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サッカーの戦術本に対する向き合い方とサッカーの見方

はじめに

皆さんはサッカー本大賞をご存知ですか?ざっくり言うとサッカー関連の書籍(読み物)を対象にした文学賞のことです。今年の入賞作品を知りたい方は以下の記事をご覧ください。

海外で暮らした経験があるわけではないので適当なこと言うと怒られそうですが、日本のサッカー本文化はすごいと思います。選手や監督の自伝、ドキュメンタリー系、戦術・データ分析系、トレーニング・練習メニュー系、エッセイやコラムを集めたもの、ピッチ外のサッカー文化全体を取り扱ったものなど色んな種類があります。また翻訳本に関しても、上記に挙げたジャンル全てあるのでまさに多種多様と言えるでしょう。
その中で特に筆者が中高時代(お小遣いや定期テストごとのボーナス、誕生日プレゼントを駆使して)熱心に集めていたのが戦術関係の本です。今振り返るともう狂ったように読みまくっていました。今回は筆者の読書遍歴を紹介しつつ当時の経験を元にサッカー本に対する向き合い方、そしてそこから学んだサッカーの見方について解説していきます。

サッカー戦術本との向き合い方

私のサッカー戦術本遍歴

まず最初に、本稿は正確なデータを元に書かれている記事ではないことをご了承ください。めちゃくちゃ印象論、実体験が多めです。そのため、「これはこうじゃない?」と訂正してくれる方が現れると非常に助かります。
今AmazonやGoogleでサッカー戦術本を調べていると、どれだけ古くても2010年あたりに出版されたものが多いです。これは南アフリカW杯と関係していると思います。実際筆者が最初に触れたサッカー本(厳密にはムック)は、南アフリカW杯本大会に出場する32チームの戦術を解説した『ワールドサッカー「戦術」最前線』でした。これをきっかけにサッカーの戦術というものに興味が湧き、その中でも西部謙司という方の文章に惹かれたので『サッカー戦術クロニクル』シリーズや『戦術リストランテ』シリーズを読むようになりました。
またこの頃流行った「観戦術」系の本もいくつか読みました。小野剛氏の『サッカースカウティングレポート』、木崎伸也氏の『サッカーの見方は1日で変えられる』、清水英斗氏の『サッカー「観戦力」が高まる』、徳永尊信・北健一郎両氏による『一生使える!サッカーのみかた』などがこれにあたります。
観戦術ブームの後は、スペイン帰りの指導者による戦術本が増えたような印象があります。代表的なものが坪井健太郎氏の『サッカーの新しい教科書』シリーズです。ノーマル、守備、攻撃の3冊があり、どれも面白いです。未だに誰かにオススメの戦術本を聞かれたときは、これを紹介しています。より実践的な、とっつきやすい内容だと村松尚登氏の『最速上達サッカー オフ・ザ・ボール』などが挙げられます。付録のDVDは部活のミーティングでお世話になりました。
サッカーの守備、特にゾーンディフェンスについて興味があったときに読んでいたのが『世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス』『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』です。kindleでしか読むことができませんが、footballhack氏の『4-4-2ゾーンディフェンス セオリー編』もとても勉強になりました。
守備繋がりで言うと学校の図書館で見つけた『ワールドサッカーの戦術』も物理的にも内容的にも重厚で未だに色褪せない内容だと思います。アメリカW杯のイタリアを元にゾーンディフェンスを分析しており、サッカー戦術本の古典といえるべき存在ですね。
今現在のチームに関するモノではなく戦術「史」に関する本だと、やはりジョナサン・ウィルソンは外せません。彼が著した『サッカー戦術の歴史』『孤高の守護神』『バルセロナ・レガシー』はどれも名著です。他の海外のジャーナリストによる著書だと多少ドキュメンタリーチックではありますが、マルティ・パラルナウの『ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう』『グアルディオラ総論』はポジショナルプレーの教科書的存在です。
サッカーの戦術に関する文章を読みたいと思ったら、本だけでなく雑誌も非常に有効です。footballistaは週刊の頃から読んでいましたし、ワールドサッカーダイジェスト(WSD)やサッカークリニックも特集によっては面白い記事が数多くありました。
WSDはトップレベルの監督による連載コラムも多く、有名なのは『アンチェロッティの戦術ノート』でしょうか(アンチェロッティといえば『アンチェロッティの完全戦術論』もオススメです)。彼のように書籍化はしていないもののバルサBの監督時代のペップ、ミラン監督時代のピッポの連載なども読者側が「え、そんなことまで言っていいん?」と思ってしまうぐらい赤裸々に語ってくれていた印象があります。高校生の頃、各地のブックオフを漁って上記のような質の高い記事が載っているバックナンバーを手に入れるのが趣味でしたが、宝探しみたいでとても楽しかったです(小学生並の感想)。
最近では本も雑誌も一通り読んで中身に新鮮みを感じなくなったのであまり読まなくなりましたが、鬼木祐輔氏の『サッカーいい選手の考え方』やレナート・バルディ&片野道郎両氏の『モダンサッカーの教科書』シリーズ、他の記事でも紹介した『ドイツサッカーのディフェンス戦術』は非常に面白かったです。勿論他にもまだまだ良い本はたくさん世の中に出回っていると思います。

