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できる・できないよりも、大切なこと。

2歳で広汎性発達障害と診断された長男ハルは今、小学3年生になり、特別支援学級に在籍しています。今日はそんな息子との関わりの中で気がついたことを書きたいと思います。

彼は数字が大好きで、学校の授業の中では算数が一番好きです。算数と国語は特別支援級で、それ以外の教科は交流級(普通学級)で学んでいます。

私は息子がこれから生きていく上で必要なのは、算数や国語ができることよりも、他者との関わりを学ぶことだと思っていました。ですから、算数と国語の学習は支援級での学習が効果的であると先生から言われたときに、わからないことがあってもいいから交流級で過ごす時間を多く持てた方がいいのになぁ、と思っていました。


療育マニアになった日々

息子が2歳で診断を受けた後、自閉症には早期療育がいいと聞き、私はありとあらゆる書籍やネット情報を読み漁りました。その中でABA(応用行動療法)が自閉症の療育に効果的であるという情報を知り、両方を学ぶ親の会に入って自分自身がセラピーを行いながら、ネットで見つけたアメリカでABAを学んだセラピストさんに個別セッションをお願いすることにしました。

我が家にとっては決して安くない金額だったのですが(当時は民間の療育施設が出始めで、ABAを2歳代で定期的に受けられるところは近隣にはなかった)、この子が大学に行くためのお金を貯めるなら、療育が効果的であると言われる就学時までの、今この時にその分のお金を使った方が彼にとっていいのではないかと思ったのです。

セラピーの目標は、就学時に通常級在籍、IQ100(一般的であるとされる数値)の判定が出ることと説明を受けました。動作の模倣からはじまり、言葉の習得、こだわりの軽減、コミュニケーション、微細運動など、スモールステップで1回2時間、月2回のセラピーを行いました。週一が推奨されていましたが、金額的に難しかったので、先生のセラピーを参考に自分でも行いました。

▲ABAセラピストの先生とハル

普通って、なんだろう。

その他にもありとあらゆる療育を調べ、勉強会や研修に参加しました。今思うと、私は彼がひとつでも多くのことを「普通にできる」ようにするために必死だったのです。そうすることが彼の今後の人生をより良いものにするのだと信じていました。

しかし、そんなふうにして2年間セラピーを重ねていくうちに、だんだん自分の考えが変わってきました。彼が生きやすくなるために、必要なスキルがあることに変わりはないけれど、「普通」を目指すということに疑問を感じるようになったのです。

電気が大好きで初語が「で」だったハル。信号の音と見事にシンクロして、「ピッポ―ピッポ―」と人目も全く気にせず歌う(?)ハル。言葉のやりとりはできるけど、抽象的なことは伝わりにくい。そんな彼のどこまでが「普通」なのか?そもそも普通ってなんだろう?

セラピーで椅子に座って45分の授業を受けることを目指す。その訓練に時間を費やすよりも、もっと他に大事なことがあるような気がしてきたんです。

そうして長男のABAセラピーは幼稚園の年中が終わる春に卒業しました。「普通級進学を狙えますよ」そう先生はおっしゃっていましたが、私は普通級とか支援級とか、在籍に拘らず、彼が充実した時間を過ごすことができるなら、どちらでも良いと思うようになりました。

彼はずっと変わっていない。私の価値観が彼と過ごす中で変わっていったのです。


支援員の先生が教えてくれたこと

小学校へ入学してから少しして、支援級の先生から、「算数と国語は習熟度を高めるために支援級で行います」とお話しがありました。2年生に進級してからも、やはり算数と国語は支援級で、という方針でした。私は算数や国語がみんなと同じようにできることを目指すより、交流級でみんなと関わりを学ぶ方が彼の人生にとってメリットになるんじゃないかなと思うようになっていました。しかし、そのことを先生に言い出せずにいたのです。

そんなある日、息子を学校に送り届けた帰り、支援員の先生が声をかけてくれました。その支援員さんは、ご自身でも自閉スペクトラム症のお子さんを育てておられます。そして私が教員をしていた時、最初の年に受け持ったクラスへ交流に来ていたのでした。

そこで私は、ハルにとって先生と少人数で算数の計算を習得することに重きを置くより、わからないことがあってもいいからクラスの子ども達の中で過ごす方が長い目で見ると彼の人生にとっていいんじゃないか、というようなことを相談したのです。

すると、支援員の先生はこんな風に話してくれました。

「お母様のお話し、よくわかります。でもね、私はちょっと違うと思うんです。ハルくん、算数が好きなんですよ。お母様がおっしゃるように、割り算や分数を習得することがハルくんの将来に関係しているかといったら、それはわかりません。

でもね、将来役に立つかどうかに関わらず、ハルくんが好きで、やりたいと思っていることを学んでできるようになることは、彼にとって自信にもなるし、必要なことだと思います」


できるかどうかよりも、大切なこと

そう言われて、私はハッとしました。私が彼の可能性を勝手にジャッジしていたことに気がついたんです。そして、遠い将来役に立つかどうかよりもまず、彼が今やりたいこと、本人ができるようになりたいと思っていることを応援する。その大切さに気づかされました。

算数を学習するということは、自分の学生時代を振り返ると、私にとっては魅力のないことでした。でも、数字が大好きな彼にとって、算数を学習すること、それを理解してできるようになることは、成績がどうとか、将来役に立つとか関係なく、今の彼にとって喜びになることだったのです。

エレベーターや時計、電卓など数字に関係するものが大好きなハル

このことをきっかけに、できるかどうか、得意かどうか、という視点とは別に「本人がやりたいかどうか」という視点が、彼に対しても、自分にとっても、すごく大事なことなんだと考えるようになりました。

それって障害の有無に関係なく言えることなんじゃないかな、とも思っています。

※療育や在籍級、何を優先してどのような環境で学ぶかということについて、ここに書いたことが正解ということではもちろんありません。

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