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     「わらび餅」              -- Short Story 2-2 --

いよいよ工事が始まった。
庭に小西と杉尾がユリコを挟んで立っている。
ヘラヘラしながら杉尾がユリコに言う。
「工事日和のいい天気になりましたね」
沈黙・・・
ユリコは杉尾の誘いに乗らない。
そもそも杉尾が嫌いなのだ。
他社のことやお客についてもしばしば悪口と批判に明け暮れる、その性格が気に入らないのだ。
今も思っている。
(あれでよく営業が務まるもんだわ。お客を脅して仕事取ってるに違いない)
しかし自分の都合しか考えない杉尾にユリコの気持ちは分からない。
(また小泉か)と杉尾は思い違いしながら「小泉は後ほど来ますから」と上目づかいで言った。
「ああ、そう、良かったぁ~」と途端にユリコは機嫌が良くなった。
(オレじゃ良くないのか)

ユリコは杉尾を斜めに見ながら思っている。
(相棒の小西と並んで東大OBらしいけど、それを鼻にかけてまあ態度の悪いこと。東大卒たってさ、受験合格のとき東大が頭を下げるような秀才もいれば、どん尻でどうしてこんなのが東大に、てのまで千差万別でしょ。この二人もどの辺りで合格したのかわかったもんじゃない。東大の看板だけで生きている奴に限って人を見下す。とはいえだからこそ事と次第によっては使えるかもね、う~ん、このコンビ、欲得で転びそうだし、やってみるか、人生はギャンブルだし・・・)

ユリコは小西と杉尾にシロアリ駆除の追加場所を指示した。
母屋に続いた離れだ。
基礎はコンクリートで湿気もないので換気扇は不要だが、シロアリ駆除は念のためにとした。
「コンクリートだけど床板が木材だし、ここも念のためにやっておいてちょうだい」
「はい、江田が来たらすぐに下見させます」

「高いから、お気をつけて」
ユリコが見上げている屋根には電気屋の玄葉が上がっている。
床下換気扇用の電源に使う小型のソーラーパネルを付けている。
そこへドドドとトラックが入ってきた。
シロアリ駆除の江田が作業員とともに2台に分乗してやってきた。
「換気扇が終わり次第、すぐにできるように早めに来ました」
小西は”離れの追加が出たから”と離れを指差すと、江田は
「じゃ先に下見してみます」と言って離れに行った。

 ところで、とユリコは江田の後ろ姿を見ながら言った。
「昨日あなたたちが帰ってすぐに自公ホームの荻生田さんが訪ねてきたわよ」
「すぐにですか」
「そうよ、あなたたちが帰るのをどこかで見てたんじゃないの」
小西と杉尾の表情が変わったが、それを感じ取ったユリコは楽しそうだ。
「あいつ荻生田の奴、近くにいたとは」
「あなたたちが帰ると同時に玄関に現れたのよ、断ったのにどうしてもて言うもんだから、仕方なくてね」
「どこに隠れていやがったのか」
「荻生田さんて、よく笑う人なんだけど、どこか無理して笑っているていうかウソ笑いしているような人よ、ご存じでしょ」
杉尾が言う。
「あいつ、『オレは誰にでも好かれる男』と広言する無神経野郎で、金になるなら同僚でも会社でも平気で裏切る奴ですよ」
小西が続いた。
「荻生田ねえ、見た目は貫禄がありそうだけど中身は無いってのが、もっぱらの噂です」
「愛想はいいけど暑苦しい顔でさ、言葉と腹の中は別てのがもろに顔に出ている人よ。しつこいし、うるさいし、もうついでだからと思って我慢して話しを聞いたけどさ」

「あいつ何て言ってましたか」
「換気扇とシロアリ駆除を立建に決めたんですか、あそこは札付きのワルの会社ですよ、ユリコさんどうしてうちに相談してくれなかったんですか」
「なんていきなり言われてさ」
「あいつ、小池さんをユリコさんて言ったんですか」

