夢の話 2題【禍話リライト】

夢と現実が繋がっている。
そんな経験をしたことはないだろうか。
これらは、現実を侵食した夢の話である。

①夢食堂(34:05)


Yくんが高校時代のこと。
夢の中でYくんは、知らない食堂にいた。
ビュッフェ形式で、好きなものを取って席に着いたら、取った覚えのないマカロニサラダが入っていることに気づいた。
あまり気にすることもなくそれを食べていたら、ものすごく長いマカロニがある。
長すぎて端が床についているほどだった。
夢の中でもあるので、気にせずに食べていたら、床が汚れているようにも見えないのに、マカロニに黒い筋が入っている。

汚れてんのかな?

むろんそれも気にせず、Yくんは食べつづけた。
しかし、食感にも味にも変化はない。

あれ?じゃあ、元々そういうものかな?

のんきにそう思っていると、いつの間にか隣に座っていた友達が、「大丈夫か?そんなの」と心配そうに聞いてくる。

「大丈夫だよ」

そう答えた瞬間に、違和感を覚える。

あれ?
いてて……

急にお腹が痛くなってきた。

「どこで取ってきたんだよ?それ」
「……わかんない」

そう答えている間にも、痛みは増していって耐えられないほどになってくる。

「お前大丈夫か?そんなの食べたらよくないよ。床についたやつを食べるからだ…」
「いててて……」

そこで目が覚めた。
夢のことだと思ったら、お腹が猛烈に痛い。
両親を起こして病院に行くと、軽度の腸捻転と診断された。

結局、二週間くらい入院する羽目になった。

「酷い目にあったよ」

夢に出てきた友人にこの話をすると、爆笑された。

「夢の中でも意地汚いことすんなってことだよ。マカロニ啜って腹壊すなんてなぁ」

そう言われたのだそうだ。



時が経ち、大学生になって、友達と話しているときのこと。
だんだんと話すことがなくなって、夢の話になった。
ゾンビに追いかけられて大変だったよ、などという他愛もない話が続く中で、Yくんが「俺もあるんですけど……」と言って、その夢の話をした。

「もう大変でしたよ~」
「何だそりゃ」

話しぶりのコミカルさも相まって、皆が、はははと笑う。
ところが、どういうわけか一人だけ、全く笑わない女の子がいた。
それどころか彼女は、ひどく深刻そうな顔をしている。

「えーっと……面白くなかった?」
「……そうじゃなくて」

彼女が話すところによると、お兄さんが全く同じ夢を見て運ばれたことがあるのだという。
聞いてみると、ディテールが全く同じだった。

「それで、あなたと同じ病気になって、見舞いに行った時に聞いたんだよね。『隣でお前に止められたのに、食べちゃったからかなぁ』『何やってんのよ』なんてやりとりをして、その時はそれだけだったんだけど……でも、今の話を聞いて、本当に細かいところまで一致しているからびっくりしちゃった」

その話を聞いたYくんは、あまりに気になって彼女のお兄さんに合わせてもらった。
ちょうど同じ時期に病気になったというお兄さんの話を詳しく聞くと、シチュエーションは机の感じや食堂の様子を含め、全く同じだった。
強いて言えば、食べることを止めてきた登場人物くらいしか、違いのようなものはない。
もっとも、偶然の一致と言えば、言えないこともないかもしれない。
ありきたりの場所ではあるからだ。
だからYくんは、まだ誰にも話していないことを、確認のためにお兄さんに尋ねてみた。

「……あの、食べ物をよそってくれるおばさん、いたじゃないですか。ちょっと変でしたよね?」
「ああ、そうだな。ナース服着てたな」
「!!!……俺も同じでしたよ!!」
「ひょっとすると、俺たち何か共通点があるのかな?」

そのあとYくんとお兄さんは、これまでの人生を色々と語り合ったが、特に共通点らしきものは何もない。
だからなんであんな夢を見たのか、理由は全くわからなかった。

「でもさ、その夢の中には後20人くらい料理をもらってる人がいたよな」
「いましたね」
「だから、あの場所にいた他の奴らも、俺らと同じことになってるんじゃないかな」
「かもしれないですね……」

もしかするとまた同じような人に会うのでは、と思ったYくんとお兄さんは、それから機会があればこの夢の話をしているのだそうだ。

②雑巾追い(39:45)


Aさんは、県外の大学に通っているため、大学の近くにアパートを借りて一人暮らしをしている。
彼女が大学2年生の夏休みのこと、実家に帰る前日に妙な夢を見た。

夢の中で、Aさんは高校生だった。
どうやら放課後の教室のようだ。
半分くらいの生徒は帰宅したのか部活に行ったのか教室にはいなかったが、残りの半分は教室にまだ残っているような状況だった。
そんな教室で、どうやら調子に乗ってふざけている奴がいた。
後から考えると全く顔も知らない男子生徒だったが、同級生という認識だった。

また○○がふざけてるよ。

夢の中では名前もわかっていたようで、Aさんはその様子を見て呆れかえっていた。
もっとも、目覚めた後考えてみると、名前などすっかり忘れてしまっていたのだが。

その男子生徒のふざけ方は、高校生にしては妙なふざけ方だった。
頭まですっぽり入るカッパを着て、釣竿に何かを引っ掛けて、それをくっつけようと女の子を追いかけている。

何やってんの?あいつ。

そう思っていると、その男子生徒はくるりと向きを変え、Aさんのほうに走ってきた。
どうやら、標的が変わったようだ。
よく見ると、釣り竿に引っ掛けられているのはボロボロの汚い雑巾のようで、不潔なことおびただしい。
どう考えてもそんなものをくっつけられるのは不愉快極まりないので、Aさんは一目散に逃げ出す。

「へーいへーい」

小学生のような煽り声をあげて、その男子生徒が近づいてくる。

「やめてよ」

そう言いながら教室の外に走って逃げると、先ほどまではすぐに諦めていたようにみえたのにもかかわらず、なぜかAさんには執着しているようで、距離がだいぶあるのに諦めず追いかけてくる。
よく見ると、裸足だ。

あれ?裸足って学校のルール的にもダメじゃなかった?

