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スーツケースに心をこめて④

私にとって楽しめるものは、旅行だ。

子供を授かった後、その子が流れてしまい、暫くは抑うつ状態だった。1年ぐらいだったけれど、毎日が悲しくて仕方なかった。でも、いつまでも悲しんで、世を儚んで生きていても、あの子は喜ばないだろう。

同じように、親御さんが突然死した女性も知っている。寂しいでしょうと私は言わない。人間とは複雑怪奇で、自分が思っているよりずっとずっと強い。私は、それを知っている女性と気が合うと思う。心の機微を知っている女性は好きだ。

話は戻るが、旅行のことである。予定通り近場ではあるが旅に来ることが出来た。

私の旅は毎回一人である。女2~3人の旅も憧れるけれど、3という人数はバランスがよくない。3人のうち2人が結束して、1人が少し飛び出てしまう。

じゃ、女2人の旅行だとどうか。それは結構楽しいかもしれない。
女性じゃなくて夫はどうか。というと、仕事で土日しか休めない。「忙しい」と言われると「あ、そうですか。そうですね。ごもっとも。有給は大切にお使いくださいね」と嫌味を言って、私はそそくさと宿探しを始める。

私の父は、全国に出張するような人だったので、私が旅行していることも知らず、「ビジネスホテルの朝食を再現してみたぞ。ジャーン、」とか言っている。私はそれよりも豪華な朝ごはんを知っている。義父ともなると、もう
お話が通じないので。

今朝はいい目覚めだった。
目覚めてしばらくぼぅっとした後、朝風呂に入りに行った。客室は木の香りがするステキなお部屋だけれど、洗面所とトイレだけがついていて、お風呂は大浴場でゆっくりとどうぞ、っていうのがこのホテルのコンセプトみたいだ。

カラスの行水が好きな私が、6分ぐらいはお湯に浸かっていたと思う。
ガラス戸を開けるとそこは露天風呂だった。ザブンザブン。気持ち良い。

夫とは財布を分けているので、今回は自分の貯金で旅行を企画した。
なんか悪いことしている気もしないでもないが、実父には父の日のお祝いを
早めにしたし、義父は言ってること分からないし、「イェーイ、その唐揚げオレが食べる」とか言って箸でぐさりと刺して食べるような義父と本当は親戚になりたくなかった。


つづく
(この物語はフィクションです)


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