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「寄り道」 - Short story -

昔にタイムスリップしたような家並みが広がる下町。
真夜中過ぎのこと、バス停の標識のそばに突然フラッシュのような光とともに男の姿が現れた。
頭の皮が一部はがれ、鼻には横に切られた大きな傷があり、蝋人形のような顔をしている。

男は慣れた足取りで裏通りに入った。
しばらく歩き、大きな提灯が下がっている家の玄関前で足を止めた。
提灯には「下田興業事務所」と書き込まれ、玄関の表札には「下田仁助」とある。

下田仁助は昔気質(むかしかたぎ)のヤクザの親分だったが、不良外国人や売春、覚せい剤の広がりに嫌気がさして一家を解散した。
いまでは堅気になり、肩書も社長になっている。
たまに刑事が訪問してくるのがヤクザ時代の名残だ。

下田興業は家の片付けなどをやる何でも屋と数軒のアパート・戸建ての不動産賃貸が主な仕事だ。
事務所には「まだ若い者である『サブロー』」と「中年が近い『サンペイ』」の二人が交代で詰めている。
組員というか社員はこの二人だけだ。

社長の仁助とその女房竹子、総勢は四人とこじんまりとしている。
四人そろって人が好く、背中を入れ墨で埋めてまでなぜこの道に入ったのか、誰もが尋ねるが満足な答えが返ってきたためしはない。
若いときはそういう生き方だったのだろうと想像するしかない。

周辺にも半グレや組があるが、下田一家は毒にも薬にもならず、警察の監視も厳しいため抗争もない。
その業界からは「提灯一家」と揶揄されるくらいに大人しくもめ事も無い。社寺の祭りのときに見せる背中の入れ墨だけがヤクザだったことを連想させる。

一家にはもう一人「そろそろ高齢」の組員がいたが昨年車に轢かれて亡くなった。
名を「小堺進太郎(以後進太郎)」といい、マンガの好きな男で、母親と二人だけの生活だった。
赤信号なのにマンガ読みながら交差点に入り車に轢かれて亡くなった。

事故のとき、被害者がヤクザの組員と知って加害者側は構えたが、どっこい並みの事故よりスムーズに示談が進み解決した。
過失の多くは進太郎にあり、親分の仁助もゴネるのが嫌いな性分だったのが加害者には幸いした。
最後には加害者の父親が仕事をいくつも紹介してくれるほどの仲になった。

ただ「進太郎」には「もうじきお迎え」の母がいた。
「補償金でお袋を施設に」が進太郎の遺言で、下田夫婦はそれを実直に守り、母はいまはわりと高級なホームに入って残りの人生を楽しんでいる。
「もうじき」が「当分は」になり、下田夫婦はよくホームを訪ねている。

 フラッシュとともに現れた男は夜通し明かりが灯る下田興業の事務所を見ている。
すると中から戸が開き、サブローが出てきた。
男と目が合うとサブローは一瞬目が点になり固まった。
「おどろいたかい、オレだよ」

「アニキ、まさか」
「そのまさかだよ、お前の兄貴の進太郎だよ」
しかし兄貴はとっくに亡くなっている。
でもその兄貴が蝋人形のようになって目の前に立ちしゃべっている。

サブローは状況が理解できず混乱している。
すると進太郎は前に出て思いっきりサブローを抱きしめた。
進太郎の顔とサブローの顔がくっついた。
サブローはそのまま気絶した。

表の様子に気づいてサンペイが出てきた。
進太郎を見るやサンペイも目が点で固まった。
顔が真っ青になり全身が震えている。
「ア、アンタ、シ」と言っただけで言葉が続かない。

進太郎がサブローの肩越しにサンペイを見ている。
しかし進太郎は昨年亡くなった。
なら目の前の進太郎は誰なんだ。
サンペイは答えが出てこない。

蠟人形のような進太郎の顔が笑った。
その笑顔がサンペイには怖ろしい。
「入るぜ」
と言うと進太郎はサブローを引きずりながら事務所に入った。

「お茶あるかい」
と言いながら自分で茶を入れ始めた進太郎、サンペイは棒立ちしている。
サブローはソファーで気絶したままだ。
「フワァーうちの茶を飲むのは久しぶりだ、うめえなァ」

