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覚悟のできない弱虫な自分にエールをおくる


母の病



母の病が予想に反して、進んでいた。
高齢者のガンは進行が遅いと聞いたのに。
いや、ゆっくりでも進むのだ。

ガンの進行が遅いなら、寿命が先に来て安らかに旅立てると思っていた。
甘い誤算。

人生の最後をどこでどう過ごすか?

入院したら会えなくなる。
一日何人、何分と面会が限られる。
それ以外は病室でぼんやり過ごすことになるだろう。

良くない!
私のそばに居れば、みんなが会いに来れる。
母も、それが心強いと言う。


新しい病院へ


今までお世話になった病院から、私の家の近くの病院へ紹介状を書いて頂く。
早速、受診。

先生は、おじいちゃんの雰囲気のベテラン医師。
優しく、ていねいに説明をしてくださった。
母の目を見て、脈をとり、聴診器で心音を聞く。
母が安心していくのがわかる。

近頃の医者は患者の顔も見ない!
と拗ねていた母だけど、今度の先生のことが一瞬で好きになったみたい。

一通り先生の話が終わると、母が質問した。
「日頃の生活で気をつけることはありますか?」

私はかなり驚いて母を二度見した。
この期に及んで、何か注意することがあるというのだろうか?
どこまでもまじめな母が愛おしくもあり、いじらしくもある。

先生は優しくほほ笑んでこう言った。
「娘さんにわがままを言って、好きなようにゆっくりしたら良いですよ。」

母はこっくりと頷く。

酸素の機械


すっかり安心した母だが、家に戻ると呼吸が苦しい。
苦しいときは救急車を呼んで、病院名と医師名を伝えることになっている。
呼ぶレベルかどうか迷っていると病院から電話があった。

医師からの指示で医療機器メーカーから酸素をつくる機械が来る、という。
ほどなく医療機器メーカーの人が到着し、機械や移動時の酸素ボンベを設置した。
ていねいな説明を聞いて、酸素のチューブを鼻に付ける。

さっきまでとっても苦しそうだったのに
楽になった」と言って、母は寝た。

良かった!!
せめて呼吸が楽になると助かる。
母が苦しいとき、身体をさすったり声をかけたりしかできない。

呼吸が楽になると、食事も今までより進む。
また一つ、ホッとする。
チューブを引いてトイレもお風呂も問題なく入れた。

顔色も良いし、血中酸素濃度も高くなった。

わかっているつもり


こうなると、こちらもが出る。
いつまでもこうして、一緒に生きていける気がする

でも、そんな訳はない。
病気が有ろうと無かろうと、人の寿命はいつか必ず尽きるのだ。
理屈ではわかっているのに、目をそらそうとする。

還暦もとうに過ぎた人間のいう事か?
どこまで甘ったれなんだ!
64歳の娘が95歳の母を世話する、なんて幸せな話。
グズグズ言えば世間に嗤われる。

父をおくったときは、まだ私も若く、体力と気力があった。
母を支える使命があったし、「しっかりしなきゃ!!」と健気に思った。
しかし今度は…?

ああ、やれやれ。
自分の腹が据わっていない気がする。
これでは母も安心できないじゃないか!

ちゃんとおくる


でん! と構えて、笑って、大丈夫よ! と言いたい。
母の傍に居れることに、感謝しよう!
慌てず騒がず、大きく構えよう。

いよいよその時が来たら
「怖がらなくて良いよ。お父さんが迎えに来るから大丈夫だよ!」
しっかり手を握って耳元でささやこう。
そして
「もう少し時間がたったら、私のことも迎えに来てね」
と、ちゃっかりお願いするのだ。

さて、寝る時はパジャマを着ないことにした。
いつでも動けるように。
妹たちと約束した。病気やケガををしないように。


弱虫な自分にエールをおくる



がんばれワタシ!!
さあ、深呼吸して。鏡を見て、小さく微笑んで。
母に笑顔を見せよう!!







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