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髪の毛、奉納しに行こう。

「麻理ちゃんになら、坊主にされてもいい。」

始まりは突然で、出会ったその日のこと。

そして、次の日に、お互いの髪の毛を持って神社へ。

髪は、神さまへ

「髪の毛、奉納しに行こう。」

これが、初デートになるなんて。

誰が予想できた?


1 出会い(夕方)

その日は前日から、師匠の家で勉強会をしていた。夕方ごろ、彼の友達が家に帰ってくる。

「かっちゃんでーす。」

第一印象は、スマートな男性。以上。広島から仕事で大阪に来ていたらしい。他愛もない話をしながら、師匠が流すyoutubeで短編の映像を観ている最中、そわそわするかっちゃん。こそっと筆談で、

「ADHDは、映画をじっと観てられない」あはは、と笑う。口癖は、

「大丈夫、俺オーガニックだから!」よく分からない安心感を出す、ちょっと変わった人。


2 反省坊主

終始笑顔で、よく喋る。明るい感じに見えて、実はここ1年くらいに、身の回りにいろんなことが起きて、苦労してきたらしい。でもそれは自分がかなり悪かったようで、反省しないといけない時だったらしい。

まだまだ話は続き、かっちゃんは自分でADHDの自覚があり、生きづらい思いをしてきたんだなと感じた。私は小学校の先生をしていたので、そんな子どもたちをたくさん見ていた。だから、気持ちは分からなくとも、みんなそれぞれ個性であり、理解し合うべきと考えていたので、話を聞いていた。

「やっぱり坊主かなーーーー!」

反省坊主。これで気持ちよく次へ進もうと。かっちゃんは決意を固めていく。が、35年間大切にしてきた髪の毛への思いは大きい。       そして、まだ坊主にはならなかった。


3 私の状態(夜)

その時、私には好きな人がいた。その人との繋がりで、師匠と出会ったので、この家にもたまに遊びに来て会うことがあった。少し、というか、かなりややこしい状態だったので、その相談も師匠に乗ってもらっていた。その日もかっちゃん交えて話をしていた。かっちゃんも知り合いだった。そして、夜中に女友達を連れて遊びに来ると連絡があった。

「やだーーー!どうしよう。しかも女連れとか!!会えない!!かっちゃん!!助けてー!!」

と私も動揺する中、かっちゃんは言った。

「大丈夫、俺オーガニックだから!」

いや、だからそれ、よく分からない安心感!!

私の好きだった人と、可愛い女の子がやって来る。私はそわそわしながら、複雑な気持ちで二人の様子をうかがう。なんだかどうでもよくなってくる。

そして、コトは起きるのです。


4 断髪式(夜中)

ついに覚悟を決めたのか、かっちゃんが突然

「麻理ちゃんになら、坊主にされてもいい!!」

え? 何で? 私?

私に白羽の矢が立つ。バリカンも使ったことない私に頼むなんて、何てバカな、、と言いつつ、 冗談でしょ?と笑っていた。そこから時間がかかるのだけど、本当に坊主にしないと反省できない状態であったのか、一世一代の反省という意気込みを感じる。それを聞いて、私もどこからやってきたのでしょうかね。使命感に駆られてしまったのです。

「かっちゃんが本気で坊主にするなら、私の髪も切って!」

本当に、私は阿呆でした。二人で風呂場で。まずはかっちゃんを坊主に。そして、私の髪をかっちゃんが、1束、ばさっと。。。。

切られてから、絶句。

「絶句」って、こういう状態のことなんだと、生まれて初めて感じた。いやいや、ちょっとだけって言ったやん!ってもう遅い。。。私は髪が長く、へそ辺りまであったのですが、右側の約3分の1が肩の上までなくなった。

互いにハグをして、シャワーを浴びて、断髪式を無事に終えた。


5 神社へ奉納(次の日)

伊勢神宮へ行こう。と言っていたのだが、出発が遅れ、次の日は出勤だったので、奈良の天河神社へ行くことになった。車の中では、好きな人を落とすアドバイスをいっぱいしてくれた。

「俺だったら絶対落とせるんだけどなー。」

と、自信満々に。そこからいろんな話をした。夢の話もした。

「麻理ちゃんの夢は?」

「好きな人と普通のデートがしたい。」

「車でどっか行ったり。」

「楽しいねーって言ったら、楽しいねーって答えてくれたり。」

「美味しいねーって言ったら、美味しいねーって答えてくれたり。」

「できるよー!!」

途中、コンビニでチョコを買った。私が高いのと安いので迷ってたら、

「今日は特別だから、高いのにしようね。」

と、迷わず選んでくれた。

面白いことに、私の家から師匠の家まで、479号線で一本で行ける。またそこから天河神社までも、同じ道で一本で繋がっていた。

結果的に言うと、髪の毛は奉納することができなかった。説明しても、神社の人に断られてしまった。でも何故か、お互い気持ちは晴れ晴れしていた。

「楽しいねー!!」

「楽しいね。」

帰り道、「麻理ちゃんに食べさせたいものがあるんだー。」と、友達のお店へ連れて行ってくれた。すなちゃんの作るサラダは、今まで食べた中で一番美味しかった。本当に美味しくて、

「美味しいねー!」

「美味しいね。」

と、ずっと笑顔で、嬉しくって、幸せだった。

そこで気づいてしまった。

かっちゃんは、私の夢を叶えてくれる人だ。

この人といたら、私の夢はどんどん叶っていく。

かっちゃんのことが、好きだ。

そして、かっちゃんは広島へ帰った。


6 終わりの始まり(その次の日)

「麻理ちゃーん、今何してるのー?今からそっち行ってもいい?」

「もちろん!」

「ほんとに行っちゃうよー!」

夜中に荷物を持って、本当にやって来た。

その日から、ずっと一緒にいる。


かっちゃんの髪の毛は少し伸びた。もう坊主じゃない。私は中途半端で、短いところと、長いところがあの日のまま。

始まりは突然で、誰も予想できない。出会いから、初めてのデート、そして今。ケンカもたくさんした。もちろん、人の気持ちは変わっていくもの。変わらないものなんて何もない。でも、あの日のできごとは、私は一生忘れない。その時の気持ちはずっと変わらない。

出会ってくれて、ありがとう◎

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