【小説】「天国のこえ」5章・うつ病(2)
「心拍は正常ですねえ。特に肺も問題ないかと思いますよ」
心電図検査を受け終わったあと、女性の医師がうーん、と首をひねった。
「な、何もない…?」
首を捻りたいのは私の方だった。何もないのならば、この不調はどこから来ているというのか。
「ストレスじゃないですか?」
医師が私の顔を見ながら聞いてきた。
「す、ストレス?ですか?まあ忙しいといえばそうですけど」
「人間関係とか」
「比較的人間関係も悪くない…と思います」
人間関係で、まっさきにトモコの顔が浮かんだが、あの人はなんというか…まだ私には優しく接してくれている方なのだ。
「心療内科も、検討してみるといいかもしれませんね」
さらりと医師は言った。
「え、心療内科ですか?」
思いつきもしなかった単語を聞いて、内心面食らった。
ストレス源もよくわからない、単に息が苦しいとか不整脈っぽいとか、それで行っていい場所なのだろうか。
「…まあ、検討されてみてください。お大事に」
あまりに呆気なく検査も終わり、循環器科内科に居た時間は一時間とかかっていなかった。
「結構…早く終わったなあ」
病院を出て、とぼとぼと私は歩いていた。
「心療内科…?かあ…行っていいのかわかんないけど…会社の近くにあったりするのかな?」
私はサブバッグから、スマホを取り出した。
「心療内科」で地図検索をかけてみる。
すると、二件ヒットした。
「まあ、行くだけ行ってみようかなあ。お前なんか病気じゃないって追い出されそうだけど」
とりあえず、私は一旦会社の方に連絡を入れることにした。
電話口にでるのは、当然のようにトモコだった。
「あっらー、木村ちゃん!早いね!大丈夫だったの?」
「あ、はい。循環器科内科では、異常なしだったんですけど…その、心療内科を勧められて」
あら!とトモコは芝居がかった声で小さく叫ぶ。
「まあまあ…、心療内科で診てもらうの?」
「お、追い出されるかもしれませんけど、折角なので行ってこようかと思います。え、と私の残ってる仕事は…」
「ああー、大丈夫、大丈夫よ。木村ちゃんの仕事、私もマナちゃんもやり方わかってるし!」
「ありがとうございます、助かります…」
心療内科から帰ってきた時の反応がいささか怖いものの、私はトモコとマナに甘えることにした。
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