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「韓国女性映画 わたしたちの物語」

「ぺ・ドゥナ論」が読める…

ということで即買い。届いたら、裏表紙がペ・ドゥナ(「私の少女」)ではないですかっ!じーん…

濃くて面白くてじっくり読みました。日本でペ・ドゥナについて詳しく書いてあるものって、2009年の「ユリイカ総特集ぺ・ドゥナ「空気人形」を生きて」ぐらいしか知らないから、それだけで感動なのですが、いちいち共感することが多く楽しかったです。

ぺ・ドゥナ出演作以外にも好きな映画はたくさん取り上げてある。知らない作品もたくさんで、これから見るリストが満杯になった。

さらに、本文中に使われているペドゥナの映画の写真のチョイスがすごくいい。これ重要!

「わたしたちの物語」を3日ぐらいで読み終えて、14年前の「ユリイカ」も引っ張り出してきてパラパラ読み返したのですが、14年前のほうは結構厳しいご意見もあったんですね。「わたしたちの物語」はどの書き手も愛があって読みやすかった。

韓国の女性映画というジャンル

韓国映画、好きなものは数々あれど、情報も取りに行かなきゃ得られないことが多いので、結局は「つまみ食い」「面白いという評判でたまたま見る」ばかりなので、監督別とか、歴史とか、女性監督とか、クィアとか。ジャンルがあるものなんですね。そりゃそうだ。でも知らないし、意識していなかったなぁ。

そういうことを知ると、ペドゥナがこういう背景のなかで出演作を選んできたんだな、ということが少しわかってますます面白かった。

イム・スルレ監督

のインタビューがありました。「リトル・フォレスト春夏秋冬」は見ていたのですが、「韓国で最も多作かつ信頼されている女性監督」なんですね。

長編デビュー作は「三人の友達」(1996年)とあり、10年前のインタビューでペ・ドゥナがおススメしていた映画だと気づく。

母(女優キム・ファヨン)が主人公の母親役で出演したので、高校生のときに見た映画です。それまで私が見てきた『タイタニック』や『ロミオとジュリエット』のようなハリウッド映画はもちろん、当時の韓国映画とは全く違う作品でした。この映画を見たことで、映画というものに対して新しい見方ができるようになった。私が女優になったばかりの頃、出演映画を選ぶ際に道を示してくれるなど、多くの影響を与えてくれました。
記者 : キム・ヒジュ、翻訳:ハン・アルム、写真:イ・ジンヒョク

もちろん未見なので見てみたいけど。(見られるんだろうか?)

ぺ・ドゥナは作品性の強い映画のセレクトを初期のころからずーっと狙っていたんですね。社会性のあるテーマの作品に出たいと思っていたのも、今に始まったことではなく。

「初の女性トリックスター」説

肝心のペ・ドゥナ論、すごいボリュームですよ。そして彼女がどこにも属さない(コメディにもアクションにも)トリックスターであるという説にとても納得します。ファンの方は是非読んでみて。

トリックスター(本文ではいたずら者、神話的道化、とある)である所以は、おそらく下記の出演作のことを指しているのかな。どれもペドゥナの魅力全開。
「吠える犬は噛まない」
「頑張れ!グムスン」
「春の日のクマは好きですか?」
「子猫をお願い」
「リンダリンダリンダ」
「グエムルー漢江の怪物ー」

面白いのは、そういった役柄以外の作品はどれも深刻な(ただ事ではない状況の)役ばかり。もちろんどれも魅力的ですよ。
「TUBEチューブ」
「復讐者に憐れみを」
「空気人形」
「ハナ」
「私の少女」
「麻薬王」
「トンネル 闇に鎖された男」
「ベイビーブローカー」

トリックスターの意味が単純に道化的な、というだけではないとは思うので簡単に区別は出来ないけど、ここ数年の映画は「深刻な役」ばかりが続いていますよね。トリックスター的な役がなかなか見当たらないということなのかな?そこが40歳を過ぎた女優さんは難しいところなのかも。

ただ、ドラマに関してはなかなかいいところを選んでいる、というかペドゥナ自身が自分をペドゥナ寄りに作っていっている気がします。
「ドラゴン桜」
「グロリア」
「センス8」
「秘密の森」
「最高の離婚」

映画は作品として訴えるテーマ重視、ドラマでペドゥナ自身の魅力を押し出せる作品選び、作品作りに舵を取ったのかな?となんとなく思っています。
私がとりわけ若干コミカル要素も含んだ「センス8」のサン役、「秘密の森」のヨジン役が好きだからそう感じる、とも言える。

「最高の離婚」のフィル役も好きなんですが、かなり「地に足が着いていない」方向に振り切れているかもしれない。逆にリアルな人物に感じて、見ているこちらの感情があふれてちょっとつらい。

ただ、ここ最近はドラマも「深刻な役」が続いていますよね。

ペ・ドゥナは「今を生きる女優」

当たり前ですが、良い映画とかドラマとか絵画とか本などは、その時その時消費されても、10年、20年…と経てもそれぞれの時代で受け止められるものがあって、古いから価値がなくなるわけではないと思います。実際、昔の映画を見ても新しく感じることがたくさんある。

うまく言語化できないけれど、ぺ・ドゥナ作品も過去の傑作はいつも新しいのですが、今を生きる姿が面白いというか、年齢を経て変容していく姿が興味深い。彼女の歩いた道が映画の歴史になっているから、次の一歩はどちらを指すの?何を悩んで何を選ぶの?というところが面白いと思っています。

「韓国映画 わたしたちの物語」著者の夏目深雪さんに感謝。
そして感想は次回に続きます…

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