見出し画像

(SS小説)さまーさいくりんぐ

 今日の天気予報は晴れ。携帯電話の天気予報でも、テレビの天気予報でも晴れマークだった。

 カーテンから差し込む朝日は、優しくカナリアを包み込んでいる。

 こんな天気のいい日は、家になどじっとしてはいられない。いれるわけがない。

 カナリアは、そそくさと朝食をすませ、身支度を始める。それを見ていた母親がため息を付いた。

「カナリア、夏休みだからって遊んでないで勉強しなさい」
「お母さん、勉強も大事だけど、遊ぶことも大事だよ」

 玄関でお気に入りの靴を履きながらいう。

「カナリアは遊んでばかりじゃない」
「お母さん、遊びは経験だよ。人間形成する上で一番大事なんだよ」
「もう、そんな屁理屈ばっかり言って」

 しかめっ面の母親にカナリアは立ち上がり、母親の方を向きながら満面の笑みで、

「お母さん、私にとって16歳の夏は今しかないの。2度と経験できないのんだよ。だったらもっと楽しまなきゃ!」
「あ母さんは、遊ぶのも大事だけど、勉強も大事っていう話をしてるのよ」
「わかってる、帰って来てからやるから」

 玄関のドアに手をかけ開ける。

「必ずよやるのよ」
「気が向いたらね。行ってきます!」

 そう言って、カナリアは家を出て行った。

「あっ、ちょっと」

 もう! と、怒る母親に後ろから、「まあいいじゃないか」と、父親が声をかける。

「そんなに怒るなよ」
「お父さんからもちゃんと言ってよ」
「俺はカナリアが元気であればそれでいいぞ」
「もう、本当にカナリアに甘いんだから」
「俺は娘に嫌われたくないんだよ。それに、お母さんがカナリアに厳しくしてくれるから、俺は甘く出来るじゃないか。アメとムチでバランスいいだろ?」

 笑いながら言う父親に「物は言いようね」と、呆れたように母親は笑う。

 二人は、カナリアが出て行ったドアを見つめ、

「こっちに引っ越してきて本当に良かったな」
「そうね。また、あの子の笑顔が見れたんだもの」

 そう言って、涙ぐみ笑った。

 今日はこの自転車に乗って何処へ行こう。あの白波がたつ海、あの猫達が集まる神社、緑が多く暗いが、神秘的な湖。それともまだ知らない場所を開拓するか。

 カナリアはワクワクしていた。ペダルに足をかけ勢い良くこぎだす。

「I am free!」

 そう叫び、下り坂を颯爽と駆け抜けていった。

 坂を下った先の十字路でカナリヤは自転車を止める。
 
 右に行けば海がある。左の道は学校へと続く道。まっすぐ行けば、猫たちが待っている神社があった。ちなみに神秘的な湖は逆方向だ。

「カナリア!」

 突然名を呼ばれあたりを見渡す。そして左の方向から、青いキャップ帽を被り、白い半袖Tシャツとジーンズを穿いた若い男が手を振り、こちらに向かってくる。その男は茶色の柴犬を連れ散歩中のようだ。

「カナリア」
「おお、サル」
「川を付けろ川を」

 彼の名は猿川成文。同じ高校で同じクラスだ。彼はサッカー部だが、万年補欠だ。本人はレギュラーにはまったく興味はなく、楽しくサッカーが出来ればそれでいいそうだ。因みに、一緒にいる茶柴は桃太郎。成文がとても可愛がっている愛犬だ。

「お前何やってんだよ」
「見たらわかるでしょ? 散歩よ。これから海に行くか、神社に行くか、それとも新規開拓か迷ってるところよ」

 自転車の降り、桃太郎の頭を撫でまわす。もふもふの毛がなんとも心地よく自然と笑顔が出てしまう。

「そうか、なら神社はやめとけ」
「何でよ」
「今、夏祭りの準備中だから、邪魔になる」
「ああ、もうすぐ夏祭りか」
 
 桃太郎の両頬をムニムニと触りながら、桃太郎と成文を交互に見ながらある疑問符を投げかける。

「ねぇ、サルぅ」
「だから『川』付けろって」
「サルは何で犬と仲いいの?」

 その質問に首を傾げなら、成文は答える。

「うちの桃太郎はとても可愛いし、忠誠心が厚いから」
「そういう事じゃなくて、犬と猿は犬猿の仲って言うじゃない? だから何で仲がいいのか知りたいのよね」
 
 突拍子もない質問に成文は一瞬混乱するが、自分の名字が『猿川』だと気づき、ある答えにたどり着く。

「お前、俺の名字が『猿川』だからって、犬と仲が悪いわけじゃないぞ。俺はそもそも人間だからな」
「犬が桃太郎で、あんたが猿。なんか複雑ね」
「どこがだよ」
「犬が桃太郎なら立場的に上じゃない。物語なら犬があんたを従わせてることになわね」
「今の現状は物語ではなく現実だから。桃太郎は飼い犬で俺は飼い主だから立場的には俺が上だけどな」
 
 そういったとたん桃太郎はぶるぶると頭を震わせる。

「桃太郎は納得してないみたいだけど」

 笑い、桃太郎の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「なぁ、神社の夏祭り行くんか?」
「う~ん。どうしようかなぁ」
「なら、一緒に行くか」
「お? デートのお誘いですか?」
「ば、馬鹿言うな! こ、康介や、彩香も一緒だ、勘違いすんな」
「冗談だよ、何を慌ててんだ」
「慌ててねぇーし」

 そういいながら鼻息を荒くする。それをくすくすと笑うが、何かを思い出したように、カナリアは立ち上がった。
 
「私はこんな事をしてる場合じゃない。海に向かわねば」
 
 自転車にまたがり、ペダルに足をかける。

「気を付けて行けよ」
「わかった。サルと桃太郎も気を付けて帰れよ。じゃあねぇ」

 そういいながら、軽く手を振りカナリアは自転車をこぎだした。

「暗くなる前に帰れよ!」
「ラジャー!」

 大きな声でカナリヤは叫ぶ。

「暗くなる前にって、俺はお母さんか?」

 遠くなる背中を見送りながら成文は自分に呆れながら笑った。

「俺らも帰るか桃太郎」

 桃太郎はワンと返事をし、一人と一匹は家路へと歩いていった。
 
 
 


あとがき
 
こちらの作品は『書いて』というアプリに投降した小説を再編集したものになります。
 画像は『おかたろう』さんの作品を使わせていただきました。ありがとうございました。

私の作品を読んでくれた皆様に感謝と愛を!
それでは次回の作品で会いましょう。

よろしければサポートをお願い致します。サポートして頂いたお金はクリエーターとしての活動費に使わせていただきます。宜しくお願い致します。