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セビオが守っていたもの 〜ポイズンピルの謎〜

令和5年9月26日、とある破産事件の1回目の債権者集会が東京地裁で開かれた。露出の多い女性タレントを使いYouTubeを中心に派手なPRを仕掛けていたその会社は突然破綻した。
ヒカリレンタとその関係会社は3月10日に東京地裁に自己破産を申請。説明会では債権者から怒号が飛び交う場面もあったという。

この社名、見覚えがある方も多いだろう。

ヒカリレンタは各種スポーツ団体に大盤振る舞いとも言える支援をしてきた。大阪エヴェッサ、ヴォレアス北海道、福岡北九州フェニックス。
サッカー界ではヴェルディの練習着をスポンサードしていた。

しかし最も有名なのは、RIZINファイターの皇治への支援だろう。

若い人には意外かもしれないが、ヴェルディとRIZINの関係は古い。
とある選手の引退試合のスポンサーを努めていたこともある。

1.スターシステムの弊害

そもそもヴェルディというより、その選手と個人的な付き合いが深い。そう言っても過言ではない。
※本稿ではRIZIN自体の毀誉褒貶については触れない。錦秀会についても同様。その辺は話すと長くなるので専門家に任せたい。

tweetにあるように、沖縄時代からの盟友だという。それほどの深い関係が生まれたその選手の沖縄時代を振り返ってみる。

彼のFC琉球退団時のコメントである。
一介の選手のコメントとしてはかなり奇異なものである。
「今期監督招聘の責任を取りFC琉球退団を決断」
監督よりも上の立場の選手が、そのチームに存在していたということをこのコメントが端的に表している。

2013年10月26日、JFLのリーグ戦でツエーゲン金沢に0-5で敗れたことを受けたツィートは下記の通り。
「必然的な敗北」
「毎試合、もっと言うと日々のトレーニングから細部にまで拘りやり続けることを疎かにし勝ち負けに一喜一憂する丁半博打でやってきたツケが出た」
その後の紅白戦では次のようにも語った。
「残念ながらメンバー変更含め大きな改善も無く、いつも通りBチームにゲームを支配される展開」
「所詮紅白戦と現実を認めない人間もいるが現実こそ真実。神様は見ている」

明確な監督批判である。自分が連れてきた監督をこき下ろして、一体どうするつもりだったのか。代表と昵懇であるという自信が言わせたのだろうか。

スターにスポンサーがつき、組織を上回る存在となる。スターシステムの弊害である。

2.組織とスポンサー

この騒動のせいかは不明だが、結局、琉球がJ3に上る直前に、その選手は退団し、再びヴェルディへと舞い戻ってくる。

この記事にあるように、2014年時のチーム状況は最悪と言っても良い状態だった。

-(選手として契約する)最大の要因はNの加入を条件としたスポンサーの獲得にある。Nの加入により2年総額2000万円のスポンサー料が入る予定で、Nに支払う400万円の今季年俸を引いた1600万円がクラブに入る計算
-選手の年俸も一部を除いて240万円から480万円が中心。その一方で13年に招へいした三浦泰年監督(48)は年俸2500万円の3年契約、羽生社長の報酬もクラブ関係者によると年間1500万円近い

川勝体制で育てた選手を総取り替えして望んだ三浦泰年体制だったが、わずか2年で終了。2013年はクラブ史上ワーストの13位、2014年も成績は20位と低迷した。
一方、このとき舞い戻った選手は生き延び、2017年に引退、そのままユース監督兼GM補佐に就任する。その後は御存知の通り、2019年トップチーム監督に就任し2021年8月、成績低迷の中、パワーハラスメントの嫌疑が生まれ、退任することになった。
選手期間だけでなく在任中もスポンサー獲得に尽力したという話は尽きず、組織にとっては魅力的な人材であったことには間違いない。
この2つのチームからわかるのは、金のない組織は、簡単に、一人の人間にコントロールされてしまうということだろう。

3.お金と組織

冒頭に戻る。スポンサー企業の破綻により、2023年ヴェルディのプラクティスシャツの胸スポンサーはないままシーズンを終えることになった。
*秋口に鎖骨スポンサーがついた


今回はお金が入ってこなくなっただけで済んだが、これがもっと大きなトラブルに発展する問題だとチームへの打撃は計り知れない。
加えて、スポンサーと選手が密接だった場合、更に事態はより深刻なものになるであろう。自律していない組織が簡単に侵食されるのは、先程、見た通りである。

さて、やっとここでゼビオの登場。
2010年の支援時に、ゼビオは、新株予約権により東京ヴェルディの株式の56%を取得する権利を持った。この新株予約権には、ゼビオHD以外の第三者が増資を引き受けた際、同じ株数だけゼビオHDの権利が増え、転換後のゼビオHDの持ち分比率が維持される条項が付いていた。一種のポイズンピルである。

