見てくれました?【禍話リライト】

大学生のWくんは、親元を離れ、ワンルームのアパートで一人暮らしをしている。
その日は授業の後バイトが23時まであって、Wくんは疲れ果てていた。
幸い翌日授業は午後からなので、長い時間寝られるということもあって、帰宅したWくんはアルコール飲料を飲んで、いつの間にか寝てしまったのだという。

夜中。
何者かが右脇腹を軽く蹴ってくることに、Wくんは気づいた。
もっとも強く蹴られていたわけではなく、ツンツンと突かれている程度の感触だったそうだ。
酔いと疲れがあったため、朦朧とした意識の中で、自分を蹴りながらその人物が言っていることばがかすかに耳に届いた。

「メール見てくれましたか」

同じ言葉をずっと繰り返している。

はあ?なんのこと?

寝ぼけていることもあり、さしてその状況に違和も感じず、Wくんは体を起こす。
暗い部屋の、自分のお腹の横の辺りに、女が立っているのがぼんやりと見えた。

「メール見てくれましたか?」

女はWくんを見つめてそう尋ねてくる。

メール?

枕元のスマホを取り上げて見てみると、メールが着信していた。

友人からだ。

あいつ、そういや、どっかいくって言ってたな……

まだ寝ぼけていたWくんは、メールを開いた。
それと同時に、友人がどこに行くと言っていたかを思い出した。

そういえば、心霊スポットに行くとかなんとか……

件名はなく、いきなり本文から始まっているメールだった。

「やべえよ
 こんなのが撮れちゃった」

本文はそれだけで、画像が添付されている。
Wくんが添付ファイルをタップした、その瞬間。

ピー

高い音がして、スマホがブラックアウトしてしまった。
流石に驚いて、Wくんはそこで完全に目が覚めた。
慌てて電源を押しても、うんともすんとも言わない。

ええ?
……あれ、そういえば。

ここで初めて、一人暮らしの自分の部屋に女がいることの異様さに思い至った。
慌てて女の立っていた方に目をやると、女はまだいる。
まだいるということは、それは実在の人間に違いない、と、なぜか咄嗟にWくんは思った。
幽霊だったら消えているだろうと、なんの根拠もなく思っていたのだそうだ。
混乱したWくんは、最初それが心霊スポットに行った友人の彼女かと思った。
彼女なら、友人と一緒に家に来たこともあるからだ。
だが、どう見ても違う。
髪の長さ、身長、体型。
全然違うのだ。

しかし、同年代くらいの女の子のようには思えた。

女は嬉しそうに繰り返す。

「メール、見てくれた?」

Wくんの意識は、そこで途切れた。

気がつくと、明け方になっていた。
近所の自販機の前に体育座りしていたのだそうだ。
手にはスマホと鍵を持っていたという。

その日のうちに携帯をショップに持って行ったのだが、スマホは完全に壊れてしまっていて、買い替えるほかない状況だった。

普通ではあり得ない故障だったようで、どういう状況で壊れたんですかと店員に聞かれたが、「画像を見ようとしただけなんですけど……」としか言えなかった。
結局、保証期間内だったため、スマホは新品に交換してもらえたのだそうだ。

果たしてその画像はどんなものだったのか。

そう思ったWくんが友人に聞いたところ、彼が送ってきたのはトンネル内で撮った写真だったらしい。
友人曰く、白い幽霊っぽいものが写っていたという。
他の友人にも送ったが誰からも反応がないので、不思議に思って聞いてみると、画像は真っ黒になっていて、何も見えなかったと言われたそうだ。
友人自身の保存していた画像も開けなくなっていたようで、結局、どんな画像だったのかを確認する術は今やなくなってしまった。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「THE禍話 第31夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

THE禍話 第31夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/596398036
(7:47頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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