エッセイ/美しさと、摂食障害2

さて、思春期の中男子に揶揄われながら部活関係でも対人関係がうまくいかず落ち込んだまま過ごした私にもついに卒業の日がやってきた。

もうおさらばだと小学生の頃にも感じた開放感と共に高校生活が始まる。
しかし、高校に入ると小中よりも露骨に見た目がものをいうようになっていった。

化粧を覚え、髪を染め、当時はギャルが流行っていて細い子は信じられないくらい細く華奢で、可愛らしかった。
彼氏ができた、好きな人がいる、そんな会話が飛び交うようになり私と大して身長の変わらない女子たちがブログやSNSプロフィールにダイエット頑張る⭐︎目指せ42キロ!なんて書き込むようになった。

42キロ!?
当時の私は目を丸くして携帯に釘付けになったのを覚えている。
そんな体重、努力したらなれるかどうかなんて次元じゃなかった。
当時161cmの私にとって50kgを切るなんて到底想像できる体重ではなかった。

運動したって放課後のマクドナルドを我慢したってなれるわけがない。
そうかそもそも骨格が違うしなと自分を納得させるようになった。

そんなある日、きっかけがどうしても思い出せないのだが下剤を飲むことがあった。
もちろん当時は容量を守り適切に。

するとどうだろう3キロ近く体重が減ったのだ。
今思うと自覚がなかったがひどく便秘だったように思うし、そのせいなだけなのだがこの時から自分の中で下剤は痩せるものだと認識されるようになった。

ただ、当時は学生。
学校でトイレに行くというのも知られたくないような年頃だったし、乱用するなんて考えもしなかったので時たまちょっと飲もうかなという程度でそういう意味では便秘にも悩まされていた私にとっては正しい使い方をしていたはずだった。

絶食と過食を繰り返し痩せたり太ったり体型の安定しない人として高校生活は過ぎていった。

卒業後はフリーターとして朝から晩まで働き、遊びにも勤しみ無理が祟ったのか数年は体が弱く、数ヶ月に一回二週間近く寝込むような原因不明の高熱を出すようになりその度に体重が落ち、華奢とは言えないものの普通体型なまま過ごしていた。

そんな時、私に恋人ができた、初めてのちゃんとした恋人だ。
すぐに別れるわけでもなく、照れ臭さを理由に一度もデートせずに別れるような恋人でもなく。

初めての恋人でうまくいかないこともあったし、今思うとなんであんな人と付き合っていたんだろうと思うが当時の私は浮かれに浮かれていた。
可愛いと思われたいし、そう言われるたびに気持ちが舞い上がった。

しかし、彼の地元を歩いている時だった。
離れて歩いてと、彼がそういったのだった。
彼の友達に会っても遠くから彼が話しているのを眺め、紹介されることもなく後ろをトボトボと歩いた。
恥ずかしいのかなあなんて呑気に思っていたのだが、付き合いの慣れからかだんだんと彼から可愛くない、こういうファッションしてよ、見た目が好みじゃないと詰られるようになった。

彼の好むようなファッションはとてもじゃないが着こなせない。
何せウエストがガッツリと出るような丈の短いトップスにこれまたスパッツなんだか分からないような細身のスキニーのマネキンを買い物に行くたび指さすのだ。

ちょっと細いだけでは着こなせないようなファッションに対して、がっしり体型の私が太刀打ちできるわけがないだろう。
その度に口論になり険悪な空気になっていった。

ある時、夏バテから少し食欲が落ち体重が減った時期があった。
すると彼は可愛い可愛いと私を褒めちぎるようになり、地元では手を繋いでる歩き、友人に会うたびこいつ俺の彼女、可愛いでしょと自慢して歩くようになったのだ。

私は愕然とした。
自分に自信があったことはないけれど、一緒に歩く人に恥ずかしいと思われるような容姿だったなんて。
途端に元々なかった自尊心や自己肯定感がガラガラと崩れていくようになった。

友達は?親は?

いつも私を恥ずかしいと思って歩いていたのだろうか。

何とかしなければならない。そう思った私はカロリー制限を始め、激しく運動するようになった。
みるみるうちに体重が落ちていき、運動も並行したことから引き締まった身体になり、今思い返すとなかなかいい身体に仕上がっていった。

しかし、満足できなかった。
体重が落ちることが喜びとなる一方、こんなに体重が落ちたのに周りの子の方が細いと気持ちが沈んでいった。
事実、47kgほどになった時すごい痩せたよねと友人に言われ、私なんか50kg以上あるよ〜と言われた時に驚きを隠せなかった。
華奢でその日に一緒に撮ったプリクラは明らかに私の方が身体が大きく、てっきり友人は40kg程しかないと思っていたのだ。

まだまだ、痩せないといけないんだ。
こんなに細い子でも50kgあるということは骨格のいい私が痩せていると思われるにはもっと体重を落とさないと。
そう思い込むようになった。

この頃から食事に異様にこだわるようになり、食べ物は口にしなくなった。
バイトの休憩中にサラダを食べることにしよう。いや、あいつサラダ食べてるとかダイエット?太ってるもんなと言われたら恥ずかしいからやめよう。
春雨スープはカロリー低いからいいかな。いやサラダと同じで恥ずかしいかな。

何も食べないようにしよう。
あいつ少食のくせに太ってるんだなって言われるかな。

こんなことがぐるぐると頭の中を巡り、胃の調子が悪いので食べないと吹聴しながら過ごした。バイトの休憩時間が、大嫌いになっていった。

そんな食生活をしながら運動をやめることもしなかった私はまもなく40キロ台前半に突入しようという体重になり、ある時ついにバイト中に床のゴミを拾おうとしゃがんだら立てなくなり、早退させられることになった。

申し訳ないな、食べてないからかなと落ち込みながらも太るのが怖くて途中道に座り込みながら習慣通り家までの約駅3つ分を歩きながら帰り、何でこんなことしてるんだろうと泣きながら家に駆け込んだ。


明らかに痩せすぎだった。
上半身は骸骨のように骨が浮き上がり、肩の周りでさえ親指と人差し指でぐるりと囲めるような細さだったし、運動部の名残で足はそこそこ太さがあったものの、何を履いてもウエストはガバガバで合う洋服はなかった。
数字にこだわる生活をしていたのではっきりと覚えているが、ウエストは54cmだった。それでも自分は太っていると思っていたし、お腹でてるなと落ち込み、私がSサイズの服を着ているということはあの細い子たちはきっとXSなんだな、もっと痩せないとと考えていた。

結局私が拒食症のきっかけになった彼氏とは別れ、痩せすぎているからと食事や気分転換にとドライブに連れ出してくれた別の男性と付き合うものの色々あり別れてしまった。
ただ、少しずつ食事に抵抗がなくなり、ちょっとやりすぎたかなと反省するようになった。

それでも、これだけのことがありながら当時の自分に摂食障害の自覚はなかった。
無理なダイエット、やっちゃったな、くらいの認識だった。


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