-ポイズンピルと(Poison Pill)は、企業が敵対的な買収者以外の株主に対し、あらかじめ新株を市場価格より安く取得できる新株予約権を付与する買収防衛策です。 敵対的買収が仕掛けられた際には株式を大量発行して敵対的買収者の持株比率を引き下げ、結果的に支配権の獲得、買収を断念させます。

通常、経営サイドが敵対者を判断するのだが、このケースではゼビオが敵対者を判断することができる。
なので、あれほど子会社化するのを嫌がっていたゼビオが、2020年のあのタイミングでなぜ全面に出てきたかと言うと「敵対者」が現れたからと考えるのが妥当だろう。経営サイドが仕掛けた株式の希釈化には多数の引受先候補があったとされるが、アカツキ、Amadana以外、その社名は詳らかにされていない。一体誰に売るつもりだったのだろうか。

そもそもゼビオがヴェルディを経営・スポンサーするメリットはほとんどない。

①事業とのシナジー
全国各地で各種スポーツの販売を行う企業が、特定エリアの特定競技のスポンサーを行うメリットは多くはない。むしろ他競技と競合・反目し合う場合等は逆効果である。エリアが特定される場合も同様である。
②連結対象としての縛り
上場企業であるため、出資額が増えると連結子会社となり、グループの縛りが発生してくる。結果、ヴェルディ側は、企業活動の自由さが失われ、活動も成約される。グループの一員としてコンプライアンス遵守が要求され、ゼビオの管理下に入る必要も出る。

動かないゼビオと揶揄されたが、デメリットを考えると、実質、動けなかったとも言える。なので資金援助した分を将来的に回収するために新株予約権を持っていただけというゼビオの主張は理解できる。これがポイズンピルが飲まれたままだった理由とも言えよう。

そのゼビオが動いたのは、新株予約権が無意味になる可能性が出てきたことに加え、ヴェルディという組織がこのままでは好ましくない方向に行くだろうという判断があったように思える。組織がまた不安定な方向に向かっているという認識である。

旧経営陣による経営実態に対して、ゼビオは以下の批判をしている。

「赤字補填を目的とした若手選手の売却」
「過剰な経費利用等が常態化」
「複数の不透明な商取引」

バケツに穴が空いたままの組織をそのままにして、親会社から資金を引き出し、拡大を続けることは粉飾決算に似ている。企業においては利益を最大化ことは善である。その利益を投資、分配して活動を最大化していくから。それによって組織も活動も大きくなり、結果、成長する。
そもそもサッカーチームにおける成長とは何だろうか?お金をじゃぶじゃぶ使い、結果を出すことであろうか?それはかつて来た道ではないのか?

セビオが求めているのは自律的な組織である。自分たちの足でしっかりと歩いていく組織を求めているとも言える。つまりゼビオがポイズンピルとして守ってきたのは、ヴェルディの組織自体だったと言うべきだろう。

この騒動後に経営陣は去り、レジェンドから監督となった人間もチームを追われている。

4.サッカーとお金と成績の話

このゼビオの判断が正しいかは、今年の結果で判断されることになる。過剰なお金をかけずにJ1に残ることが出来るのか否か。それは1年後にわかる話。

例え残留できなかったとしても、我々が手に入れるものは2つある。J1での経験値と少しだけ大きくなった組織である。明らかに観客数が増える中での経験は必ず選手にも組織にもプラスに働くはず。ここで得たものをどうやって繋いでいくかが、次のフェーズの課題である。

貧乏人は高望みしても貧乏なだけ。
今あるものを増やすしかない。
頑張ろう。

【補記1】
本文中に入れるとゴチャゴチャしそうだったので、おまけをここに。
プレーオフでのジェフ戦を前に、相手監督の小林慶行について、ちょこちょこツィートが流れて来ました。古参サポほど、移籍時のやり取りを快く思ってなかった人が多くて意外でした。
私は彼のことは嫌いではありません。

彼の移籍理由を覚えている方は、今、どのくらいいるでしょうか?

「若返りを目指すと言いながらNを獲得したこと」

林健太郎と米山篤志を解雇したことがかなり影響を与えたと言われています。

組織にも影響を与える人間がこのタイミングで入ってくることを警戒して出ていったのは、仕方がないなと当時思ったものです。あの時、彼らを中心として継続できていればなという思いさえありました。
監督としてやっているサッカーとしては、比べるまでもなく小林慶行の方が結果は出てますしね。

なので、小林慶行、頑張ってください。
ジェフで結果を出して欲しい!

長々とご清聴ありがとうございました。
あとは与太話なので、お好きな方だけどうぞ。

【補記2】ここからは有料でーす

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