見出し画像

プレッシング、中から切るか外から切るか

はじめに

某打ち上げ花火みたいなタイトルですが普通にサッカーの話題です。具体的に言うとサッカーの守備におけるコースの切り方のお話になります。
結論から先に言うと「そんなんケースバイケースに決まっとるがな」ってことなんですが、じゃあどういうとき中を切って、どういうとき縦(正面)や外を切るのか、優先すべきことは何なのかについて具体的な事例を挙げつつ解説していきたいと思います。

大前提の部分

個人戦術編

部活でもクラブでもなんでもいいですが、サッカーの守備を教わるときにまず言われるのが「相手と自ゴールを結んだライン上に立て」ということ。これは勿論相手のシュートコースを塞ぐためです。ドリブルでは抜かれなかったけどシュートコースを空けてたからシュート打たれて失点しちゃった、では守ってる意味がないですからね。
このポジショニングを意識していると、中央からサイドに行くにつれて中を切って外へ誘導するような身体の向きになるのが分かるかと思います。これは少し考えたら分かる話で、ゴールというのは常に真ん中にあるのでコースを塞ごう!となったら自然とサイドに追いやるような形になると思います。
1対1だったらこれを意識するだけで問題ありません。しかし、サッカーは11対11でやるものです。

チーム戦術編

次にチームとして4-4-2のゾーンで守るときの基本的なコースの切り方を解説したいと思います。簡単に箇条書きすると、
① FWがプレスをかけて片方のサイドに誘導
② SH、SBが縦を切って中に追いやる
③ ボランチなど周りの選手と連携して囲んでボールを奪い取る
って感じです。これに関しては良い電子書籍があるのでそちらを読んでいただくのが早いです。

言葉や図だけではアレなので、実際の試合を見てみたら更に理解が深まると思います。ショーン・ダイシ率いるエバートンの4-5-1を見てみましょう。エバートンは初期位置は4-5-1ではありますが、守備時にはIHの選手が飛び出して4-4-2の形になります。

①中を切ってサイドに誘導
②縦のコースを塞ぐ
③横パスをカット

「いや、俺は純粋な4-4-2が見たいんだ!」という方向けに一応シメオネ・アトレティコの試合のフルマッチ動画も載せておきます。2010年代中盤で最も完成度の高い4-4-2を見せていたのはアトレティコだと思っています。

サッカーの守備について語りたいなら、まずはこの4-4-2ゾーンの基本的な動きさえ覚えておけば大丈夫です。しかし、これはあくまで基本原則。当然例外もあり、状況に応じて変わってくる場面もあります。

ケースバイケースの部分

ピッチエリア編

サッカーというスポーツは、刻一刻と変わる状況に応じて何を優先すべきかが変わってきます。特にミドルゾーン(ピッチを横に3分割したとき真ん中のエリア)より前と、ディフェンシブサード(ピッチを横に3分割したとき自ゴールに近い方のエリア)で変わります。細かく言うとアタッキングサードでもプレーの基準が変わったりもするんですが、本稿はあくまでコースの切り方にフォーカスした記事なのでミドルゾーンより前は一緒と見做しています。

ジュニアサッカー大学「サッカーにおける3つのゾーンを解説【8人制では2つに考える】」より引用

まずミドルゾーンより前だと、基本的にはサイドだろうが中央だろうが縦を優先的に切ることが多いです。サッカーは縦パス1本通されるだけで展開がだいぶ変わりますからね。
しかし自陣深いところまで侵入されると「縦パスを通されるリスク」より「ペナルティエリア内に侵入されるリスク」の方が高くなります。そうなってくると縦を切るより中を切る方が適切なポジショニングと言えると思います。
この前とある記事を書くために昔の試合(ブラジルW杯のスペイン対オランダ)を見ていて、ちょうど良いシーンがあったので切り抜いてみました。