※番外編
サッカーの理解を深めるためにフットサル、ラグビー、バスケなど他のスポーツの戦術本を読むのも面白いと思います。ラグビーとバスケは他の専門家の方に任せる(筆者に全く知識がないので)として、フットサルに関しては元フットサル日本代表監督ミゲル・ロドリゴの『フットサル戦術パーフェクトバイブル』が分かりやすくて良かったです。

戦術本を「どう」読むか?

『読書について』で有名な
ショーペンハウアーのイラスト

個別の著者、書籍を批判するようなことはなるべく避けたいと思いますが、実際問題サッカー戦術本の中には誰でも書けるような低クオリティの本が含まれているのも事実です。言ってしまえば玉石混交というやつですね。
我々消費者としては、なるべくそのようなクソ本を避けて信頼できる人が書いた信頼できる内容の本だけを読んで学びたい…と考えるのが自然だと思います。ドイツの哲学者、ショーペンハウアー先生も『読書について』で「読書は他人の頭で考えることだ!クソ本を読むな!古典を読め!(超意訳)」と言っています。
ですが何をもって良い本、悪い本と評価すべきなのでしょうか?この問いに明確な答えは存在しません。そのため、何が良くて何が悪いかの基準を自分で見つけるためにとりあえず全部読むというのが自分流のサッカー戦術本に対する向き合い方でした。今では自分なりのサッカーの見方も形成されたのでむやみやたらに買うことはしませんが、ボール周りしか見れない、ゲーゲンプレスが何なのかすら分からない、みたいな時期は「とりあえず何でも読む」というスタンスでいるべきです。というのも、どんなクソ本でもタメになる内容は1ページ、いや1文だけでも存在すると思っています。大事なことが書かれてなくても「大事なことが書かれてなかった(でもこれについては書いてた)」ということが後々身に沁みて分かってくるわけです。
ちょっと自分でも何言ってるか分からなくなってきましたが、要するに「どんな本からでも学び取るという姿勢が大事」というわけです。ただこれも注意が必要で、読後に自分で内容を振り返ったり、その内容を元に実際の試合を見て分析してみる、ということをしないと「他人の頭で考えてる」状態で全く意味がありません。カタカナの専門用語だけ並べて分かった気になってるサッカーファンがこの世で一番ダサいです。そのため、読んだ後は必ずその内容を活かして直近で見る予定の試合を分析してみましょう。何事もトライアンドエラーが大事です。
最後に1つだけ付け加えると、これは戦術系の本に限った話であり、ドキュメンタリー系の本やトレーニング理論に関するものはしっかり良質な作品を選んで読んだ方がいいと思います。誤訳、誤情報があるドキュメンタリーは読む価値ありませんし、誤ったトレーニング方法によって人生棒に振ることだってあるのでこの辺はしっかり精査が必要です。

サッカーの見方

去年唯一のスタジアム観戦、J1昇格プレーオフ決勝
京都サンガ対ロアッソ熊本

「サッカーの見方」と言ってもここではやれトランジションだ、マッチアップの噛み合わせがどうだ、ゾーンとマンツーマンの違いがどうだ、みたいな話はするつもりはありません。そんなものググったらいくらでも情報は出てきます。「実際に自分がこういう観点で分析している」というのも別に教えるつもりはありません。何故なら人それぞれ違って当然だからです。
というわけで、細けえことは抜きに個人的に「こうやって見たら面白いんじゃない?」と思うオススメのサッカーの見方を紹介します。

①気になる選手1人を追いかけて見る

もう一番シンプルなやつですね。よく選手個人をずっと追跡しているカメラをその選手の名前を取って◯◯カメラなんて言ったりしますが、まさに自分自身が◯◯カメラに成り切るというスタイルです。しかし、これはこれで案外難しいです。というのも、どうしても選手も監督もサポーターもボールに目がいってしまうからです。好きな選手1人をずっと追いかけていても、その選手がボールを触る時間なんて90分通しても数分しかありませんし、TVで見てたら画角的に映らないことも多々あります。
ですがそれでもなお食らいついて1人の選手にフォーカスして見るとボールを持ったときのプレーだけでなくオフザボールの動きだったり、細かい動きの癖なんかにも気づくことができると思います。こうした見方はストーカー、いやサッカー初心者の人にオススメと言えますね。

