「中国の死神」

「中国の死神」 大谷亨

“中国の死神である「無常」は、中国ではよく知られた民間信仰の鬼神である。フィールドワークに基づきながら、無常の歴史的な変遷を緻密にたどり、妖怪から神へと上り詰めたそのプロセスや背景にある民間信仰の原理を明らかにする中国妖怪学の書。”

死神、と聞いてよくイメージに上がるのは、ローブをまとったドクロが大鎌を携えてる図です。

ところが中国の死神は、
「無常」といって、
長い帽子に長い舌を垂らし👅基本は現場官僚として魂魄集めに精を出しつつ出会い頭に富を授けたり逆に悪人を引っ叩いたり、白いやつと黒いやつがいたり身長が伸びたり縮んだりと、
謎すぎる属性のオンパレードです。

この日本ではほとんど知られていない無常様をこっそり研究していた有名人が、魯迅です。
本書でも魯迅の残した民俗学資料や考察集が大活躍するのですが、魯迅先生、
「このままでは私は後世で“無常研究家”として知られることになってしまう。それでは格好がつかないのでもう無常研究はやめる」
と身も蓋もない宣言をして無常から足を洗ってしまうのです(笑)
そんなレジェンドから格好悪い断定を受けてしまった無常研究の骨を拾ったのが、本書です(汗)

各地に散らばる様々な無常のバリエーションから、
著者は「白無常と黒無常のペア、白無常のソロは存在するのに、黒無常のソロはどこにも見当たらない」ということを喝破します。
そしてそこから、無常がいかに土着の妖怪を取り込んで、その天然の二面性を吸収していったかを導いていきます。恵みと災いを吸収した下級の神“原始の無常”は、人々から恐れられるようになります。しかし恐れだけでは信仰は育たず、やがて別の妖怪と融合していく過程で無常は白と黒に人格を分けていくことになります。

こうしてキャラクターが定まっていくにつれて、白の方に救いを求める信仰が強くなって、引き立たせ役としての黒が固定化されていくのです。中国の神はこの人間的親しみやすさと権威による信仰の獲得によって神格を増していくのです。神格の基礎に人格あり。人格が希薄なほど神格が高まる西洋とは逆ですね。

ところが面白いのは、一度親しみが増した神は、今度は“ナメられ、忘れられる”ようになります。するとどうなるか?お分かりの通り、再度ダークサイドの黒無常を取り込んだ、“色は白いけど問答無用で魂を奪い取ることもある”スーパー白無常が誕生するのです。このスーパー白無常が、そうは言ってもやっぱり信仰が大事よね、とまた分神して白黒に分かれ、、、そうやって神格ヒエラルキーを駆け上がっていく、そういうことのようです。

神様もいろいろ大変です(笑)
深い歴史の中で、人と神がどのように関わり合ってきたのか、その一端が垣間見える一冊でした。

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