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江崎グリコのシステム障害が大変そうです・・・

 ゴールデンウィークだと言うのに、江崎グリコさんのシステム障害が長引いています。関係者の方は大変な思いをしていることと想像します。
 データサイエンスの端くれに身を置いていた者としては、他人事と思えないので少し調べてみました。


新聞報道のまとめ

 沢山の報道がされていますので、詳細はそちらを参照していただくのが確実です。
 ただ、簡単な経緯を日本経済新聞の記事を参考に図にしてみました。

江崎グリコのシステム障害経緯 出所:日本経済新聞 4月23日、5月1日 記事

SAPに全更新・・・

 どうも、古いシステムをSAP s/HANAに全更新したようです。
 もうこの時点で、「あー、要件定義が、大変そうだなー」と思いました。
 特に、SAP s/HANAは、外国のシステムなので業務自体をSAPに合わせない限り、カスタマイズの必要があると聞いたことがあります。
 しかも、そのカスタマイズ用の要件定義が古いシステム前提だとボロボロになりそうです・・・。なにせ、システム作った人は残っていないし、文書化もされていないし、どんな業務フローに成っているかを一から検討する必要があるし、と何十苦もの困難な案件だろうと想像されます。

手作業での修正・・・

 最初の報道では「冷蔵品のみが出荷不可」との報道のようでしたが、続報を見ると、「全品種に不具合発生」「納期に余裕のある常温品と冷凍品は手作業で修正」だったようです。
 うーん、中の人の苦労が偲ばれます。「だから、試験運転時にデータ不整合があるって言ったじゃない」「お前、未来永劫この作業やれってか?!」「しょうがない、出荷しないとどうにもならないから、無理やりでもヤレ!!」とかありそうです。
 阿鼻叫喚な現場が想像されます・・・。
 ただ、全品種で不具合発生のようですし、システム全体運用では無くデータベースだけの運用でもトラブル発生ですから、そもそもデータベースへのデータ反映自体に漏れがあるか、根本的なシステム構築の失敗みたいです。これ、ちょっとやそっとじゃ手直しできないレベルに感じます。

一度延期しているみたい・・・

 どうも、報道からすると一度運用開始を延期しているみたいです。
 すでに兆候があったみたいです・・・。

原因を想像(妄想)してみました

 ほとんど内部情報を持ち合わせていないので、ここからは完全な妄想になります。妄想だと思ってご容赦ください。

SAPは日本の複雑な業務に合わない気がします

 SAPは、ERP(Enterprise Resources Planning)の一番有名なアプリケーションで、海外企業とかは多く導入しています。なので、海外子会社等があるとSAPを使っているところが多く、全社でデータ統一しようとするとSAPが第一候補になる場合が多いです。
 あと、SAP s/HANAはSAPの旧バージョンから更新するのも一苦労と聞いていますし、導入コストも高価になるようです。
 ところがSAPは、海外のアプリケーションなので、彼らの都合で作られており融通が全く利かないようです。このあたり、専門家では無いので詳細は分かりませんが、日本の業務システムに適用しようとするとカスタマイズの嵐になるそうです。
 カスタマイズはお金もかかりますし、全体の整合性を取るのに苦労しますので(ひとつや二つのカスタマイズで済むことはありませんので、複数の整合性を取る必要が・・・)、システム全体として整合性を取るのが難しくなります。
 いっそのこと、業務自体をSAPに合わせるしか手は無いと感じます。
 ただ、どこまで業務を変えられるかの共通認識(社内コンセンサスかな?)を社内で取るのが大変です。大概、現場は言うことを聞いてくれませんし、今回のように出荷できない事態になったら現場の責任になってしまいますので大きな抵抗があります。
 なので、業務を根本から見直す必要があります。本当に今の手順が必要なのか、イレギュラー対応はどこまで必要なのか、SAPに寄せた場合には何を諦めなければいけないか(納期、在庫数等々)、等の気の遠くなる作業です。(想像したくないほど・・・)