②1つのエリア(ゾーン)を集中的に見る

これは①を少し発展させたものになります。右サイド、DFライン、ピッチ中央など1つのエリアに絞って見るという手法です。①と違って選手単体の個人プレーではなく連動して動くユニットとして見る目が養われますし、ボール周りを追いかけるシーンも(個人のみの場合と比べると)増えます。
個人的にオススメなのはDFラインです。どういうタイミングで上げ下げしているのか、相手選手をマークするときはどこまでついていくのかなどの駆け引きは見応えがあって面白いと思いますし、(見るチームにもよりますが)守備の基本的な原則が学べると思います。またSB経験者的にはサイドの攻防(SBとSHのマークの受け渡し方など)も見てて楽しいです。

③応援しているチームの視点に立って見る

サッカーの戦術分析で一番大事なことは、そのチームの普段着を理解していることです。クラブに所属する選手の階級(絶対的なレギュラー、スタメン当落線上、ベンチウォーマー)、選手達がついやってしまうプレーの癖、監督が好んで使うフォーメーションや戦術は普段からそのチームを追っかけていないと分かりません。そのチームのことを一番理解しているのは他所から来た優秀なアナリストではなく昔から応援しているサポーターということです。
例えば普段4-2-3-1を採用しているチームが対戦相手の対策として3-4-2-1を採用していても、その1試合しか見ていないと「ああ、このチームは3-4-2-1なんだな」と誤った判断をしてしまいます。他にも普段トップ下で出場している選手がボランチでプレーしていても「この選手は本職ボランチなのかな」と勘違いしてしまう可能性があります。
そのため普段応援しているチームの視点に立って「今日のSBのスタメンが前の試合と違う理由は何か」「ビルドアップの方法が普段と違うやり方だが何故なのか」「前上手くいってた◯◯がこの試合では機能しない原因は何なのか」といったことを考えるのが、戦術分析の第一歩と言えるでしょう。

④逆の立場になって見る

③の逆で「相手チームの立場になって考える」というのも面白いと思います。相手チームだったら自分が応援するチームのどこが嫌なのか、またそれを踏まえてどのような対策を立てるのかについて考えながら見ると好きなチームを違った視点で楽しめると思います。筆者はクレ(バルセロナサポーター)ではないのですが、ペップバルサ全盛期の2010年前後は「このチームはバルサに対してどういう対策を取るのか?」という視点で見ていました。最近だとナポリやシティ、ブライトンの対戦相手にも注目しています。
③と④を同じ試合で実践する、つまり「同じ試合をそれぞれのチームの立場で1回ずつ、合計2回見る」という手法が一番精度の高い戦術分析が行えると考えています。時間がある方は是非やってみてください。

⑤見ない

「は?」と思いましたよね、ちょっと待ってください。これもサッカー観戦においてとても大事なスタンスの1つなんです。
ゴール裏で飛び跳ねて大声出したことある人なら分かると思いますが、正直試合中の細かい動きなんて分かりません。あんな場所で「ボール非保持時の可変システムが…」とかブツブツ言ってる奴いたらシバいていいです笑それよりもチャントを正しく歌うことやリズムに合わせて手拍子をすることの方が大事ですから。
熱狂的なサポーターではなくとも、メインスタンドでスタグルとビール片手に見たり、バーなどのパブリックビューイングで友達とワーワー言いながら見るのも、立派な観戦方法の1つです。友達がいなくてTVやスマホで見るしかないぼっち勢も、Twitterのタイムラインを追いかけたり誰かがやってるスペースに参加したらそれなりに楽しめると思います。
このように「試合そのものを中心に見ない」というのを選択肢に入れるのもアリなのではないでしょうか。

おわりに

サッカーに関する本のことや試合の見方についてあれこれ書いてきましたが、これらのテーマに関して唯一無二の正解なんてありません。本稿の内容も「何言ってんだお前」と受け流してもらってもかまいません。
ただ間違いなく言えるのは、本はあくまで自分で考えるのをサポートしてくれる補助具でしかないということ。どんな本も一長一短あるので鵜呑みにして聖典のように扱うのは危険です。読んだ後「で、自分はどう考えるのか?」という問いかけを大事にしてほしいと思います。

参考文献

本稿で取り上げた本を紹介した順に列挙しておきます。あまり大きな声では言えませんが、正直ハズレ本も含まれています笑(ハズレと言いつつ参考になる部分もあるっちゃあります)
おみくじ感覚でパッと気になったものから読んでみてみると面白いかもしれません。

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