思わぬひとこと
ダイエットと健康のことを考えて最近は水を飲むようにしている。
最初こそ味がなくて物足りなく感じていたが、もうすっかり慣れてしまった。いろいろなミネラルウォーターを飲むようになって何となく味の違いも分かるようになってきた。
外出中、飲んでいた水がなくなったのでドラッグストアに立ち寄る。
初めて来るお店だ。
いろいろ物色していると今まで見たことがない水があった。説明を見ると病気にも効果があるとかで何やらすごそうだ。試しに飲んでみようと500mlのペットボトルを手に取る。
レジには50代くらいの女性がいた。
髪を後ろで束ねており、濃いめのメイクをして、帳簿のようなものをつけている。
持ってきたペットボトルをカウンターに置くと、彼女はちょっと驚いたような表情を浮かべた。それから申し訳なさそうに、
「これ高いよ」
と言った。
店員から商品に対して「高いよ」と言われるのは初めてだったのでビックリした。そもそも高いものを売った方が店としては利益がでるのでは?
「いくらですか?」
おばさんがバーコードをピッと読み取る。
「280円ですね」
なるほど。
確かに高い。
「すごい効き目があるみたいで病気の人が買っていくの」
「あ、そうなんですね」
「お兄ちゃん若いんだから、これは必要ないんじゃない?」
「うーん。そうですね。じゃ替えます」
「そうしなよ」
ずいぶんと親切な店員さんだなと思いながら、ペットボトルを棚に戻す。
今度は別な水を選んだ。これは何度も飲んだことがあるやつだ。
ペットボトルを持っていくとおばさんは「うーん」といった表情を浮かべる。
「これおいしくないよ」
さすがに店員が商品をおいしくないと言うのはマズいのでは?
「アタシ、初めてこれ飲んだときオエッてなっちゃった」
「ああ、そうなんですね。でもこれは飲んだことあるんで大丈夫です」
「なんか重い感じするわよね。お茶とか入れると飲めたもんじゃない」
「はは、そうですね」
さすがにそこまで商品をけなすのはよくないのでは?
「ま、おいしくなくても健康のためにはね」
そういってニコッと微笑み、ペットボトルを袋に詰め込んでくれた。
「ちょっと大きい袋しかなくてごめんね」
「いや、全然大丈夫です」
「あそこの大学生?」
「もうとっくに社会人ですよ」
「えー、ずいぶん若く見える」
「ありがとうございます」
初対面にも関わらず、ずいぶんフレンドリーに接してくる。
なかなか好感がもてるし、またこの店来ようかな。
商品を手渡してくれた女性はまだ何か言いたそうな雰囲気だ。
さっきまではハキハキしゃべっていたのに今はちょっとモジモジしている。
「えーと……。どうかしました?」
「あの」
おばさんは少女のようにちょっと顔を赤らめる。
「こんなこと聞くのあれだけど、……彼女とかいるの?」
「え?」
その瞬間、この店にはもう2度と来られないと強く思った。
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