ミドルゾーン、縦を切る
ディフェンシブサード、中を切る

どうです?めちゃくちゃ分かりやすくないですか?笑
少し本論から逸れますが「守備のとき腰を落とす姿勢」の是非についても、ボールのあるエリア次第で変わると個人的には思っています。ミドルゾーンより前、もしくは中央レーンだとボールを積極的に奪いに行く必要があるため腰は落とさず自然な立ち姿に近い方がいいです。しかしディフェンシブサードかつサイドレーンでの守備は、ボールを奪うより抜かれない、時間を稼ぐといったことの方が優先度が高くなります(勿論ボールを奪えるに越したことはない)。そういう状況では腰を低く落とす姿勢もアリと言えるのではないでしょうか。
なんでもかんでも「サッカーの守備はこう!これが正しい!」と決めつけるのは危険ということですね。

ゲームモデル編

「チームの守備を安定させたい!」と思ったときにまずするべきなのはスライディングやクリアの練習ではなく「自分たちがピッチのどこで・どうやってボールを奪いたいか」をきちんと定めることです。
ボールを高い位置で奪いたい、なおかつ中央にボール奪取に優れた選手がいる場合外切りのハイプレスが有効であると言えます。代表例はクロップのリバプールやアルテタのアーセナルが挙げられます。実際の試合のシーンを見てみましょう。

リバプールの外切りプレス
アーセナルの外切りプレス

また外切りで大事なのはWGの選手がきちんとサイドのコースを切っていること以上に、真ん中の選手達がきちんと連動してプレスをかけた状態であることです。これができていないと、ただサイドチェンジされたり、ボランチ経由で簡単に(切っていたはずの)サイドに通されてかわされます。
外切りハイプレスをYouTubeでたくさん見たい方はこの試合のフルマッチ動画がオススメです。

ゲームプラン編

同じチームでも、対戦相手が変わればゲームプランによってコースの切り方が変わるケースも当然あります。
筆者がnoteで何度も取り上げているアタランタを例に見ていきましょう。分かりやすいように対戦相手は4-3-3で統一しておきました。
まずは普通に中を切ってサイドに誘導するプレスから。ラツィオに対してアタランタが採ったプレス方法は、
①CFが中を切ってサイドに誘導する
②相手SBにボールが入るとWBやIHの選手が飛び出してアプローチに行き、周りの選手達もマンマーク
③そのままボールを奪うか、ロングボールを蹴らせる
というもの。これは他の対戦相手にもやっているもので、アタランタといえばこの流れ、みたいなよく見るやつです。

中を切ってサイドに誘導
サイドで囲んでボールを奪う

プレスのかけ方も2種類あって、図にまとめてみました。

ラツィオ戦のアタランタのプレス①
ラツィオ戦のアタランタのプレス②

次に外を切って中に誘導するプレスです。今欧州で一番勢いがあると言っても過言ではない首位ナポリに対して、アタランタは普段と少し違う方法でプレスをかけにきました。

サイドを切って中へ誘導
中央で囲んでボールを奪う

結果論で言ってしまうと、このプレスは失敗に終わります。
主な理由はシンプルにナポリのチーム・個人としてのプレス回避能力が非常に高いから、そして2トップで外切りはかわされやすいから、の2つが考えられます。更にプレスを一旦かわされてナポリSBにボールが渡ると、わざわざHBが飛び出して対処するシーンが何回もありました。

ナポリ戦のアタランタのプレス

プレスを上手く機能させるためには、フォーメーションの相性や相手との実力差を冷静に見極める分析力も必要ということですね。

おわりに

このように、プレッシングにおけるコースの切り方1つとってもサッカーは様々なパターンがあり、それを上手く使い分けることが求められます。中切り、外切りのどちらかが絶対正解、不正解ということはありません。
選手の特性や監督の好み、選手やボールの位置、対戦相手の特徴に応じて適切に使い分けることが重要だと思います。

参考文献

本稿をアップするのはもっと早い予定だったのですが、とある本と出会い「この本を読まずして守備戦術は語れない!」と考えたため投稿が遅れてしまいました。それが、こちらです。

この本は守備の個人・チーム戦術、プレッシングの型、ゲーゲンプレスをするべき状況とリトリートするべき状況の違いなどを網羅的に解説しており、非常に分かりやすいです。簡単な練習メニューなども載ってるので、指導者の方はこれを参考にしてみては如何でしょうか。


この記事が参加している募集

サッカーを語ろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?