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母のそばで♡罪ほろぼし篇

私の家で95歳の母は療養している。
辛い病気の症状に苦しんだり、不安で押しつぶされそうになりながら。

家で看護している、といえば聞こえは良いかもしれない。
親孝行な娘、と言う人もいるかもしれない。

しかし、たくさん心配をかけてきた私。
決して、親孝行な娘ではなかった。

恩返し、ではなく罪ほろぼしだ。


元気いっぱい



父が元気だったときは、仕事の忙しさにかまけてロクに電話もしなかった。
父と母の誕生日に招待して、食事をするくらいなものだ。

その後、父を家族みんなで看取った後、さすがに気になって電話をするようにした。

そうじと、庭や小さな畑の世話が趣味の母。
心も身体も元気で、父亡き後も健気にがんばっていた。

そのうち私も定年退職して、念願の旅を楽しみ。
旅先からせっせと送った絵ハガキを母は喜んでくれた。

旅の合間に母を招待して一緒に過ごすこともあり。
私の家でも、そうじや草むしりを楽しんでいた母。

そう。つい数か月前まではそんな元気な生活だった。

ある日突然のように


ある日突然。私には突然に思えた。
しかし病魔は着々と母の体を蝕んでいたのだ。

今まで散々、心配かけてきてやっとゆっくり一緒に過ごせると思った矢先。
しかも、親孝行で優しい妹ではなく、私のところで過ごすことになった。
これも何かの縁。
今まで心配かけてきたのを、少しでも償うチャンスをもらったのだろう。

罪ほろぼしか。
罪って滅ぼせるのかな?
滅ぼせるものならやってみよう。

見守り


私が母にしているのは、介護ではない。
酸素のチューブを鼻に付けてはいるが、何でも自分でできる。

看護だろうか。
看病とも違う気がする。

何でも自分でできるけど、心配だからそばに居る。
あまりに手を貸すと嫌う。
でも、見ていないと危ないこともあるから、見ている。
いざという時はさっと手を貸せるように。

見守り、がピッタリするかな。

訪問診療


病院に行くのは大変。
そこで訪問診療を受けることにした。
なんてありがたい話。
医師と看護師が家まで来てくれて、診療を受けられるなんて!

胸にたまった水も家で抜いてもらう。
エコーでどのくらい溜まっているかも見せてもらった。

すべてが驚きのシステム。
感謝!感謝!!

苦しいときは24時間電話して良いですよ、という神様のような声。
不安な患者と見守り隊は救われた。

訪問看護


訪問看護も受けることにした。
夜中の不安があるから。
病院に電話しても良いけど、医師が来るほどでもないときに利用する。
看護師が来て、必要とあれば病院につなげてくれる。

苦しくなった時のお薬ももらっているから、かなり安心。
訪問看護を受けられるから、さらに安心。

とにかく、打てる手立ては打とう。
慌てないように、心も強く持とう。
冷静に! 落ち着いて!

母が苦しいとき、私が落ち着いて対応しないと母の不安が大きくなる。
そばに付いているから大丈夫よ! と言えるようにしよう。

手回しが良い


元気な時から「延命措置はしないように」と母に言われている。
医師と私たち姉妹で確認。
驚くことに母は葬儀場の手配から支払いまで済ませている。
お寺に支払うお金は私が、弔問客に出す飲食物などのお金は妹が預かっている。
見事だ!!
何も心配はないのだから、ゆっくりしようよ。

怖い夢


母がうなされていた。
「苦しい?」
声をかけると、怖い夢を見たと言う。
目が覚めてしまったのだから、どんな夢か聞く。
悪者と闘う夢だった。

夢の中でまで闘ってるの?
働きすぎ。
と言ってからハッとした。
本当は病気と闘っているんだ。
暗くなりそうな気持と闘っているんだ。

生きている!


そっと母の手に触れる。暖かい。
ホッとする。生きている!

今まで自分が生きていることも、人が生きていることも当たり前だった。
だから深く考えていなかった。
父を看取ったときは「人っていつか死ぬんだ」と驚いた。
深い悲しみと驚き。
だけど時間がたって、のど元過ぎて熱さを忘れていた。

毎日、母だけでなく自分も「生きている!」と感じている。
なんだか新鮮な喜びと驚きだ。
生きているだけで感謝!

今日も罪ほろぼしができることに感謝!




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