「アリエルとカレナセンセ」第八話「帰還勇者」


<本文>

 俺は斎藤トイスト、帰還勇者だ。
 俺は過去、夏休みの間に一度だけ勇者になった経験がある。
 それは奇妙な経験だった。代数・幾何でも表現出来ない現象だった。

「いやできるか?」

 しばらく計算してみる。

「……やっぱりわからん」


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 それは教員になって間もなくの夏休み。俺は帰省した故郷の山で獣人に出会った。犬か狼の獣人だった。獣人は14、5歳の少女でナニかを探しているようだった。

「どうしたナニを探している?」

「うぁ。ニンゲンが言葉を喋った!!」

 獣人は異世界から来たと語った。その世界では、ニンゲンは言葉を喋らなかった。代わりに獣人が支配する国だった。

「私はその国の姫なのよ。この世界には、私の国を救ってくれるニンゲンを探しているなのよ」

 言葉遣いがちょっと怪しいが、獣人としては頭が良かった。試しに数式の問題を出題したら、悩みながらもすぐに答えたからだ。

「どうか私と一緒に獣人界に来てください。そして私の国を救ってくださいなのよ」

「行かないとは言わないが、今は夏休み期間だ。それを超えると冬休みまで時間が取れないのだ」

「それなら、そのなつやすみの間だけでいいなのよ。私たちを救ってなのよ」

 俺は獣人の姫と共に、異世界の抜け道を通り異世界へ行った。
 そこで獣人の村を襲う有翼人の一族と戦った。そこで有翼人に対抗するため、重力を自由に操る剣、Xキャリバーを手に入れた。
 俺は有翼人を全滅まで追い込んだ。有翼人側から降伏の使者が来た。使者の女は、自分は有翼人の姫だと名乗った。降伏を受け入れ、有翼人の姫は、人質として俺の妻となった。なぜか、獣人の姫も「私が先に見つけた雄よ!! 私も妻になるなのよ」と俺は異世界で二人の妻を娶った。
 ちなみに有翼人の姫にも出題した。ギリギリ合格ラインだった。

 戦争の原因は、その異世界の魔王のせいだった。次から次へと魔王にそそのかされ、亜人の国が攻めてくる。

「これでは夏休みの間に終わらない」

 俺は異世界を夏休み一ヶ月で攻略するために非人道的な事もやった。戦いに参加する前によその亜人の村を襲った。魔王の友好の使者というヤツも切って捨てた。そして、俺は夏休みの一ヶ月で魔王軍を滅ぼした。

 帰還すると、ふたりの妻もついてきた。今はD組の生徒に偽装して仲良く暮らしている。


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「生徒諸君。今日から毎日、ショートテストだ!」

「誰だ赤点とったヤツは? ちとせ──放課後、居残りだ!!」

 ちとせと呼ばれた生徒は反論する。

「くるみのなまえは? くるぶしくるみ?」

「お前の名前は、ちとせくるみだろ? お姉さんの名前も、ち・と・せ。千歳ちとせカレナだろう?」

 カレナ先生とは同僚だ。カレナ先生はA組の担任だ。ついでにB組は後藤先生。こいつは妖魔だ。カレナ先生と後藤先生には、共に妹がいる。カレナ先生の妹の名前はくるみ。後藤先生の妹の名前はアリエル。アリエルもまた妖魔だ。

 どうやら、この現実世界でも、勇者としての責務を全うしなければならないようだ。
 カレナ先生の妹は妖魔の被害者だ。妖魔に夢を奪われた。一匹は倒したが、あともう一匹残っている。