「そうよ、会ってまだ二度目なのにさ、何よこいつ、と思ったから言ったのよ。『荻生田だかオハギだか知らないけど、アンタわたしに会うの二度目でしょ。いきなりユリコさんとは何よ、無礼でしょ』
と言ったらサ、顔を真っ赤にしてハンカチで顔を拭き始めてさ、あわててんのよ、あれで営業本部長とはね、おどろいたわよ」

杉尾が言う。
「あいつは要領のいい奴でしてね、上役にもさもさものように仕えながら手のひら返しをやるんです。自公ホームも最近は人は多くても人材はおらず、特に元社長の安倍て人が亡くなってからは箍(たが)が外れたように社内はメチャクチャです。あんな奴でも幹部にしなきゃならないほど人材がいませんからね、あんな会社と関わっちゃダメですよ」
再び小西が続く。
「先日も荻生田たち主な営業部員がグルになって客を騙して裏金作ってたことがバレましてね、高齢者や女性だけの家の見積もりなんかを不当に膨らませて業者から法外なバックマージンを取っていたんです。会社と客にもバレていま大騒ぎなんですけど、請負業者に責任をなすりつけたあげくその業者とも揉めてるんです。あそこは庭の掃除でさえ頼んだらとんでもないことになりますよ」

「アンタたちだって正直者には見えないわよ」
「勘弁してくださいよ」
「本当のことでしょ」
「そりゃまあ」
と小西が言うと
「余計なこと言うな」
と杉尾が言って続けた。
「荻生田は一人で来たんですか」
「三人いたわよ、一緒に来たのは松野さんと和田さんて人だった」
「松野と和田も来てたんですか」
「そうよ、そう紹介された。二人ともねえ」
「何かありましたか」
「会っている間、松野さんはどこか遠くを見ているような人で得体の知れない人だったし、和田さんはピシっと決めた隙の無い身なりだったけど、話すと肝心なところは言葉を誤魔化すか、話しをすり替えるような人だった」
「和田は見た目がいいだけですから。何か契約は・・されてはいませんよね」
「ううん、まさかいきなりそれはしないけどさ、荻生田さんからはこの家の大改装をどうですかって勧められたわよ」
「それ、うちでやることに決まっているでしょ」
「ちょっと、何よそれ杉尾さん、わたしそんな約束も契約もしてないわよ」
「そりゃまあそうですが、うちと思ってたもんですから」
「あなたね、わたしをナメないでよね、やれば億かそれを超える仕事よ、そう簡単にはいかないわよ、こっちだって慎重になるわよ」

杉尾は算段が狂ったのか、すぐに本性を現した。
「あのね、ユリコさん」
言うと同時に杉尾は”しまった”という顔をした。
ユリコはすぐに反応した。
「ユリコ!? 杉尾さんねェ、あのねェ、ユリコて何よアンタまで、ユリコって誰よ。わたしを女だと思ってバカにすんじゃないわよ!」
ユリコの顔色が変わっている。
杉尾はあわてたが、小西もおどろいた。
二人の日ごろの営業がどういう態度でやってるか、もろに出た。
人を人とは思わない傲慢と思い上がり、それがこの二人の日常だ。

その様子を屋根の上から玄葉が見ている。
小西がユリコに頭を下げながら言った。
「ああ、すみません、小池さん。うちにやらせてもらえるようなお話しに受け取っていたもんですから」
「どう受け取るかはそちらの勝手でしょ。わたしはそんなことひと言も言ってないわよ」

「わかりました。わかりましたからご機嫌を直してください。こいつにはよく言い聞かせておきますから」
と小西は言いながら杉尾の頭を手帳で軽く小突いた。
杉尾は怒った。
「お前に小突かれる覚えはないぞ、お前だって陰ではユリコて言ってるだろうが、何でオレがお前に言われなきゃならないんだよォ。おまけにオレの頭どつきやがって、なんだキサマ」

「ま、まあ、こんなところで大声出すなよ」
「大声出して何が悪い、ユリコに謝って言い直せ」
「ユリコじゃないと言ったでしょ!何よアンタたち、こっちもただの女じゃないわよ。ケンカするなら買ってやるわよ」
ユリコも素が出て玄葉たちに言った。
「ちょっと作業の人、仕事やめてちょうだい。こんなクソ会社の仕事なんかやめてやる。みんなやめて帰りなさい」
するとバッと小西が地べたに座わって土下座すると杉尾も躊躇なく土下座した。
欲のためなら尊大傲慢にもなれば土下座もする二人、元から自尊心も何も無い。

