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「ほうとう」と「吉田のうどん」は同じ山梨名物でも戦い方が違う【名物について考える。そして自社商品は?】

 山梨には名物がたくさんあります。
 定番はやはり信玄餅でしょうか。観光客が訪れる場所にある売店には必ずありますし、県外でも見かけることが多いです。ただ、県民が食べる機会はなかなかなかったりもするのですが、甲府市出身の僕なんかは小学校の社会科遠足で工場見学の際にお土産としてもらったものです。実家ではおやつに買う、ということはなかったです。
 お菓子で言えば、『ゆる△キャン』でも取り上げられていた、みのぶ饅頭はスーパーマーケットの和菓子コーナーに団子や大福と並んでいて、おやつに買ったものです。

 山梨ならば果物も欠かせません。
 気軽に口にすることが多いのはブドウやモモ。実家の横が葡萄畑だったこともあり(10年ほど前に農家が廃業し、いまでは家が建ち並んでいます)、そこで作業しているおじさんから直接買っていました。産地直送。
 また、父の同僚の実家がモモ農家だったらしく、時期になると玄関に収穫用のケースでモモが置かれていました。硬いモモです。僕は柔らかいモモが好きでしたが。
 これらはまさに山梨ならではの経験ですね。

 そして。
 栄月製菓の主力商品である「厚焼木の実煎餅」もまた名物として(ローカルではありますが)一定の支持をいただいています。

 自社の商品の特性を見つめる中で、名物の中にも二つの系統があるのではないかと考えます。
 山梨の名物になぞらえて独自に定義すると、名物には「ほうとう型名物」「吉田のうどん型名物」があり、それぞれで戦いが違うのです。そして、厚焼木の実煎餅の取るべき戦い方、ひいては勝ち筋が「吉田のうどん型名物」にあるのではないかと考えています。

 今回はこの持論を深めていきます。


「ほうとう型名物」と「吉田のうどん型名物」

「ほうとう」と「吉田のうどん」はどちらも小麦粉を使った麺類で、どちらも県民の誰もが知る品です。
 しかし、名物としての立ち位置は対極にあります。

 ほうとうはスーパーマーケットで麺が売られており、家庭で調理して食べることが一般的です。カボチャをはじめとして、葉物野菜、根菜、きのこ類、豚バラなどの食材に、打ち粉がついたままほうとうを味噌仕立ての汁で煮込みます。
 小学校の家庭科の調理実習で作るほどに県民には馴染みの郷土料理ですが、家庭で作るものであって、外食で食べたことのある県民はごく少数です。

 対して、吉田のうどん。硬くて非常にコシの強い麺が特徴のうどんで、各店で手打ちされています。トッピングには茹でキャベツと油揚げ、「肉うどん」であれば馬肉、卓上には容器いっぱいに入った揚げ玉と「すりだね」という薬味があり、自分の好みに合わせてトッピングしていきます。そして大抵の場合、外食で食べる県民がほとんどなのです。ほうとう同様、吉田のうどんの麺もスーパーマーケットで販売されていますが、もちもち感と硬くコシの強い麺の旨さはお店でしか味わえません。

 つまり、県民にとっては「ほうとうは家庭で食べるもの」であり、「吉田のうどんは外食で食べるもの」なのです。
 これは経営者目線で見ると面白い特徴を秘めています。

ほうとうと吉田のうどんの戦場はそもそも違う

 家庭で食べられるほうとう。その名前や料理の特徴は全国区で知られています。対して吉田のうどんの場合、そもそも名前にもあるように富士吉田名物の郷土料理で、富士五湖周辺や都留市、大月市を含む郡内地域に根ざしている料理ということもあり認知度は低いでしょう。

 それぞれの店舗形態で考えてみます。
 ほうとうで著名な店舗は「ほうとう不動」や「小作」といったローカル・チェーンで、甲府駅や石和温泉駅といった主要駅の周辺、美術館や富士山がよく見える、といったような立地に店舗を構えています。営業時間は11時ごろから20時ごろ。夜時間にしては比較的早めに閉まりますね。規模も大きく客席が多いことはGoogleのクチコミでも確認できます。海外からのお客さんも多いようです。

 一方、吉田のうどんは民家を改装した店舗が多く、通りの路地を入って行った住宅街なんかにある感じ。暖簾のみで看板が出ていないところもあります。営業時間は11時ごろから14時ごろと、昼営業のみで、麺がなくなると早く閉まってしまいます。民家を改装したような店舗ですので客席数もそこまでありません。客層は近隣で働いている方がほとんどで、昼休憩中であろう作業着姿やスーツ姿の方が多く見られます。

 これらが「ほうとう型名物」と「吉田のうどん型名物」の特徴です。
 同じ山梨名物の郷土料理ですが、知名度、店舗の規模、立地、客層といった要素は対局にあるのです。

厚焼木の実煎餅の目指すスタイル

 当店の哲学、ある種の設立趣意書に関しては、前回のnoteで明文化しました。

 ここでは「軸」と表現しましたが、その軸の行き着く先が「吉田のうどん型名物」だと考えたのです。

 売り上げを拡大していくためには量を売らなければならない、という考え方と僕が考える栄月製菓のありたい姿はバッティングします。量産以外の方法で利益拡大を目指すならば地域に根ざすことが必要です。

 毎日のように。日常的に。定期的に。
 そういった用途に厚焼木の実煎餅が選ばれる。
 ローカルの、小さな地域であっても絶大な影響があります。
 家にはいつも置いてあるお菓子、何か手土産が必要であれば買うお菓子。
 山梨県民とまでは行かずとも大月市民に選ばれるだけの魅力が伴うようにしたいと考えています。

 もちろん、吉田のうどんに比べるまでもなく、こちらの認知度は低いです。山梨県内で言えば、名物と呼べるお菓子は多くあります。信玄餅であったり、くろ玉であったり、月の雫であったり。でもこれら著名なお菓子は「ほうとう型名物」であって、厚焼木の実煎餅が属する「吉田のうどん型名物」とは戦い方が違うのです。

「知る人ぞ知る」の魅力

 大月市にある岩殿山には毎年多くの登山客が訪れます。634mの低山で、新宿からJR中央線一本で来られることもあって日帰りで気軽に登ることができます。

 当店、栄月製菓は岩殿山山頂から縦走したのち、大月駅へと帰るルート上にあるのですが、お昼前後に来店されたお客さんに、
「この近くのおすすめの吉田のうどんのお店ってどこですか」
 と訊かれることがあります。決まって近所の「吉田屋」を紹介します。とても美味しいお店です。
 登山客の多くは登山計画書や入山届を練ります。メンバーや登山ルート、行動時間、必要装備の検討など事前の準備が肝要となります。そうなればきっとお昼ご飯だって調べるでしょう。岩殿山の情報を調べる中で「吉田のうどん」が検索にヒットしたのかもしれません。そしてお土産も調べるかもしれません。

 山梨県から遠く離れた場所に住む地域の人が「山梨のお菓子、何があるか知っていますか?」と訊かれたらほとんどの場合「信玄餅」と答えるでしょう。でも、実際に大月にいったことがある観光客の答えが「厚焼木の実煎餅」であるならば、これ以上のことはないです。

 知る人ぞ知る、の力は絶大です。ローカルをポジティブに捉える価値観です。
 知る人ぞ知る名物、の輪が広がっていくことでファンが増えることで「大月の人はこれを買う」という価値観が「大月に行ったらこれを買え」に変わるのではないでしょうか。

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