「俺は勇者だ。俺が妖魔を倒してやる」と約束すると、ちとせくるみは、首を振った。

「だめ、やなの!」

「妖魔を倒すのはダメなのか?」

「ともだち、ともだちいじめるのだめ!!」

 激しく泣きじゃくるちとせに困惑してしまった。

「わかった、これ以上、妖魔を虐めない。これでいいか?」

「うんっ!!」

 妖魔に手を出さないが、ちとせは保護対象だ。当分俺が面倒見よう。大丈夫、俺には妻が二人いる、妻たちがちとせの面倒を見てくれる。


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 ちとせくるみには好きな人がいる。今は頭の中が空っぽになってしまったが、大切な記憶は残っている。 消去法でいくと、後藤カーズではない。あれはアリエルの敵。くるみにとって、アリエルは、妹みたいなもの、妹をいじめるカーズはキライだ。
 くるみは勇者が好きだ。ちょうど教師という立場の姉のカレナが、現実世界の勇者だった。何でも出来て優しい姉。コレを超える者は現れなかった。
 現れたのは、裏体育祭のダンジョンの時だった。そいつは剣を持って現れた。代数・幾何の教師だった。教師で勇者だった。くるみの理想そのものだった。一目惚れしてしまった。それからはD組に通い妻だった。
 だから保護してもらったのは嬉しかった。カーズが退治されたのは「ふーん」って感じだった。どうでも良かった。 だが友達のアリエルを退治されるのは嫌だった。そういう訳で泣いたのだ。
 くるみの面倒を見てくれたのは、獣人の姫と有翼人の姫だった。 獣人の名前は、うー。有翼人の名前は、るー。と呼ばれていた。

「お前はくー、な」妻はみんな一つ呼びなのだそうだ。

「え、おれすでにおよめさんかくてー?」

 くるみは、それで満足だった。


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「あれ? 死んでたのかと思ったわよ?」

 私はアリエル。斎藤先生から、兄は殺されたと聞いていたのだが、どうやら嘘のようだった。

「引き継ぎせんと死ねないだろうが!」
「引き継ぎ?」
「お前がくるみの治療のためにダンジョン貸してくれって話しただろう?」
「あ、そっか。わかった……」

 夢魔は夢の中で、ダンジョンを作ることができる。そこに異性を連れ込んで魅惑するのが夢魔の食事方法である。
 元々、私のダンジョンは、教室を模したモノだった。ほとんど兄に作ってもらったものだけど……。兄のダンジョンは、地下16階にも及ぶ本格的なダンジョンだ。前回、裏体育祭の時は、12階でダンジョンボスが飛び出してきた。
 兄曰く、10階からモンスターが強くなるので、初心者参加の裏体育祭の時は、12階で終わるようにしたのだそうだ。

「くるみを治すには、ダンジョンを最大限に活かす必要がある。だから、アリエル、お前にダンジョン権限を譲る」

「ありがと。でも、くるみはお兄ちゃんにはあげないわよ。カレナセンセが怒るから……」

「それは残念っ……」

 引き継ぎは紙ひとつで済んだ。ダンジョンの使い方などを説明する。アリエルもダンジョンを持っているので、解らないことはなかった。

「ところで、斎藤先生についてだが……」

 私が、くるみの状態異常回復薬を設置していると、ついでみたいに、最も重要なことを言った。

「んナニ? お兄ちゃん」

「斎藤先生は勇者だった。我々、夢魔の敵だった。だから、アリエルは斎藤先生に近づかないように気をつけること!」

「なに言ってるの? 授業でないと単位もらえないじゃない?」

「我々は勇者にまさる部分がひとつだけある。寿命だ。このダンジョンは一年に一階増えるように設計してある。ダンジョン主になったアリエルは、どこまでも潜ることができる。いっそ100階まで潜って100年間引き籠もれ! 勇者は人間だ。100年生きるやつはいない。勇者が死んだら、ダンジョンから出てこい」

「む、お兄ちゃんはどうするのようっ」

「僕か? 僕には目的がある。くるみが斎藤先生に惚れたらしい。彼女は勇者が好きだからなぁ。夢魔の僕には魅力がなかった。だが意地はある。くるみが彼を選ぶにしろ、僕はくるみを他の男にくれてやるつもりはない。だから、勇者に再戦するつもりだ」

