだけではなく、現場もそれに賛同して、力を合わせてやっていこうとする意欲がある企業ばかりです。

プログラム1年目はアイデアの“その後”が課題に

──2020年で3年目となる実験部の取り組みですが、継続的に取り組む中で、プロジェクト自体にも変化はあったのでしょうか?

松田:昨今、「オープンイノベーション」という言葉をあちこちで聞きますよね。これは、企業と企業が共感をベースに結びつき、共にこれまでになかった何かを作っていく、という考え方ですね。

先にもお話しした通り、実験部では「オープンイノベーション」をプログラムの根幹の1つに据えていますし、前提ではありますが、一方で出口のデザインの重要性も感じています。

プロジェクト1年目には、オープンイノベーションの潮流を素直に受け取り、テーマごとに参加企業がコンソーシアムを結成して1つのアウトプットを作っていこうという建て付けにしていました。プログラムが終了した後に、提案した事業コンセプトを誰が引き受けて進めるのか、誰が資金を出すのか、といったところにまで目を向けていなかったのです。

プログラム3年目の進化 ── オープンイノベーションは前提、製品をいかに世の中に出すか

松田:そこで2年目からは、世の中にいかに出すかを重視したプロジェクト体制を整えます。例えば企業同士でチームを組む際にも、プログラム終了後に誰がオーナーシップを持つのかなどの意思を確認したうえでチームビルディングを進めたのです。一方で、ここでも新たな課題が見えてきました。新しいアイデアを生み出す、事業コンセプトを作るというところにはフォーカスできても、やはりその先のことまでをリアルに考えにくいんですよね。そういった点で、業種や文化など異なるDNAを持つ企業が連携して物事を進めることの難しさを痛感しました。

3年目となる今回はさらに、地元を代表する企業であるマツダ株式会社のメンバー8人にプロジェクトマネージャーとしてチームに入ってもらったり、首都圏のクリエイティブ人材に副業として入ってもらったりと、サポート体制をパワーアップしました。

もちろん、プログラムの中で参加企業同士で、他社からの意見をもらいながら進める、オープンイノベーションの視点も活かしながら、プロダクトの出口に目を向けたプログラムへと改良しました。

山本:私自身も、現在マツダから県庁に出向して4年目となります。昨年までも、マツダは商品企画のメンバーを実験部に派遣していたのですが、どちらかというと研修の要素が強いものでした。

ただ、3年目を迎える今回はより成果にこだわり、プロジェクトマネージャーのベテランメンバーを参加させることを決めました。マツダとしても陰ながらメンター的な立場で地元地域のお手伝いができたことを非常に嬉しく思っています。

実は、今回の実験部に取り入れたGOBの新規事業開発プロセスは、マツダのような自動車業界が培ってきた商品企画のやり方と非常に近いものだと感じています。そのため、自然に受け入れられたというか、共感できる部分が多くありました。関わる企業が独りよがりなメンタリングやサポートをするのではなく、プロジェクトの根底にある思想やメソッドに共感して環境を整えられたことも、成功のカギではないかと思います。

今期参加の8社はいずれも製品レベルのプロトタイプを制作

山本:当初、実験部で目的としていたところは達成できていると思います。

上でもお話しした通り、実際の製品化は、今後検討することになりますが、今期最後までプログラムに参加した8社は、いずれも実際に販売にまで持っていけるレベルの試作品を作り上げました。6ヶ月間のプログラムとしては、十分な成果だと感じています。

また実験部では、GOBが体系化した新規事業開発の方法論をベースにプログラムを展開していますが、そこで学んだ視点をきちんと事業づくりに活かせていることにも大きな価値を感じています。どの参加企業も、誰に、どんな価値を、どのように届けるかを検討してプロダクトを作っているので、単なる思いつきのレベルとは大きく異なります。

──2月19日には、今期のプログラムの成果を発表する場として「デモデイ」を開催しましたよね。1つの着地点として、このデモデイの趣旨やねらいはどこにあるのでしょうか?

松尾香太郎さん(以下、松尾) デモデイは、製品の展示会とプレゼンテーションの2部構成です。今年も県の副知事が視察するなど、毎年、県の中でも存在感が高まっています。 

プレゼンテーションだけではなく、実際にプロトタイプに触れたり体験したりできる。
今回のデモデイでは、複数社のテレビ取材も入るなど、注目度の高さが伺える。

山本:まずは新事業を広く多くの人に知ってもらうことがデモデイの大目的です。ですから、各社が制作したプロトタイプやこれから販売を予定している新製品に関心がある県内企業を中心に声をかけるなどして、盛り上げていきたいと思っています。

松尾:加えて、発表する事業に出資をしてもらえるような、金融機関などにも声をかけており、その場から新たなビジネスマッチングが生まれることも期待しています。

GOBには「0→1の方法論」と「起業家の集団」としての知見を期待

──最後になりますが、プロジェクトを共に進める私たちGOBについて、印象を聞かせてください。そもそも、なぜGOBとタッグを組んでプロジェクトを運営することを決めたのでしょうか?

松田:やはり、0から1を作る部分のプロセスを、方法論としてきっちり確立している点に期待しました。また,GOBのみなさんが,自らを「起業家集団」とおっしゃっているように、事業経験のある人たちが過去に味わった苦労や経験を共有してもらえるというところにも価値を感じています。

──実際に運営していく中での印象や感じたことがあれば教えてください。

山本:参加している企業の声を聞くと、やはりみなさん「新しいものを作る方法論や、やり方がわからない」と言うんですよ。そうした中で、GOBのプロセスや進め方は雛形というか、拠り所になるので、そこの型を持てたことは非常にうれしく思います。

松尾:企業へのメンタリングを隣で聞く機会もありますが、やはりGOBの皆さんはアイデアや引き出しを豊富に持っているので、参加企業からの声としてはもちろんですが、私自身も勉強になっています。

山本:一方であえて今後の課題を挙げさせてもらうなら、実験部の6ヶ月という短期間の中で、どうしてもプログラムに盛り込む情報量が多くなってしまうところには改善の余地があると思います。また、ものづくり企業が多いので、実際にモノを作る場面で生じる課題に対するサポート体制の補強があるとなおうれしいです。

──ありがとうございます。ビジネスプランやモデルの策定から1歩進み、実際のものづくりの場面での体制の強化は、外部との連携なども含め、強化を模索していきたいと思います。