「赤毛のアン」

※『電撃TV&ビデオ攻略ガイド』(2001年1月5日発行)より再録

放送日時=1974年1月7日~1974年12月30日
毎週日曜日19時30分~20時・全50話
放送局=フジテレビ系列

■作品解説 名作小説を忠実にアニメ化
余りにも有名なモンゴメリの小説を原作に、手違いから老兄妹の住むグリーンゲイブルスにやって来た孤児の少女アン・シャーリーが持ち前の想像力を発揮、様々な騒動を巻き起こしながらも魅力的な女性へと成長していく姿を丁寧に描いた作品。原作の舞台プリンスエドワード島でのロケハンを生かし、家屋や風景を忠実に再現した美しい風景と、高畑の誠実なドラマ作りが原作を知る者にも高い評価を得た。

●見どころ アンの巻き起こす騒動
演出の高畑は原作を少女小説としてだけでなく普遍的なユーモア小説と読み解いた上で、本作をアンの主観としてでなく客観的に描く方法を採用、一種のドキュメンタリー的な味付けをした。原作の節回しを生かした文芸的な男声ナレーションの採用等はその一例だ。アンの想像力が解放されるシーンを除いては視聴者と距離をおく、この様な作風にも関わらずアンが広く愛されたのは、生き生きとしてどこかモダンなキャラクターデザインの力が大きいだろう。くるくるとよく変わる表情、全身で表わす感情。アンは厳格なマリラの方針で地味な服ばかり着ているのだが、その内実は様々な輝きを放っているのだ。
そんなアンが、心の友ダイアナを得(9話)、ギルバートとケンカし(14話)、お茶と間違えてダイアナを酔っ払わせ(16話)、屋根から落ちて足を挫き(24話)、髪を黒く染めようとして悲惨な結果を招き(30話)、劇に夢中になる余り溺れそうになり(31話)等の騒動を巻き起こしながらも、少女から娘へと成長して行く過程は感動的だ。成長したアンが初めて登場する37話の海辺のシーンは今も鮮烈に清々しい。41話からは上級学校クィーン学院に進み、アンの世界は広がって行く。
またマリラ、マシュウの老兄妹もいかにもそれらしく、声にもベテランの適任者を得て一層の存在感を醸し出している。二人が初めて会ったアンに次第に魅了されていく様子を描いた1~6はそのまま視聴者の心と重なる。
編中最も愛すべき人物マシュウ・カスバート。朴訥な農夫で「そうさのう」が口癖、女性の前に出ると満足に口も利けないマシュウがアンの為に一世一代の勇気を奮って流行の膨らんだ袖の服を誂えに出掛ける27話はいかにもマシュウらしいエピソードだ。
カスバート家は元々農作業の手助けになる男の子を欲しがっていたのだが、46話で「私が男の子だったら良かった?」と問うアンに「1ダースの男の子よりアンの方がいい」「アンはわしの自慢の娘じゃ」と言うマシュウの姿には思い返すたび目頭が熱くなる。マシュウの突然の死はその直後47話で訪れるのだ。アンがやって来たのはほんの手違いだったのだが、それは神様が彼らの人生に与えた最大の奇跡だった。老いた兄妹のつつましい暮らし、孤児院で誰かが自分を必要としてくれる日を夢見ていたアン、三人の寂しい魂が触れ合って彼らの人生は輝いたのだ。
最終50話でアンは少女時代の「教室騒動(14話)」以来仲たがいしていたギルバートと和解し、新たな道を歩み始める。

▲周辺情報
アンの声はこれがデビューとなる山田栄子。この難役をものとしていく過程はアンの成長と重なって目覚ましい。そのアンの役を最後まで競ったのが島本須美。島本は後に「小公女セーラ」の主役で名作劇場に登場するが、彼女の声のアンも見たかったという人も多い筈。
レイアウトの宮崎駿は14話を最後に降板。前年の「未来少年コナン」で明確に自分の世界をつかんだ宮崎は以後独自の道を行くこととなる。後任には桜井美千代が立ち実力を発揮、更に落ち着いた「アン」の世界を作り出すのに貢献した。
なおオープニングの空飛ぶ馬車は「スターウォーズ」の影響(?)とか。

※初出:電撃ムックシリーズ『電撃TV&ビデオ攻略ガイド』メディアワークス発行(2001年1月5日)、構成・編集=島谷光弘
※内容は執筆当時のものです。

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