表の様子に何か感じたのか、奥から仁助の女房の竹子が出てきた。
暖簾をさっと開けて言った。
「こんな時間に何事だい」
進太郎を見た。

「ああ、姉さんじゃなかった、奥さん、お元気ですか進太郎です」
竹子は
「アンタ、あうう、アウウ」
と唸りながら壁にもたれ、そのまま気絶しドサッと廊下に倒れた。

開いたままの玄関前にタクシーが停まった。
ドアーが開いて男が降りてきた。
「釣りはいらねえよ、とっといて」
「こりゃどうも、ありがとうございました」

「どうした玄関開けっ放してよ」
親分いや社長の仁助が帰ってきた。
現場の状況が仁助にはすぐには理解できない。
倒れている竹子に気づいた。

「竹子どうした、口から泡を吹いているじゃないか、大丈夫か、サブローもサンペイも何じゃこれは。お前は誰か・・・」
前に回って進太郎を見た。
「お、なんだ進太郎か、誰かと思った。この有様はなん・・」

と言いかけて仁助は一瞬目をつぶり天井を見ながら、ゆっくりと進太郎を見た。
黙っている。
そして言った。
「進太郎・・・」

「はい進太郎です」
仁助もソファーに倒れ込んだ。
気絶している。
気絶した三人を横にサンペイが恐る恐る口を開いた。
「進太郎兄貴、まさか黄泉がえり、ですか」

「いや、黄泉がえりじゃねえわ、寄り道よ。なつかしいから会いに寄った。夜明け前には行かなきゃならねえ。奥の部屋にみんなを運ぶから手伝ってくれ」

「寄り道ねぇ、ようわからん。とりあえず運びましょう」
進太郎とサンペイが仁助と竹子とサブローを奥の居間に運んだ。
居間に漂うのは冥界の臭いか、線香に似てなくもない。
「起きて」
二人は三人の肩をゆさぶり順々に起こしていった。

あと一時間ほどで陽が昇る。
居間の大きなテーブルをはさんで五人が座っている。
蝋人形のような顔の進太郎は目だけが生きている。
「おどろかして申し訳ありません。お久しぶりです」
仁助が尋ねた。
「黄泉がえりじゃなく、寄り道らしいとサンペイが言ってるが」

「はい、黄泉がえりじゃございません。浄土から地獄へ行く途中の寄り道です」
「お前、わざわざ地獄へ行くんかい」
「はい、浄土から地獄へ」
竹子が言った。
「なんで地獄なの、アンタなら浄土でしょう」

 進太郎は事の始まりから説明を始めた。
「あの日、病院で死ぬ直前に天井に渦が巻いておりました。医者が『ご臨終です』と言った直後、その渦から閻魔が出てきました」

「直後かい」
「はい、わたしが死ぬことを待ってたように。で閻魔はこう言いました。『お前はヤクザながら善行も多く、浄土と地獄のどちらにも行けるようにした。どちらへ行くか選べ』と閻魔から言われましたので迷うことなく浄土を選びました。

ただどちらかを選べ、というのが奇妙なことで最初はその意味がわかりませんでしたが、浄土へと言った瞬間、まばたきする間に浄土にいけました。
「閻魔が出るのも浄土へ行くのもえらく早いの」
サブローが言った。
「デジタルの時代ですからね」
皆にはますますわからない。

「気づくと天女がいました」
「天女も出てくるのが早いの、どんな女じゃった」
「長い漆黒の髪に白い肌、目が大きく多少切れ目で鼻筋通り唇はしっとりと濡れ、その唇から出てくる声は桜のつぶやきのようでした」

桜のつぶやき、誰にも想像もできない。
桜のつぶやきなんだろうと思うしかない。

「天女はまさに浄土の花、あの顔に似た女はこの世では見たことがありません。身体も肉がつき胸も豊かで腰はくびれ、尻は厚く張り、股間は見えるようで見えず、つい手が出てそこに触ってしまいました」