「勝てるの?」

「勝てない。だが、くるみのためなら戦える。最後のアピールタイムだよ、ハハハ……」

「いらないわよ。そんなの、一緒に潜ろうよ!! 私も
カレナセンセをあきらめる。あきらめるからぁ!!」

「いやいや、好きならアピールだよ。夢魔なら、愛する人に愛されたいだろぅ?」

「愛されたいっ、愛されたいけど──」

「まあ、僕が勇者を倒せば万事OKだ!」

 初めから兄は、私の言うことなど聞く耳を持たない。だからケンカをしてたのだ。戦いに行くことは、男らしいと思う。でも、例えるならダンプカーに正面から突っ込む、ネコでしかない。ネコは轢かれてぺっちゃんこだ。バカだ、バカだ。カーズはバカだ。車なんかに戦いを挑むなんて……。

 兄と別れて、しばらく泣いた。でも夢魔は、夢を操る。ひょっとして、人間である勇者は、ころっと負けてくれるかも知れない。
「勝ったよ!!」とくるみを連れて帰ってくる兄の姿を願った。
 まだそんなに早くは起きないだろう、勇者との勝負。私はカレナセンセに助っ人を頼もうか? などと考えながら、理科実験室へ向かった。

「ん?」

 体育館で生徒がいっぱい集まっている。

「僕勇者なんで──倒すというのは、文字通り倒しちゃいますけど──問題ないですか?」

「問題ない」

 やだ勇者と兄が戦う。その場面に出くわしてしまった。

「Xキャリバーは物理的攻撃で、夢魔には効かない。Yグローバーは、なんでもキャッチするが、夢は無理。ところで、代数・幾何の教師は、好きな文字が有るんですが。それはなにでしょう?」

「クイズかね? X・Y・Z。だろう? 数式に使うから……」

「正解。だから、俺は武器の頭にX・Yがついている。Zはどんな武器だと思いますか?」

「さあな。夢魔を殺せる武器か?」

「心を射止める時に使われるのは? 羽のある天使が人間の心を射止める時に使われる武器は?」

「ああ、弓か? そいつは特殊な弓なのか?」

「いや、単純に心臓を射抜く矢だが……」

 勇者は初動作もなく、弓を射た。
 それは悪夢だった。
 矢は見えにほど早く兄の胸を貫通して、私の足元で突き刺さった。兄はあっけなく光の粒となって消えた。

 あっけなかった。

「いやー!!」

 私は逃げた。幸い勇者は追ってこなかった。いつでも殺せると思っているのだろう。
 くるみが「アリエルには手を出さないで!」と頼んでいたことなど知らなかった。
 知らなかった私は、兄の言いつけ通り、すぐにダンジョンの奥深くに引き籠もった。100年籠もるつもりだった。


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「あれ? くるみは? デートの日だったよな?」

 わたしは、おめかしして妹のくるみとのデートに出かけた。理科実験室、爆破事件よりあと、始末書あり、日曜に出勤が続き、そしてカーズが学校に来なくなったり色々あった。色々あった。

「やっと念願の、わが妹とのデートっ!!」

 もう夕方だった。6時間待った。1ヶ月半待ったのだ。まだ待てる。いや、くるみに何か大変なことが起きたんじゃないか? 急に心配になった。

「電話してみよう!!」

 くるみに電話禁止を言い渡されて初の電話だった。
 トルルル。トルルル。

「おかけになった電話番号は……」

 留守電になった。

「アリエルに電話してみよう」

 トルルル。トルルル。

「おかけになった電話番号は……」

「ええええ!!」

 呼んで一秒で出てくれるアリエルが電話に出ない。

 事態はわたしの知らない内にとんでもない事になって
いた。

つづく

第九話「転生耐性」

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