あとで読む・第39回・桐野夏生『日没』(岩波現代文庫、2023年、初出2020年)

1月22日(月)~26日(金)までの5日間、韓国に出張する。コロナ禍以降、久々の長丁場の出張である。
旅先に何の本を持っていくかは、いつも悩みの種である。今回は、私の体調が万全ではないこともあり、荷物はできるだけ最小限にとどめようという方針をとった。
いつもなら大きなスーツケースと大きなリュックサックで移動するのだが、とてもそんな体力はなく、2~3泊を想定しているような「機内持込可」ていどのこぢんまりしたキャリーケースと、肩から掛けるポーチていどの小さなかばんに納めることにした。
だから旅のお供として持って行く本も厳選しなければならない。いつものように、本を持っていくだけ持っていって、結局何も読まずに帰国するなどという悠長なことは言ってられないのだ。
そうなると、今まで「あとで読む」と書いてきてまだ読んでいない本をこの機会に読む、というのがいちばん妥当な線である。しかしそれでよいのか、どうも引っかかる。
そもそも、どんな本を持っていけば、旅先でテンションを上げて読むことができるだろうか。
軽めのエッセイだろうか?
思考を要求するようなわりと難解な小説やエッセイだろうか?
社会派のノンフィクションだろうか?
…考えたあげく、そういえば最近買ったのにまだ読んでない本があることを思い出した。それが桐野夏生さんの『日没』である。たしか数年前に話題になっていたなあと思い、文庫化されたタイミングで読んでみようと思って、そのままにしておいた。
桐野夏生さんの小説は、今まで2冊くらいしか読んだことがない。しかもだいぶ前である。『OUT』が1999年にフジテレビでドラマ化されて、こりゃあ凄い展開だとテレビに釘付けになったことがある。再放送されることを望んだが、コンプライアンスの関係なのか、今まであのドラマが再放送されたのを見たことがない。
いずれにしてもそれがきっかけで、桐野さんの原作小説『OUT』を読んだ。そのあとも別の小説を1冊読んだ。2冊とも引き込まれる内容で面白かったのだが、なぜか長続きしなかった。
そんなことを思い出し、あらためて桐野さんの小説を読もうと久しぶりに入手したのである。
この本が出たばかりの頃に、桐野さんはいろいろなラジオ番組に出てこの本のことを語っておられたが、それを聴くと、なんとなく不気味な内容であるように思えた。小説の全体を取り巻いているであろう不気味な雰囲気が、旅のテンションに合うかどうかは「賭け」である。そもそも私は出張先に必ず本を持っていくのだが、結局出張先の用務にがんじがらめになり、ほぼ毎回、読まずに終わってしまう。だが今回は、「不必要なものは持っていかない」という方針だから、この本も必ず旅のお供として活躍してくれるはずである。


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