「天女のあそこへ触ったのォ」
竹子が声を上げた。
「はい、するといきなり横にあった琵琶のバチで思いっきり鼻を切られました」
「鼻が横に切れているのはそのせいか」

「はい、天女は言いました『もう一度やればその場で地獄に蹴落とすぞえ』怒りに満ちたその顔は天女ではなく地獄の門番のような顔になっていました」
「ほう」

「天女は顔を元の顔に戻すと微笑みながら言いました『これは心と身体に残った不浄なものを洗い流す薬湯じゃ、飲みなされ』」
「否応はありません。飲みました」
『お前はめでたく浄土の住人となった』
というや周りから天女たちが現れましてな、笛が吹かれ太鼓が叩かれ舞が始まりました」

「なら女も酒も出たのか」
と仁助が聞いた。
「いいえ、女どころか茶さえも無く、天女たちの舞いも音曲もすぐに終わると景色が一変して浄土が現れたのです」

「何もかも忙しいの、それまでは浄土ではなかったのか」
「ものすごいスピードで飛ぶ白い雲の上に乗ってました」
サブローが問うた。
「浄土とは、どんな景色ですか」

「青い空、ゆっくりと漂う白い雲、あらゆる色がそろった花、透き通る水、高く舞う天女は悠々と空を舞い、美しくキレイで一点のシミ汚れもない景色じゃった。

遠く近く鳥が飛び交い、浄土に迎えられた人々がそこここで座り歩き談笑している。風はかすかに吹き、空からは歌が流れ、いい匂いが地から上がってきた。はるか彼方にはお釈迦様や大日如来様がおられた。
浄土にきて良かった、大した悪事をせんで良かった、と心底から思った」

進太郎がテーブルのコップを手にすると竹子がビールをついだ。
「いゃあ、うまい」
と言うと進太郎は少し黙ってしまった。

竹子が問うた。
「どうしたの、それからは」
進太郎は息を吸い吐いてぼちぼちと話しを続ける。
「はい、浄土は確かにええとこでした。浄土はまさに浄土でした。現世のあらゆる罪も汚れもありません。行ったその日も次の日も嬉しくてたまりませんでした。

しかし本当の浄土を知ったのはそれからでした。閻魔が浄土か地獄か選べと言った言葉の意味がそこでわかりました」
仁助が言った。
「どういうことか」

「その美しきものが素晴らしき光景が、絶対に変わることなくズズズゥ~ッと永遠に続くことを知ったのです」
「それがいけないのかい」
と竹子が言うと進太郎は答えた。

「奥さん、考えてみてください。どんなにキレイで美しくて純粋なものでも、それが永遠にズ~と続くことを考えてみてください。わたしは夜を三回繰り返してそれに気づきました。明日も同じ光景か、明後日も、来月も永遠にこれが続くのか。

天女は最高ですが男女の付き合いはできません。天女は酌をしてくれるわけでもなく、何しろ酒そのものもありません。天女は目が合うとほほ笑んでくれますが、そこで終わり。天女は用がない限り、声すらかけてはくれません。

浄土に満ちる善男善女たちも、ただそこにいるだけです。
銀座も渋谷も浅草も牛丼屋もハンバーガーショップもありません。
みんな呆けたような顔をしており、間抜けな鹿を見ているようでした。きっと考えることすら無い、その必要も無いのでしょう。あの善男善女は人ではなく、わたしには石にしか見えませんでした。

わたしはこれが浄土か、これが天の住み家か。そんなわたしを見下ろしていたお釈迦様も大日如来様も、わたしと目が合うと目をそらしました。そこには仏の慈愛は感じませんでした。
わたしは浄土に疑問を持ち、天女の一人に問いました。

「浄土とはこういうところか、何か刺激はないのか」
天女は私の周りをぐるりと回りながら言いました。
「お前は浄土に何を期待してまいった。人間の欲も希望も向上心さえも無いのが浄土じゃ。そのようなものがあるから罪も生まれる。そのようなものは人間世界のもの、ここにそのようなものは無い」