「この小西、杉尾ともども伏してお詫び申し上げます。申し訳ございません。心からお詫び申し上げます。お許しください。このままではわたしは会社をクビになります。仕事を続けさせてください」
杉尾も続いた。
「わたしには病持ちの両親とアメリカで手術を受けさせねばならない娘がおります。何とぞ何とぞご勘弁いただきたく」
玄葉は屋根の上で思った。
(何が病持ちの両親と手術する娘だよ、ウソつきめ)
杉尾と小西は調子を合わせて二人で大声でユリコに言った。
「小池様ァ~ お許しくださいませえぇ~」

離れの床下の換気口からそれを見聞きしていた江田が大声で笑うのがユリコにも聞こえた。
ユリコは改めて考えた。
(小西も杉尾も人格そのものがアブナイ。下手に扱うと何されるかわからないけど、やはりこの二人、自尊心もなきゃ正義感も無さそう。賭けてみるかな、人生はギャンブルだもん、離れに行っている江田次第だけど)
ユリコはなぜか笑い始めた。
小西と杉尾は『やったぜ』と思ったが、ユリコの笑顔の意味は違っていた。

その江田が換気口の向こうから顔だけ見せて小西と杉尾に向けて言った。
「でさあ、オレたちこれで帰ってええのォ、仕事は済んでなくても今日の日当と材料・経費はもらいますよ」
小西と杉尾はユリコを見た。
ユリコは急に優しくなって江田に言った。
「ついでだから最後までやってちょうだい。工事屋さんには関係ないことだから、わたしもつい言い過ぎちゃった」
小西と杉尾はユリコに謝った。
「申し訳ありません」
「もういいわよ」
作業が再開された。

 すると表に車が停まった。
中から男が二人と女が一人出てきた。
小西と杉尾も気づき、小西が言った。
「荻生田じゃないか」
杉尾が続いた。
「荻生田とあれは松下か、それに松川まで」
ユリコが杉尾に尋ねた。
「荻生田さんは知ってるけど。あとの二人は初めてよ」
小西が答えた。
「男のほうは松下と言いましてね、中国人の女に取り込まれたあげく本妻を捨てて二号にしている男です。自公ホームの社長の岸田も温い男ですが、さすがに外聞が悪くて言ったそうです。『中国人の二号とはいかがなものか、示しがつきません』すると松下はこう答えたそうです。『それは違います。二号ではありません。一号を二号に降格しましたからいまは彼女が一号です』」
それが聞こえた玄葉は屋根の上で笑っている。

「それで松川さんは」
「客の金を流用してパリで大騒ぎしたのがバレましてね、社内や客の間で大問題を起こした女ですよ。自分では大した営業も出来ぬまま他の営業の手柄をパクって生きている女です」
「仕事以外で話題になる人たちばかりね」

 するとそこへまた車が停まって男が一人降りた。
「ありがとうございましたァー」
砂浜を走りながら叫ぶ高校生のように走ってきてユリコに挨拶した。
「小泉です。お世話になります。遅くなりました」
ユリコの相好が一気にくずれた。
「いいのよォ・・一々名前を言わないでも、知ってるわよ」

そこへ荻生田から声がかかった。
「おう小泉、この裏切り者め。よくオレたちの前に顔がさらせるな。この野郎」
小泉は青くなって固まり、小さな声で言った。
「ご無沙汰してます」

ユリコの屋敷には大きな庭があり東屋がある。
「大勢でここにいると仕事の邪魔だから東屋に来て」
東屋にはコの字型に木製のベンチが置いてあり、真ん中にテーブルがある。
真ん中にユリコが座ると右に荻生田たち、左に小西、杉尾が座り、小泉はユリコのすぐ横に座った、いや座らされた。