そんな余計なことが頭を過る。
ただ、のんびりしているわけにも行かないので、正面に向き直って階段を駆け上がる。
しかしその男子生徒は階段昇降が得意なのか、急激にAさんに近づいてきて、ついにその後頭部に雑巾がついてしまった。

「きったない!!何よ!!」

怒って振り向いたAさんに、その男子生徒は大笑いする。
体をくの字に折り曲げて、おかしくてたまらないという様子だった。
そのことがさらにAさんを苛立たせる。

「何が面白いんだよ!?お前、先生に怒ってもらうからな!!」

しかしそう言われても彼はどこ吹く風で、相変わらず大笑いし続けている。

「馬鹿!!」

そう叫んだところで目が覚めた。

まったくあいつ、何なの?!
プチ同窓会であいつに会ったら……あれ?
あんな奴、ほんとはいなかったよね?
名前も思い出せないし……
今日実家に帰るからって、変な夢見ちゃったなぁ……


実家に帰ってから数日後、高校のプチ同窓会が開かれた。
半分くらいのクラスメイトが参加していたという。
会が盛り上がる中、ある同級生がこんなことを言い始めた。

「今日のことが楽しみすぎたのかなぁ……私、妙な夢を見ちゃったんだ。放課後の教室でさ、変な男子がいて……」

Aさんの見た夢と、寸分たがわない夢だった。

「え、そうなの?私も実は……」
「私も」
「えー?!私もなんだけど……」

結局、同じような夢をAさんの他に3人が見ていた。
ただ、Aさんと違って、他の3人は逃げ切ったのだという。
トイレに逃げ込んで鍵を閉めたり、逃げ切って外に出たり、途中で相手があきらめたり……ということで、雑巾をつけられたのはAさんだけだった。

「ええ?!私だけ雑巾つけられたのか……やだな。何で私だけ」

Aさんがそう言うと、話を聞いていた男子生徒が「お前、そういうときトロいからな。修学旅行の時もさ……」と茶化しつつ別の思い出話に移行してしまったため、結局その場ではそれ以上、夢の話を掘り下げることはなかった。


数日後、大学のある県に戻ったAさんは、サークルの友達や先輩が神社に行くのに付き合うことになった。
その神社はその地方では有名な大きな神社で、せっかくだからということでAさんも一緒にお参りをして、厄除けのお守りを買った。
そして、さあ帰ろうかと先輩の車に乗り込み、どこかでお昼ご飯でも……という話になったので、近場のランチを食べられる所を調べようと、携帯を取り出すと。

高校の友達から、メッセージが来ていた。

「何で自分だけ助かろうとするの」

え?

どうやらメッセージが届いたのは、お参りに行っていた時間帯らしい。

「何のこと?」

そう返信するが、何時間たっても返事がない。
気になって電話をしても、出ない。
共通の友達に連絡をしても、彼女も連絡が取れない。
結局、その友達は、それきり完全に失踪してしまった。

冬。
高校の友達と会ったときに、その失踪した友達について尋ねてみた。

「あの子、なんかあったの?トラブルとか」
「特に聞いてないけどね」

すると、この間の同窓会に参加していた別の子が、こんなことを言い始めた。

「あのさ、こないだの同窓会で、追いかけられる夢の話になったじゃん?」
「ああ、あれね」
「あのさ……あの子、その場では何にも言ってなかったけど、帰り道で『私もあの夢見たんだよね』って言ってたんだ」
「え、そうなの?」
「うん……でね、こう言ってたの。『みんな、あのカッパ着た奴の名前を覚えてないっていうんだけど、私は覚えてるんだよね』って」
「え、実在の人だったの?」
「誰かははっきり言わなかったけど、そう……だと思う。ごめん、詳しくはわからない。でも、自分は覚えてて、みんなも忘れるわけないから、みんな嘘ついてるのかなって」
「そうなんだ」
「それで、さっきは言わなかったけど、実は私、雑巾に触られたんだって言ってて。『まあ、でもAちゃんも触られたっていうから』そう言ってたんだけどさ……ごめん、こんな話関係ないよね。でもなんか、そのことをすごい思い出しちゃって」

Aさんは、彼女から届いた気持ちの悪いメールの話を皆にした。
メールが届いたタイミングがタイミングだったこともあり、なんとなく、夢との関連を誰も否定できない雰囲気になったという。

だが。
Aさんを含め、夢を見た子たちがどうすり合わせても、カッパの子にまつわる記憶など何も出てこなかった。

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「でも、あの子は思い当たる節があるって言ってたみたいなんです。高校生活で。私もわからないけど、なんかあるんですかね……」

Aさんは首をひねりながらそう言っていた。

都合の悪いことを記憶から消してしまうことは、実際にある。
だから、自分が忘れていても相手は覚えている……などということも実際に起こり得るのだ。
ましてその「相手」が、この世のものではないことも、あり得るのではないか。

私はそう思ったが、さすがにそんなことをAさんに言うべきではないと考え、「そうかもしれないですね」とだけ答えた。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「THE禍話 第29夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

THE 禍話 第29夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/592508050
(34:05頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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