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怪談/フリル

 悪魔のAさんが体験した出来事。
 Aさんは色欲を司る悪魔として知られ、かの七つの大罪に相応する大悪魔である。
 今日も細面の美青年姿に化けて、都会の真ん中を歩く。
 好みの女性を見かけたら、取り憑いて淫猥な地獄に引きずり込もうと考えていた。

 すると街角で、とても可愛らしい女の子を見つけた。
 フリフリのワンピースで、ピンク色のツインテ。
 下瞼が妙に黒い。いわゆる地雷メイクというやつだ。
 こういう女は落としやすい、とAさんは経験上知っていた。

「ねぇ君、時間ある?」

 チャラ男っぽく話しかけると、女はにこりと笑った。
 そしてAさんの手を取ったかと思うと、いきなり歩きはじめた。
 わけのわからないAさんだったが、進展は早いほうがAさんにとっても都合がいい。
 気づくとAさんは、女の部屋に連れ込まれていた。
 ドアを閉めるやいなや、女がAさんの服に手をかける。
 なんと性欲の強い女なのだろう。
 Aさんは思ったが、どうも様子がおかしい。
 服を脱がせようとしているように見えて、脱がせてこない。
 その内Aさんは、どうやら女が「採寸」をしていることに気づいた。
 Aさんの首回りのサイズを、胴回りのサイズを、足の長さを、正確に調べている。
 じれったくなったAさんは、女をベッドに押し倒した。
 その瞬間、伝わってきた。
 ――女の、下半身の感触。
 ぷっくりとした、女にはないはずの器官の感触が。

「お前、男だったのか」

 Aさんは困惑しながら聞いた。
 女だと思っていた相手は、女装した男の子だったのだ。
 しかしだとすれば、この男の子の目的はなんなのだ。
 やはり肉体関係なのか。それはそれで不思議ではないし、Aさんは男であっても取り憑くことができる。
 だが動揺するAさんの顔を見上げて、彼はまたにこりと笑い。

「お兄さんも似合うと思って」

 ――用意してあげようと思ったんだ。同じ趣味の友達が欲しかったから。

 そう言った。

 似合う? 同じ趣味? 何を言っているのか。
 理解できないAさんを、彼が跳ね退けた。
 かと思うと、近くにあったフリフリの服を手に取り、Aさんの体にあてがった。

「やっぱり似合う。えへへ、一緒に楽しも? 大丈夫、すぐに終わるから」

 放心するAさんは、あっと言う間に女の子の服へ着替えさせられていた。
 全身フリフリ、ピンク×黒、ハートディティール満載のワンピース。
 さらにメイクまで施されて、ツインテのウィッグを付けられている。

「ほら、とっても似合うよお兄さん」

 彼に促され、問答無用でAさんは鏡の前に立たされた。
 そこにはとてもAさん好みの、ひとりの、女の子がいた。

「これが私……?」

 Aさんは、これまでになくときめいた。
 そして、戻ってこれなくなったという。






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