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EVは自動車の主流になるのは無理だと思います。

 私、社会人の初期の時代に電気メッキの専門家でした。(紆余曲折あって最後はデータサイエンスの教育担当になりましたが・・・)
 その専門家の観点で昔から「どう考えても、EVは無理なんだけど、何故みなさんできると思っているのだろう?」「もしかすると、私の知らない原理があるのかなー」と感じていました。
 やっと最近、「テスラが低価格EVの開発中止」とか「EV市場で強まる逆風、中古需要が低迷」といった記事が出るようになりました。
 そりゃ、当たり前だ。


3つの理由でEVは不利です


EVは無理だと思う3つの理由

 EVはもともと次の3つの理由で不利だと思っています。

電池の限界があります

 もともと電池はエネルギー密度が低いです。
 リチウムイオン電池(LiB)はとても優秀な電池で、エネルギー密度が高いことで有名ですが、それは「電池の中では優秀」なだけです。
 燃料のエネルギー密度は破格に大きいですので、エンジン効率を差し引いても内燃エンジンは高いエネルギー密度を持ちます。
 このあたりの話はHydorgen to Xさんのnote記事(エネルギー密度や出力密度をグラフで分かりやすく説明してくれています)に詳しく書いてありますので、そちらを参照していただくのが良いです。
 これを見ると、ガソリンとか軽油の液体燃料が如何に優秀かが解ります。
(Hydorgen to Xさんは水素推しですが・・・。すみません)

 電池の場合、「正極」「負極」「電解質」「電極」が必要になります。どんなに技術が進化してもこれらをゼロにすることは出来ません。
 そして、それらは電流を使用しても重量が減らないので、いつも重い電池を抱えたまま移動する必要があります。
 一方、従来のエンジン自動車の場合は、正極に当たる酸化剤は空気から供給されますし、負極に当たる燃料は燃焼とともに排気ガスとなって排出されるので重量が減少します。(燃費を良くするために満タンにしないこともあるくらいです)
 この重量の課題は、今話題の「固体電解質」にしようが「LiイオンをNaイオンに」しようが避けられません。(正極を空気を使う空気電池は別ですが・・・)
 もう一つ、電池の課題は寿命です。
 寿命の原因はいくつかありますが、特に正極材の劣化は致命的です。
 LiBの正極材にはNi,Mn,Coの三元系が使われることが多いです。この正極材が化学的に変化して電流を出すのですが、その化学変化の際に「相変化、構造変化」「阻害物の生成(炭酸塩とか)」「クラック発生による微細化での導電パス消失」等が起きてしまいます。これは固体の化学反応の場合、程度の問題はあれど必ず発生します。
 電池では、これを抑制するために電極を液体にしてしまうこともあるくらいです。液体なら化学変化しても劣化した液体を排除するだけで性能を維持できます。NAS電池やレドックスフロー電池はその例です。

重量の限界があります

 電池の課題はあれど、「それを許容すればいいんでしょ」と思うかもしれません。ところが、移動体の場合は重量を際限なく大きくすることは効率上無理があります。
 特にEVの場合は航続距離が電池容量依存になるので、従来の自動車と同じ航続距離にする場合、結構な重量の電池を積む必要があります。
 そうすると、重量が大きい車体を移動することになるので、その部分でのエネルギー効率が低下していきます。
 さらに、前述の電池寿命の課題から使えば使うほど航続距離が短くなる欠点があります(重量は重いままです)。
 最近になってやっと「重いEVはタイヤ消耗が激しい」と報道されるようになってきました。
 ただ、LiBはエネルギー出力密度が高いので、短期間の動力性能は高くできます。なので、EVは凄い加速度が実現できます。(それが素人に受けたりします。実用上不要なのですが・・・)
 また、ドローンのような飛行体に使用できるのもエネルギー出力密度が高いおかげです。その代わり持続時間が短いです。

充電の限界があります(くどいので、飛ばしてOKです!)

 それでも、「充電スタンドを沢山作れば良いんでしょ」と思うかもしれません。これも、かなり無理があります。
 そもそも、これだけの電池を充電するのが容易ではありません。
 充電は電気化学反応なので、どうしても単位セルの電圧で電流を供給する必要があります。これ、電流を大きくし過ぎると、電気化学反応が追い付かない「限界電流密度」という限界を迎えます。
 限界電流密度は技術的に色々対策方法がありますが、こんなコンパクトにした電極構造の電池内で実施するのは難しいです。
 固体電解質なら電荷移動が速いとも言われていますが、正極材の電気化学反応は如何ともし難いと思います。(パルス電流やPR電解くらいしか思いつきません。)
 また、セル単位の電圧は低いので電流が大きくなります。その部分でのオーム損が馬鹿にならないです(充電中の発熱も)。
 なので、現在の高速充電のレベルが限界だろうと思います。だから今の電池容量やそれ以上の電池容量では、20~30分程度の充電時間より短くは出来ないでしょう。
 もう一つ、充電設備もかなり高価でスペースを必要とします。私の携わったメッキラインの電源の場合、高圧電源からキュービクルを介して直流整流器を経由して直流電流を供給していました。高速充電設備も同じような電源が必要だと思います。
 こんな設備を街中に沢山設置するのはコスト的に無理な気がします。多分、設備投資を回収するにはガソリンと同程度の費用をいただく必要があると思います。
 交換式の電池も考えられますが、その大量の電池を充電する設備や電池の物流にかかるコストを回収できる気がしません。(まあ、気がするだけで試算等はやっていません)

EVは短距離か電車のような電気供給するしかないです

 これまでの欠点を考えると、EVが生き残る方法は以下の2つだと思っています。

短距離コミューター

 短距離のコミューターなら、電池の欠点は緩和されます。電池容量も少なくてすみますし、高速充電も不要です。
 これなら、EVの良さを享受できます。郵便局や宅配なんかは最適な気がします。
 あとは大気汚染が激しい都市での移動手段(短距離限定)です。
 しかし、市場規模はとても小さくなりますので、今の開発費を回収できるほどの売り上げは見込めないでしょう。

電車の様な電気供給

 モーターは駆動装置として優秀なので、電池さえ不要であれば問題ありません。電車が効率的なのは電線で電気を供給し、燃料さえも積む必要が無いところにあります。
 自動車の場合、さすがに有線での電気供給は難しいです。電圧がかかっている線が道路にあるのは危険すぎます。感電死する人が続出しそうです。
 その代わりに電磁誘導を使った方法が検討されています。
 ただし、かなりのインフラ整備が必要になります。

EV推しは欧州の政治的な産物だと思っています

 トヨタ自動車は昔からEVの限界を知っていて、HVやPHV推しでした。
 それを、欧州が政治的に無理押ししたのがEVの始まりだと思っています。
 そもそも、その前はディーゼル推しやダウンサイジング推しの人達が、一足飛びにEVは無理でしょ・・・。
 欧州はEVでイニシアチブを握ったつもりになっていたのが、そのEVを中国に乗っ取られそうになったので、軌道修正している気がしています。
 欧州や米国発信の情報は穿って見る必要があると思っています。奇麗ごとのオブラートで包んでいますが、根はマキャベリの「君主論」の考え方が強い気がします。一部、本気で信じているお目出たい人もいるようですが、それらは上手く利用されているだけでしょう。

 また今回の記事のように、EVが無理そうだというのは、それなりの技術者なら百も承知だと思います。それでも、儲かるとなれば開発や生産しなければならないのがサラリーマンのつらいところです。

※あくまでも、個人的な感想です。年寄りのたわごとと大目に見てください・・・。

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