見出し画像

怪談/vさんの子

 悪魔のvさんは、人間を騙すのが得意だ。

 契約の隙間を狙い、人間の魂をもらう。
 これまで何度もそうしてきた。

 数年前にも、必死に願いごとをしてきた僧侶を騙した。
 自分や自分が敵対する神とはまったく違う起源の、『仏』にすがる僧だ。
 僧侶の願いは飢えている家族が食べていけるだけの金が欲しい、という即物的なものだった。
 仏ではなく悪魔に頼る時点で、こっけいそのものだ。

 しかし悪魔だからといって、万能ではない。
 金を無から生み出すことなどできないから、僧侶の目を盗み、金持ちの金庫から金を盗んで、渡した。

 僧侶は大喜びで家族に金を与えたが、その金の出所はすぐ金持ちにバレた。
 ある満月の夜、金持ちの私兵が僧侶の家に乗り込み、僧侶の家族は苛烈な拷問にかけられ、皆殺しにされた。
 そして僧侶も、vさんへの恨みを叫びながら、殺されてしまった。

 家族の魂はvさんのが美味しくいただいたのだが、僧侶の魂が見つからなかったのが不思議だった。

 それからしばらくして、なんとvさんに子どもができた。
 遊び半分で手を出した悪魔崇拝者の女が、妊娠したのだ。
 生まれたのは、可愛らしい男児。

 悪魔と人間の間に子どもができるのは、これがはじめてではない。
 しかし、珍しいことではあった。

 vさんは生まれてきた子どもを大層可愛がり、自分に親心が芽生えたことに驚いた。
 すくすく育った男児をおぶり、vさんはどこにも出かけて行った。
 男児もvさんによく懐いた。

 ある日、vさんはいつものように男児をおぶり、散歩に出かけた。
 満月が美しい夜だった。
 よい夜だった。

 そのとき。
 背中の男児が突然vさんの耳元で、こう囁いた。

「ぼくをころしたよるも こんなよるだったね」

 vさんは身動きが取れなかった。
 男児は二度とそのようなことを口走らなかったが、その言葉はvさんの耳にこびりつき、無限に繰り返されているように感じた。

 vさんは人間に化け僧侶になった。






 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?