「ではこの光景が永遠に続くのか、アンタたち天女と遊ぶこともなく、添い寝してくれることもないのか」
「当たり前じゃ、ここをどこじゃと思うておる。ここは『浄土』であるぞ」
「しかし何も無いのはつらい」

「何も無いから浄土じゃ、何かあれば、それは浄土ではない」
「そりゃ屁理屈じゃないか」
「おのれ、屁理屈とはなんぞ、浄土をバカにする気か」
「言い過ぎたなら謝る。しかし永遠にこれではたまらぬ。他の者はどうしておる」

「何もしておらぬ、する気も無いし、お前のようなことも言わぬ」
「あの浄土の住人たちのように何もせず何も混じらず永遠にあのままか」
「そうじゃ。ここにいること、それだけが浄土よ、他の者はみなそうじゃ、恐れも焦りも欲も何も無い、永遠に何も変わることはない。それが浄土よ」

「そりゃ辛い」
「お前のう、あきらめねば浄土には住めぬぞ」
「オレのような苦情はないのか」
「苦情か、あるな、ようけある。あるが無視する決まりじゃ」

仁助が言った。
「奇麗も美しいも永遠に続けばそりゃ嫌にもなるわな」
竹子が続く。
「平和も戦争があるから、美しいのも汚れがあるから、なのよね」
竹子の言葉に一同は、ウン確かに、とうなづいた。

「それからどうした」
「それで天女に聞きました。この無欲と退屈はたまらん、変える手立てはないのか」
「ありまするよ、下へ行けばよい」

「下、地獄のことか」
「はい、地獄」
「他には」
「一つあるが、正体はわからぬ」
「何じゃそれは」

「何も見えず何も感じず何も聞こえず永遠に歩き続ける世界というのが定説じゃが本当のところは誰にもわからぬ。釈迦にも大日にもわからぬ。何しろ行ったものが一人とて帰ってこぬでの、誰にもどのようなところなのか、今もわからぬ」

「迷路のようなものじゃな」
「そうよ、行ってみねばわからぬところも多いし、行って後悔しても手遅れよ。お前もここへ来て浄土の真実を知ったであろう」

「しかし天女も女であろう、男は欲しくはないんか、オレでどうじゃ、と言うて手を握ると、笛で思いっきり頭をしばかれました」
「その頭の皮が剥げてるのはそのせいか」
「はい、怒らせたら天女ほど怖い者はおりません」

進太郎の話しは続く。
「わしの行けるところは地獄だけか」
「そうじゃ」
「なら地獄でええ、もう浄土はイヤじゃ、飽きた、飽きた、四日で飽きた、汚れててもええ、地獄へ落としてくれ」

「『はいよ、それでは』と天女は言うや、ゴム手袋をはめてわたしの手をつかみました」
「天女がゴム手袋はめたんか」
「はい、どこへ隠しておったのか、ゴム手袋でゴミをつかむようにわたしの手を」
竹子もみなも笑った。

「そのままわたしは引っ張られ、花の山に連れていかれました。その花山には大きな穴がありました。のぞくと真っ暗でした。天女は穴をのぞいているわたしの背中を蹴りました。とっさに穴の縁に手をかけると、天女はそのわたしの手を足で踏みつけながら言いました。

『地獄への穴じゃ、途中でお前がいた現世を通る。誰ぞに会いたくば会えるぞ。その記憶はお前とともに消えるがの。さらばじゃ仏敵め』と言われ頭を足で押し込まれ落とされました」
「仏敵、と言われたのか」
「はい」

「頭を足で押されたのか」
「はい、天女は足でオレの頭を・・・」
皆は顔を見合わせた。

進太郎が言う。
「天女の足の裏はガサガサでした」
皆が大笑いした。
竹子が笑いながら言った。
「天女の足の裏がどうしてガサガサなの?」

「なにか消毒薬のような臭いがしました。あいつ何してんでしょう」
竹子はヒーヒーと笑い転げている。

「穴を落ちていく途中、冠をかぶり着物を着ている牛と馬に会いました。見るとそばに人が通れるほどの穴が二つ開いてました。馬が言いました『地獄へ直行か、寄り道か』と聞くので寄り道と答えました」