ユリコは笑いながら言った。
「呉越同舟とはこのことね、ここならいくらケンカしてもいいわよ」
だが荻生田は黙ったままだ。
松下は心ここにあらず、辺りを見回しているだけだ。
松川はどういう意味なのか、笑い続けている。

ユリコは思った。
(荻生田たち、おかしい。特に松川というこの女、どこかおかしい)
だが松川も横目でユリコを見ながら思っている。
(変な婆、わたしに何か言いたいことでもあるなら、さっさと言いなさいよ)

 軽トラの冷凍車が停まって運転手が和菓子屋の包みや箱を持ってきた。
「あ~ら、早かったわね、ご苦労さん」
と言いながユリコは包みを開いた。
和菓子と紙の皿が入っている。
ユリコは紙の皿を配りながら「前もって頼んでいたんだけど、数が足りるかどうか分からないけど召し上がってちょうだい」
「わらび餅ですか」
「そうよ、ここのわらび餅、高いけど美味しいのよ。わたし大好きなの」

真っ先に口に入れたのは小泉だ。
「いやあこれは美味しい。さすがですね、ユリコさん」
だがユリコはニコニコ笑っている。
小西と杉尾は思った。
(ユリコ呼びも小泉ならいいのかよ)

続いて松川も「じゃわたしも」と言いながら一つ取った。
松下はじっとわらび餅を見ている。
「どうぞ、召し上がれ。口には合わないかな」
荻生田は仕方なしに一つ取ると口に入れてモサモサと食い始めた。
小西と杉尾も続いた。
みな黙ってわらび餅を食っている。
ユリコ以外に嬉しそうなのは小泉と松川だけだ。

そのころ離れの床下では下見をしていた江田がキノコを見つけていた。
「キノコか、見たことない奇妙な形だ、それにここだけ群生している」
気になるのだろう、小さなスコップで掘り始めた。
十センチくらい掘ったところで布の端っこが出てきた。
布を引っ張るとパラパラと千切れたが、下にはまだ残っている。
ふと江田は思い出した。
半月ばかり前にやはり立建の仕事で近所の家のシロアリ駆除の仕事をしたことがある。
あのとき、そこの奥さんがこの屋敷の話しをしていた。

(あの家の主は資産家ですが、その奥さんが亡くなると、入れ替わるように入り込んできたのが小池さんです。仲は良かったようですが、二年くらい経ったとき、主が奥多摩の山に行ってくると言って出たまま行方不明になったのです。遭難の可能性もあって大がかりな捜索が行われましたが、見つからないままです。でも小池さんはそれ以来、主はきっと生きている、必ず帰ってくる、わたしは待ちます、と言いながら、あの屋敷にいるんです。

親戚も何度もやってきては小池さんに『出て行け』『出て行け』としつこく迫ったそうです。しかし小池さんは出ていかず、結婚届はしていなくても生活も同じくして実質的な夫婦であり、人間的縁は切れてはいないとして屋敷から出て行かず、親戚とも絶縁しているそうです。裁判沙汰にもなったようですが、示談となったものの、双方譲らずそのまま今に至っているようです。不動産の証書も預貯金の通帳も現金も実印も総て小池さんが握っているそうです)

足元を見る江田の顔色が変わっている。
(まさか)
また掘り始めた。
すると何か硬いモノに当たった。
少しこさいでみた。
江田が想像していた通りのモノが現れた。
(悪夢・・警察・・・)
しかし江田は考えた。
(新聞やテレビは喜ぶが、オレは商売にならん。主の親戚が儲けるだけじゃねえか、オレたちは全員が損するだけ、今さらこれを暴いて何になる。この仏も自分の家の床下にいるんだ。ここを出て遠い墓地に行きたくもあるまい。小西と杉尾に相談してみよう。あいつらも儲けをフイにしたくはあるまい。それになぜわざわざ離れの仕事を追加したのか、それが気になる」

江田は床下から小西に電話した。
すぐに二人がやってきた。
ユリコは小泉をおいて東屋から二人の後ろ姿を追っている。

「二人ともここへ入って」
「おりゃイヤだ」
江田の顔が本気になった。
「いいから杉尾さん、入りなよ、こりゃ仕事とは違う、誰か来ないうちにさっさと入れよ」
小西も杉尾も江田のただならぬ雰囲気に気づいた。
床下で三人が小声で話している。