コンサルはおおむね役に立ちません

 このように難しい案件だと、コンサルが1枚かむことが多いですが、このコンサルが役に立ちません。
 何故かと言うと、課題が発注企業の内部構造にあることが多いからです。
 コンサルが役に立つのは、「他社での導入実績」「SAP自体の課題整理」「SAPを利用したデータ解析」あたりで、「自社の課題整理」には及び腰になります。
 というか、外野から自社の課題を解決できるほどのコンサルを見たことがありません。大概はコンサルの偏った見識を押し付けて来るだけで、現場としては「そんなの分かっとるわい!」「で、課題提起だけで終わり?」「だから、そこからどうするかが問題なの!」となりがちです。
 少なくとも、自社内に「課題を正確に認識していて」「関係部署への調整ができる」人材が居る必要があります。その自社のキーマンがコンサルを外圧としてうまく使って、やっとプロジェクトが動く感じです。それでも入り口にたどり着けただけで、プロジェクトがうまく行く保障は無いと思います。
 今回公式にはコンサルやベンダーの情報は出てきていませんが、コンサルはデロイトトーマツが噛んでいるようです。IT系ではあまり良い噂は聞きません(アクセンチュアの後塵を拝している感じですかねー)。

内部もやばそうです

 グリコの内部を調べてみました。
 組織図を探しましたが、なかなかヒットせず、SAP導入の責任者も良くわかりませんでした。もしかすると、「デジタル推進部」あたりが主幹かもしれません。ただ、「デジタル推進部」だとデータサイエンティストは居たとしても業務の詳細フローや肝についての調整は難しそうな気がします。古参の情報システム(旧システムの開発者とか)が残っていれば別ですが・・・。
 また、気になるのが社長交代が40年ぶりにあったことです。
 どうも創業一族のようです。
 これ結構危険な兆候です。たとえばビッグモータさんとか大塚家具さんとかも、世襲に失敗しているので既視感満載です。

 どうしても、新しい社長に交代(しかも世襲)すると、「私の実力を見せてやる」「新しい技術(MBAとかDXとか)で革新」とかやりたく成るようです。
 そうすると、新社長の取り巻きが出来てきて、それらが現場の声を聴かずに(聴けずにもありそう)プロジェクトをごり押ししそうです。その取り巻きが転職者ばかりだと現場の実態が解らずに、目も当てられない惨状になりそうです。
 たぶん今回も「DX改革」みたいな手段の目的化でSAP化が進んだ可能性がありそうです(あくまでも妄想です)。

悪魔合体の可能性も

 仮に、「役に立たないコンサル」と「現場を無視した経営」が組み合わさっていたとしたら、まあ上手くいかないです。
 有名なデータサイエンティストの尾崎さんのブログでも、「軽薄なデータサイエンティストとまともなデータを持たない現場が悪魔合体すると何も結果が出ない」とありました。
 グリコでも悪魔合体が起きていた可能性を感じます(あくまでも妄想です)。


データサイエンティストという職業の10年間の変遷を振り返る 抜粋図
出所:渋谷駅前で働くデータサイエンティスト
ご隠居_むらたん 抜粋して図を作成

 現場や末端の技術者(カスタマイズ担当したベンダーとか)の苦労が偲ばれます・・・。デスマーチが流れていそうです(しつこいようですが妄想です)。

あきらめて、SAPに寄せるしか無いと思います

 実は、SAP等のERPは、データサイエンティスト側としては願ったり叶ったりのツールです。
 データの整合性はとれていますし、データの前処理はやりやすいですし、楽にデータ解析の仕事ができます。
 なので、最終的にSAP等でERPをすることに異論はありません。
 ただし、完成するまでの苦労が、得られるメリット(ベネフィット)と見合うかの判断が難しいところです。まさに経営判断となると思います。
 グリコの例では、高額の投資をしてしまいましたし、実稼働が上手く行かなくて商流を止めてしまいました。
 もう、昔のシステムに戻すことは無理でしょう(サンクコストにするには古いシステムの寿命が来ているので元々無理)。
 覚悟を決めて、今のSAPに寄せた業務フローを構築するしか無いと感じます。責任者の方は少々のロス(在庫量とかイレギュラー対応とか)はこの際、諦めましょう。
 担当者の方々は、生みの苦しみと諦めるしか無いでしょう。
 少なくとも、「あの、プロジェクトの当事者でした」の経験は役に立つと思います。たぶん、これからERPを導入する企業から引く手あまただと思いますので(あまり、慰めにならないかー)。


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