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インボイス制度の音楽家への影響

インボイス制度とは「消費税1円残らず全員から絶対徴収する制度」です。

2023年10月からインボイス制度が始まりますが「フリーランスの危機!!」と叫ばれていることは知っているけれど音楽家に何の影響があるのか知らない方もいるかもしれません。そもそもインボイス制度を聞いたことが無い方もまだまだ多いと思います。

この記事では何もそのあたりに詳しくない僕が詳しくないまま、詳しくない人にも共感してもらえそうな言い方でインボイス制度の影響に言及してみます。

読み進めてみて「わからん!」となった場合は更に要点だけに絞った記事もあるので併せてご確認下さい。

まず売上が年間1,000万円以下の音楽家(個人、法人問わず)が対象になる話から。所得や利益ではなく売上です。



前提: 消費税は納めなければならないが…

自分が売上1,000万円以下のゾーンに居ると消費税を10%特別ボーナスのような、源泉徴収を相殺してくれるものと勘違いしている人も中にはいるかもしれませんが、国に納めなければならないものを特例的に免除されてきたという認識が必要です。よく誤解されますが、ちゃんと法律の条文の中で免除されていることが明記されているのでズルは何もしていません。

そしてインボイス制度の導入によって消費税に何が起こるのか。

結論: ギャラか仕事のどちらかが減る可能性が高い

なぜギャラが減るのか。それは、クライアントが音楽家に払うのを渋るようになるからです。具体的には消費税分(約9.1%)の減額を暗に求められる可能性があります。理由を説明します。

クライアントが消費税を納める際、クライアント自身が使った経費(外注費etc)に含まれていた消費税は既に国に収めたものとして納税しなくてよいというルールがあります。超雑に説明するとこういうことです。

・年間売上が2,200万円でそのうち200万円を消費税として受け取った
・経費として1,650万円使っていてそのうち150万円が消費税だった
・実際に国に納めるのは差額の50万円でOK

で、現状では売上が年間1,000万円以下であれば消費税は納めなくて良いことになっています。また、そのような音楽家に対してギャラ+消費税を払った場合でもその消費税額の分をクライアント自身の消費税納税額から差し引いてOKです。本来国に収められるはずの消費税の一部が音楽家の手元に残ることを国が認めてくれていたわけですね。

というのが今までの制度。

インボイス制度が導入されると、クライアントは音楽家に対して支払った消費税を自身の納税額から差し引くことが出来なくなります

・年間売上が2,200万円でそのうち200万円を消費税として受け取った
・外注費として1,650万円使っていてそのうち150万円が消費税だった
・その外注先が全員年間売上1,000万円以下だった
・国には消費税を200万円満額納めなければならない
・消費税の支払いが実質合計350万円に!

となるわけです。これはクライアントにとって理不尽に感じられるため消費税の分ギャラを減額する交渉が起こる、またはそういった音楽家との取引を控えることが容易に想像出来ます。例えば今まで3並びだったギャラが税込み30,000円になるみたいなことです。


音楽家はどうすればいいのか

音楽家が国にある手続きをして登録番号をもらいそれを請求書に記載することで、クライアントはこれまで通り音楽家に支払った消費税を自らの納税額から差し引けるようになります。そうすれば、ギャラを下げる必要もありませんし仕事が減る心配もありません。

「手続きは面倒くさいけどそれで解決出来るならいいじゃん」で終わらないのがインボイス制度です。登録番号を割り振られると売上1,000万円以下であっても消費税の納税が免除されなくなります。例えばこういうことが起こります。(凄まじく雑な試算です。)

・売上550万円(消費税分50万円)のフリーランスの音楽家が
・機材費や交際費等で年間330万円(消費税分30万円)使うと
・差額20万円の納税義務が発生!

売上の4%ほどが消費税で消えると考えると「なんだ4%か」と思うかもしれませんが、自由に使えるお金の額に対する割合で考えるともしかしたら10%を軽く超えてしまうかもしれません。

また上記の喩えで言えば、自分が受け取った消費税が50万円であることや自分が支払った消費税が30万円であることを計算し必要な納税額を算出するのは簡単なことではありません。

なのでギャラか仕事を減らされる可能性を受け入れて制度への対応をスルーするか、確実に所得が減って事務作業が増えるのを覚悟して登録番号を取得するかの究極の二択を迫られることになります。

消費税を納付するようになってくると経理も中々複雑になってくることが予想されるため、払い漏れが無いよう気をつけるとなると税理士に相談するのがベストだと思います。すると、税理士に支払う費用が年間数十万円かかるため更に財布が圧迫されることになります。


既に消費税を納めている音楽家の場合

既に年間売上が1,000万円を超えていて消費税を納めている音楽家も対岸の火事ではありません。自分は1,000万円を超えていても果たして普段譜面をお願いしている人やアシスタント、ミュージシャンやエンジニアの皆さんは全員が既に消費税の課税対象事業者でしょうか?

今後もそういった方々の協力を得るためにはインボイス制度について十分な説明を行い両者が納得できる落とし所を探らなければなりません。何もしなければ消費税が払い損になってしまうため軽々に受け容れられるものではありません。

売上が5,000万円以下で簡易課税制度の事業者であれば仕入先が適格事業者であるか否かを気にしなくても良いのでインボイス制度をスルー出来るかというとそうでもなくて、やはり適格事業者になるのを忘れていると自分たちがクライアントからのギャラを渋られたり仕事を減らされるリスクがあるのは変わりません。


まとめ: 何が問題なのか

フリーランスという生き方を選択することが一気に難しくなることが最大の問題だと僕は考えています。副業で少しずつフリーランスの仕事を始めようとしても、事業が軌道に乗るまでの税負担が上がりリスクが高まるのです。少なくとも、この制度の導入によって金銭的に得をする小規模事業者は存在しません。

また、制度の導入による社会全体への負荷が上がることも非常に大きな問題だと感じます。多くの事業者がインボイス制度の対応に人的コストを割く必要がありますが、制度への対応は何かしらの価値を新たに創造するものではないため単純に社会全体の労働力の損失になります。

そして、それを回避する術が無いのがインボイス制度です。既にフリーランスとして事業をしている人やこれからフリーランスになろうとしている人に出来ることは覚悟することだけです。

会社員等給与を得て働いている人から「そうは言ってもそもそも国に納めるために受け取ったお金なんだから納めろよ」という言い分が出るのも心情的には理解出来るのですが、そういった対立が生まれてしまっていることもまた良くないと感じます。

「ずるい!」という感情をぶつけられてしまうと、これまでなぜ消費税を納めなくてよいとされてきたのかや消費税の逆進性等をロジックで説明しても絶対に建設的な議論になりません。

多くの人間は自分以外の誰かが優遇されている制度を直感的に公平だと感じ取ることは出来ないと思います。

それよりは皆が普段からよりよい税制はどんなものなのか頭の片隅ででも良いので考えて、選挙にも毎回行くことの方が大事なんじゃないかなと思います。

と、インボイス制度が決まった後に知った僕は後の祭のように思うのでした。

ちなみに国に登録してインボイス制度の対象の事業者になる場合は2023年の3月31日までに申請をする必要があり、申請受付は既に始まっています。


備考

いきなり全額控除されなくなるわけではなく段階的な猶予期間があることや、事業において輸出入があった場合の事などを簡単のために大胆に端折って書いているので、細かいことは税理士に相談して下さい。僕も聞いてみます。

最後に、冒頭にも書きましたが僕は税に関して素人なので、記事に誤りがある場合は優しくこっそり指摘してもらえるとありがたいです。

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