しばらくして小西と杉尾が真っ青な顔で上がってきた。
手洗いに行くふりをして互いに顔を洗い、服も整え、何事もないような顔をしながらユリコのいる東屋に戻った。
江田は穴を埋め戻し、素知らぬ顔でシロアリ駆除の下見を続けている。

東屋で小西が言った。
「小池さん、わらび餅まだいただいてよろしいですか」
すでにユリコは感づいている。
(床下の江田とやらが気づいたようね、さあどう出る小西と杉尾、わたしにここで言うか、警察に電話するか)
「ああ、どうぞ、全部食べていただいてもいいわよ」
小西と杉尾は普段は絶対に食わないわらび餅を二人で食べ始めた。
ユリコはそれを見て思った。
(思った通り、この二人、欲には勝てないわ)

小西と杉尾はユリコを見ているが、ユリコも二人を見ている。
小西が言った。
「離れの追加工事でご相談があるので後ほどお時間いただけますか」
「ああ、いいわよ」
ユリコは続けた。
「ここの工事、これからも全部リフォーム立建さんにお願いするから自公ホームさんはお帰りになって結構よ」
荻生田の顔が真っ赤になった。
「いいんですか、立建なんかに全部やらせて」

「いいのよ、小泉クンには担当としてここへ常駐してもらうから、ねえ、いいよね小泉クン」
小泉は思いもかけぬ言葉に青くなった。
(小西さん・・)
と小西を見ると小西が乾いた笑い声で言った。
「そうしろ、小泉。嫁さん子どもと生き別れするわけじゃねえし、たまに家に帰ってやればいいじゃねえか」

「たまに・・・」
小泉はフラフラしながら立ち眩みしたのか、知ってか知らずか、バサッとユリコにのしかかった。
「キャー、いやだァ~小泉クンは~」
小泉が立ち上がろうとするとユリコが抱くように引っ張った。
その場の全員が呆然とそれを見ている。

荻生田の顔から火が噴いた。
「オイッ、帰るぞ、クソ、こんな家」
小泉が言った。
「荻生田さん、荻生田さん、待って」
「うるせえ、この裏切り者、ババアと心中でもしろ」
荻生田の後ろを松下と松川が必死で追いかけた。
車に乗ると荻生田が窓を開けて叫んだ。
「わらび餅をアリガトウ、婆ちゃん」

ユリコが言った。
「長生きするわよ、まだ百年生きてやる。小泉クンが歳取ったら床下にでも埋めてやるわよ~~ォ」
小西は杉尾と顔を見合わせ小声で言った。
(ユリコ、どこまで本気なのか正気なのか、狂ってんじゃないか)
床下では江田が汗をかきながら穴を埋めた跡をスコップで叩いて固めていた。

江田が上がってきて小西と杉尾を見た。
小西と杉尾はこの瞬間に江田と三人組になったことを覚った。
それをユリコも感づき、思った。
(賭けに勝った。このままこの屋敷の資産も金も思いっきり使いまくってやる。あのクソ爺にはそれを毎日毎晩床下から見上げさせてやる)。
江田がユリコに言った。
「離れは明日やります。シロアリがつくことはなく、安心して暮していけます」
ユリコが聞いた。
「安心して暮していけるのね」
「はい、大丈夫です」
と江田は言いながら小西と杉尾を見ると二人もうなづいた。

ユリコが言った。
「床下に何か忘れ物していた気がするのだけど」
「床下は隅から隅まで確認しました。何もありません」
ユリコはニコニコ笑いながら言った。
「ありがとう、これからもよろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
と返しながら江田は思った。
(このユリコ、床下の隠し物を承知でオレを入らせたのか、オレは試されたわけか、参ったなこりゃ。オレたちも小泉も死ぬまで突き合わせて介護もさせる気だろうな。ここの莫大な資産、オレたちももらうぞ。もう共犯だ、儲けさせてもらうぞ)

ユリコの隣で小泉が、しおれた顔でわらび餅の箱を見ていた。


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