はりつく女【禍話リライト】

Bくんの大学の知り合いに、Cという「見える奴」がいたという。
ただ、周りにその言葉を信じている者はおらず、Cのことを馬鹿にしていたらしい。
C当人は温厚な好人物で、自分からそういうことを積極的に公言しないものの、たまにそう言う話をすると大いに揶揄われていたのだそうだ。

ある日、皆で集まって雑談している時に、誰かがCに「最近お化け見てないの?」と冗談めかして尋ねたのだという。
するとCは、「ああ……そう言えば」と言って、こんなことを話し始めた。

その日Cは、親戚とドライブに行くことがあって、近くの街のとある道を通っていた。
その街の大通りで信号待ちをしているときに、何気なく外を見たのだという。
すると、その大通りから一つ入ったところにある廃ビルが目に入ったのだが、その3階の窓に女が張り付いていた。
女は、Cをじっと見つめていたという。

うわ、こっちみてるよ!

そう思ったCが同乗していた親戚たちに女が見えるか聞いてみたが、全員見えないと答える。
しかし女は、完全にCの乗っている車を見ている。
そして、私が見えるんだろうと言わんばかりに、窓に手をベタベタと繰り返し叩きつけていたのだそうだ。

「でね、後でGoogleマップのストリートビューで見てみたんだけどさ、その廃ビル、入り口が完全封鎖されてて絶対入れないようになってるんだよね」
「へえ」

皆が話半分で聞いていたのだが、その場にいた1人がやたらとその話に食いついた。

「なあなあ、それ見たのって、何時ごろ?」
「何時かな?昼間だったよ。親戚のおじさんにも、『お前も昼間からお化けが見えるなんて大変だな』って労われたし」
「マジかよ。昼間っから見えるなんてやばいじゃん。俺らも見えるかもな、それ」
「はあ?ってか、やばいよ。かなりアグレッシブな感じのお化けだったから」
「まあまあ、危なそうだったらお前が警告してくれよ。ただ見にいくくらいならいいだろ」

そんな話になり、勢いでその場にいた4人で車に乗って、その廃ビルまで行くことになったのだそうだ。
その廃ビルは、大学から30分ほどの場所にあった。
大通りからそのビルが見えたところで、言い出しっぺの知り合いがCに尋ねる。

「どうだ?いるか?」
「……いる。窓に張り付いて車を見てる」
「マジかよ」
「やばいって、気付かれてるって」

Cは顔面蒼白でそう訴えるが、運転手でもあるその知り合いは、よせばいいのにわざわざその廃ビルの目の前の通りに入っていった。

「おい、やめろって!」

Cは必死に止めるが、車はビルの下まで進んでしまう。
そしてビルの前に車を停め、知り合いはCに尋ねた。

「見上げてみろよ。どうだ?」

その言葉に全員が3階のあたりを見上げる。

その瞬間。

あれ?
窓ガラスがない……

全員がそのことに気づいた。
3階は窓枠だけで、窓ガラスなどないのだ。

「はぁ、はああ……」

Cはブルブル震えて、汗をものすごくかいている。
そして。

「出せよ!!出せ!!!」

Cは運転席の後ろの後部座席に座っていたのだが、バンバン運転席の背中を蹴っている。
その様子があまりに尋常でなかったので、さすがの知り合いも驚いて、そのまま急発進して逃げ出したのだそうだ。


大学の近くまで戻ってきたところで、ようやくCの震えがおさまり、落ち着いてきたので、何を見たのか聞いてみた。
Cは、冗談じゃないよ、冗談じゃないよと繰り返している。

「あれさ……窓なかったじゃん。貼り付けないよな……?」

Bくんがそう尋ねると、Cは真っ青な顔をして答える。

「そうなんだよ。あの女、パントマイムしてやがったんだ」
「え?」
「俺も近づいてみて初めてわかったんだよ。で、気づいた瞬間に、手がニューッと外まで伸びてきて、女がニヤッと笑ったんだ。そのままだと、あいつ、多分上から落ちてきたよ」
「ええ……」
「あれ、女が飛び降りてきたら、どうなってたかわからないよ……」

憔悴した様子で、Cはそう言う。
そのことがあってから、BくんたちはCのことを馬鹿にしないようになったのだそうだ。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「THE禍話 第31夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

THE禍話 第31夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/596398036
(18:12頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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