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国産木材の魅力を届けたい! ライフスタイルブランド「MYAKU」で森林保全への一歩を:myaku・山本万優

日本は国土の約3分の2を森林が占める森林大国です。しかし、それだけ豊かな資源があるにもかかわらず林業は衰退の一途をたどり、それによってさまざまな環境問題が引き起こされています。

株式会社myakuの代表、山本万優(やまもと・まゆ)さんは、この課題を解決するためにライフスタイルブランド「MYAKU」を2023年に立ち上げ、木の魅力が伝わる商品づくりを行っています。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。社会課題の解決に取り組むベンチャー企業を募集・採択し、メンタリングやネットワークによる支援などを通じてビジネスモデルの磨き上げと事業拡大を支援するプログラムです。KSAPの詳細はこちら


樹齢300年の木曽ひのきを使った「天然ひのきキャンドル」

今、日本の森林はさまざまな課題を抱えています。世界第3位の森林率(*1)でありながらも国産材が活用されず、それによって荒廃してしまう山が増えているのです。

「日本の木材の自給率は40%程度(*2)しかなく、半分以上を外国産に頼っています。外国産の木材は国産材に比べて安価なため、それに押されて国産材が買い叩かれているのです。国産材が活用されないことで森林の所有者に利益が渡らず、伐採後の再植林率はわずか30%(*3)しかありません。このことが自然環境に大きな影響を及ぼしています。毎年伐採したうちの70%が禿山となり、持続可能な森林が育たず、大雨や台風で土砂崩れが起きやすくなっているのです」(山本さん)

木材価格の低迷によって林業の経営が厳しくなり、その結果、再植林も行われず、後継者も育たない。林業が廃れ、それが森林や山の環境悪化へとつながっている——山本さんはそのように説明します。

“川の上流”である国や自治体から、森林組合を経て企業へと働きかける従来型の課題解決のアプローチだけでなく、“川下”にいるエンドユーザーに対して直接、国産材の価値を届けようと決意。

「エシカル消費やサステナビリティが社会全体として求められている今だからこそ、国産材の魅力をエンドユーザーに届け、価値を認知してもらえるようになれば、それが結果的に“川上”を動かす力となり課題解決につながっていくのではと考えました。そこで立ち上げたのが、日本全国の木から取れる原料を使ったライフスタイルブランド「MYAKU」です。

最初のプロダクトは、樹齢300年の木曽ひのきを使った『天然ひのきキャンドル』。長野県で、ヒノキの生産者と一緒に山に入り、山で捨てられている枝葉部分から精油をつくっている方と一緒に商品開発をしています。

ブランドコンセプトは『森からはじまる愛おしい暮らし』。まずは身近な日常生活の中で木を感じてもらい、癒されるような体験を提供したいと考えました。寝る前やお休みの日に、キャンドルでひのきの香りを感じてもらえたらと思っています」

ライフスタイルブランド「MYAKU」の天然ひのきキャンドル

「『MYAKU』は、日本全国の木の魅力を発信することにフォーカスしたブランドです。原料の生産地や生産者の情報を発信することで、森林や林業を知ってもらうきっかけをつくることを目指しています。

そのため、ただ商品を売るのではなく、原料となっているヒノキのカンナくずを梱包材に詰め、“なま”のヒノキが、どのように加工されたのかがわかるようにしたり、購入したことによって林業生産者さんにどのようなアプローチができたのかを伝える仕組みをつくったりして、できる限り体験価値になるよう工夫をしていきたいと考えています」

「また、私たちは『Be a good friend to yourself and the forest(自分と森とよき友だちでいよう)』というメッセージを発信しています。それは、SDGsの観点というよりも、まずは自分自身を大切にすること、そこから家族や友人、そして動物や環境にも優しい輪が広がる世界を作りたいという願いからです。商品を通して私たちの日常と森林とお互いの暮らしを良くしていくことを大切にしています」