「気がつくと表通りのバス停の標識のそばに立っていました。それでここへお邪魔に」
「何でも場面の転換が早いのね」
「天女も言ってました。『何もかも早いのが浄土、遅いのが地獄、意味深でしょ』て言うてました」

進太郎が続ける。
「この場の記憶はわたしとともに消えるそうです。お袋のことについては大変お世話になりました。その後も面倒をみてもらっており社長にも奥さんにもサブローとサンペイにもお礼申し上げます。ありがとうございました。

ただ、お袋に会いたいのですが、会うと泣かれますので会わずに地獄へまいります。
これよりは地獄からみなさんのご健康とご長寿をお祈りさせていただきます。お達者で」

と進太郎が言い頭を下げると仁助もみなも頭を下げた。
みなが頭を上げると進太郎は消えていた。
「消えるのも早いな」
と仁助が言った途端に皆の記憶も消えていた。

サブローとサンペイは事務所に戻った。
仁助はテレビをつけ、竹子は朝の支度を始めた。
東の空が明るくなる。
下田一家はいつもの様子に戻ったが、四人はなぜか進太郎を思い出していた。

 それからおよそひと月経ったころ四人の携帯に記事が届いた。
送り主のアドレスは無く、記事だけが送られてきた。
送り主の欄には進太郎とあり、こう書かれていた。

「あれから無事に地獄に落ちました。ここはまさに阿鼻叫喚の世界です。
ここには悪人や犯罪者だけではなく、普通の人間も無数にいます。
そう、普通の人間もやはり悪人なのです。
わたしはいま鬼の手伝いをしています。

最初に会ったとき鬼が言いました。
『お前は浄土から落ちてきたので地獄の仕置きには無関係じゃ。ここは人間の欲の総てが形になって見える場所でな、邪魔さえせねば人間のあらゆる姿が見える。退屈はせぬことは保証してやる。

オレの横で手伝いすれば地獄の総てが見える。ここでは人間が猿のころからの悪事が見える。どうじゃオレの手伝いをせぬか』
わたしは『手伝います』と答えました。

社長はじめ奥さん、サブローにサンペイ、この世で人間ほど悪い奴らはいません。地獄へ行くとそれがようわかります。人間は悪事をするために地球に現れたのか、とさえ思わされます。
人間の本性も丸裸にされ、偽善も見ぬかれ、噓もすぐにバレ、その場でお仕置きをされます。

地獄は飽きません。いつまでいても飽きない。
同じ光景を見ることは二度となく、いつも新鮮です。
浄土は偽りで真実は地獄にあったことにも気づきました。
鬼にそれを言うと笑っていました。
彼らもそれは知っているのです。

親分さんも姉さんもサブローもサンペイも、いつか現世を去るときには浄土よりも地獄をお勧めいたします。
人間、本音で生きねば浄土へ連れていかれます。
浄土は善人の偽物がいくところです。

わたしはいま確信しています。
本当の浄土は地獄にあり、真の地獄は浄土にあると。
いつか、いつの日か、地獄でお会いしましょう。
皆様のご健康とご長寿を心よりお祈りいたします。
                           進太郎。               

「何だこりゃ」
仁助が見ると皆も同じものを読んでいる。
竹子が言った。
「何よこれ、進太郎の名前で、誰がこんなものを・・」
仁助が言った。
「地獄なァ、でもわしゃやっぱり浄土のほうがええ」

竹子が言った。
「わたしも浄土がいい。ああそれとアンタ今月は進太郎の祥月命日だからね、ホームのお母さんを連れて墓参りに行かなきゃ」

母はホームでくしゃみしていた。


















まだ半信半疑で銀次郎の話しを聞いている。










「おれは一昨年に亡くなったからな」
「亡くなったって、死んだてことですか」
「そうよ」
「アンタ頭おかしいんじゃねえか」
「何がおかしい、だから戻ってきたって言っただろう。いいからさっさと親文か姉さんに伝えろ」







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