オールブラックスの強さの秘密 ~システム論からの考察~

世界最強のチーム、オールブラックス。その選手選考方法は、日本でもおなじみの番付システムであると噂されています。

選手に順位をつけ怪我や不調の際にはその順番が変動するというのが番付制度の肝ですが、オールブラックスはそれをポジション毎に用意していると言われています。ハンセン監督の手法なのかは不明ですが、この手法の最大のメリットは、いつでもTOPにベストな選手を採用できるということです。

TOPにベストな選手を選んだから強いチームができるわけではありませんが、ただ他の明確な基準を設けることでチームとして機能させることは可能です。ここではその仕組みについて考えてみましょう。

1.選手選考をポジションごとにする意味

選手選考は、ある種、自動的に決まります。先に基準を設けてあるので、ランキングに応じて、ところてん式に上位選手がTOPに押し出されるからです。

次に必要なのが、選手選考とチームの機能を結び付けること。

ポジションに対して、明確なタスクを割り振ることで、チームとしての機能は保障されます。一つの仕事を終えるのに必要な分担を各人に割り振るイメージですね。基本的な機能 (職分,役目) 、権限と責任の範囲、指示を受けるポジションなどが明確に分かれているかもしれません。

行われるタスク=分担を行う際に、重要なのは、戦術部分はポジションに割り振るということです。プレーヤー毎に割り振ると、そのプレーヤーに戦術の遂行が依存してしまいます。あくまでもポジションに戦術を割り振り、システムとして機能させることがポイントです。よって戦術変更はシステムに依存します。戦略は、もちろん戦術の上位にあり、戦術の方針を定めてくれます。大きな順番で行くと、戦略→戦術→ポジション→選手の順になっています。

2.選手育成のメリット

選手の側からもメリットはあります。選考基準が明確であるため、目標を設定しやすいことがあります。また最低限の戦術設定もシステム内で既に行われていることから、身に着けるべきメソッドも明確です。

優秀な選手がたくさん育成されるのは、このように明確な基準があることも理由です。優秀な選手が後から次々現れるのは、育成と選手選考だけでなく、もっと高次の目標でつながっているからです。

国の単位で明確な戦略があり、用意された戦術セットがあり、明確な選手選考基準があることで、すべてがきれいに循環していると言えます。

明確な戦略とは、ワラビーズのところでも記載しましたが、No1戦略です。No1であり続ける方策を、オールブラックスは常にメインに据えています。相手に合わせるミート戦略、一点で勝負するのでなく全体で勝負する総合主義、相手に動じず自分たちの土俵に上げる誘導戦など、いずれも王者ならではの対策を講じています。この国を挙げてのオートマチズムこそ、オールブラックスの強さなの源泉だと言えるでしょう。

3.豊富なリソースの罠

しかし明確な欠点もあります。移籍の問題です。

世界最高の選手が自分と同じ年代に存在したらどうでしょうか?     子供のころから憧れたオールブラックスに自分がなれないとしたら?

しかも、番付制度のおかげで、自分がオールブラックスになれるか、なれないかは、明確に見えています。

その時にあなたならどうするでしょうか?

Blade Thomsonは、2010年IRBジュニア世界選手権でアルゼンチンで優勝したニュージーランド・アンダー20チームのメンバーでした。その後、スーパーラグビーのハリケーンズを得て、ヨーロッパに渡ります。スカーレッツで活躍した彼は、スコットランドの代表に呼ばれ、今スコットランド代表としてワールドカップを目指そうとしています。

ラグビーの代表要件は最近は厳しくなったとはいえ、国籍条件を求められる場合が少ないので、生まれ育った場所とは違う国で代表になることはまだまだ可能です。

NZ生まれの代表選手は日本だけでなく世界中でみられるようになり、トンガとはまた違った意味で、ニュージーランドは選手輸出国になりつつあります。優秀な選手を国内で育てれば育てるほど、敵に回ってしまうという矛盾が起きています。

4.番付システムを超える日

世界中にキューイ(ニュージーランド人のこと)があふれる日は来ないでしょうが、多数のラグビー選手がオールブラックスメソッドを学ぶ日は遠くないかもしれません。結果、世界中のレベルがあがり、オールブラックスの優位性が失われる日もやってくるかもしれません。            黒衣の軍団の成長に、世界が追いつくのはいつの日か。楽しみですね。



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