ひのきの爽やかな香りで、森林浴をしているようなリラックス体験を得られる

海外NGOと大企業を経験し、ソーシャルビジネスの道へ

山本さんは京都出身。立命館大学を卒業し、全日本空輸株式会社に就職しました。同社では客室乗務員やサービス開発に従事し、2019年にリクルートに転職。教育事業「スタディサプリ」などに携わったのち退職し、2023年に起業しました。

「大学時代から環境や平和、教育といった社会課題への関心が高く、海外NGOの一員としてさまざまな国でボランティア活動を行ってきました。20代は20カ国以上バックパックで旅をし、イスラエルのガザ地区で難民支援をしたり、メキシコの少数民族が住む地域で教育支援をしたり。社会人になってからも、休みをとっては海外に行きボランディアに参加しました」

NGOの活動で訪れたメキシコの子どもたち (引用元

この活動を通して、海外にも多くの友だちができた山本さんは、まさに世界で起きている社会課題を『テレビの中の出来事』ではなく『友だちの身に起こっていること』として捉えるようになったといいます。

「そうしたとき、自分の立場でできる小さなことが、地球の反対側にいる友だちの暮らしに影響するんだろうなということを肌身で感じる機会がありました。それでソーシャルビジネスにはずっと関心を持っていたんです。

また、私はNGOと大企業の両方を経験してきたので、双方の良さや大変さを学びました。NGOでは現場での活動が与える社会インパクトが高い一方、資金調達の難易度が高かったり、一方の大企業は収益性を重視し、現場の細かいニーズに応えることが難しかったり。その両方を知っているからこそ、それぞれの良いところをとったらどうなるのかということを、自分の会社を通して表現したいと考えました。それが起業の1つのきっかけです。

林業の領域にしたのは、昔から山が大好きで、林業地を訪れると自然に囲まれていて空気が気持ちいいと感じたからです。初めて林業生産者の方々に出会った時、厳しい自然環境でも楽しそうにお仕事されている姿をみて、自分にも何かできることはないのかと思いました。祖父が地元の京都で林業を営んでいたこともあり、私自身も山を身近に感じながら育ちました。山登りも好きで、国内外の山に趣味でよく登っています」

ひのきの生産地へ訪問したときの写真

生産者や生産地で商品を選ぶ人が増えていく世界をつくりたい

山本さんは2023年12月、事業の支援を募るクラウドファンディングを立ち上げ、最終的に254人から3百万円以上の支援金を集めることに成功しました。今年に入ってからはPOPUPストアの開催や有名アパレルショップとのコラボなどをすでに実施し、大きな手応えを得ました。

「今後はさらなる企業・ブランドへの卸販売、POPUPコラボなどを予定しています。全国展開する大手百貨店や東京駅直結の商業施設で卸販売の準備を進めています。

それから新商品をつくる計画もあり、まずはお客さまにニーズを聞きながら、サンプルをつくって、商品化するかどうかを検討していきます」

最後に、今後の展望を聞きました。

「私は昨年、2023年に会社を立ち上げました。その10年後となる2033年までに、商品を買うときに日本の生産者さんや生産地で商品を選ぶ人たちが増えていくような世界をつくりたいと思っています。

これまでは商品を購入する際、生産地などを意識せずに安いものを買うのが主流でしたが、10年後は『環境に良いかどうかを考えて買う』ことが当たり前の“サステナビリティネイティブ”な人たちが増えてくると思います。そんな時に私たちのMYAKUブランドが森林由来のサステナブルブランドとして世の中に新しい価値を提案できるとうれしいです。

今の高校生や大学生といった次の世代の人たちにとって、日本の森林問題や生産者、生産地情報が商品選びの判断基準の一つなっていくような世界をつくれるといいなと思っています」

株式会社myakuについて>

*1:OECD加盟国での森林率ランキング 世界森林資源評価(FRA)2020メインレポート概要 P5

*2:国産材自給率 令和4年 木材需給表 林野庁 P4

*3:再植林率 再造林の推進 再造林の推進 林野庁 P1