ハリルホジッチ解任の裏側にあるもの

これから(2018年5月以降)サッカー日本代表に起こるであろうことを二つ予想させていただきます。


1.2018ロシアW杯において、日本代表は森保U-23監督が中心になってチームを作っていきます。森保式3バック(変形5バック含む)もありうるでしょう。

2.日本サッカー協会の当面の目標が、東京オリンピック2020での金メダル(もしくは決勝進出)に変わります。

なぜこのような予測をするのかというと、ハリルホジッチ監督解任について調べているうちに、一つのことに気付いてしまったからです。あくまでも仮説にしかすぎませんが、今後の日本サッカーにとって重要なことなので記事化することにしました。

ハリルホジッチ監督解任問題で、いま残されている最大の問題は、解任の時期、なぜこのタイミングでということです。(*1) 今後、いろいろな情報が出てきても、この点が明らかになることは決してないでしょう。それは田嶋会長にしか発言できない部分であり、本人が公表しようと思わない限り、明らかにならない部分だからです。(本稿以下、すべて敬称略)

ブラックボックスの中にあるこの解任時期の問題について、合理的な仮説に基づいて検証することしかできません。ただ、なぜこのタイミングで解任が行われたのか、田嶋会長の決断の背景にある文脈、ストーリーが理解できれば、今後、現実に起こる出来事と比較することで、きっとなにか見えてくるものがあるはずです。そのための記事と思ってください。

以下、すべて私論ですが、冒頭の予想について、ある程度根拠のある話ができたと思いますので、かなり長いですがお読みください。

(*1)なぜ解任されたかという理由についてはすでに説明がなされています。田嶋会長から「コミュニケーションの問題」と明言されており、解任理由については(納得できるかどうかは別にして)説明は済んでいます。理由の有無については、ハリル・協会側双方で確認がされています。(ハリル氏と田嶋会長の記者会見参考)
また「コミュニケーションの問題」があったのか、なかったのか、それが解任の理由として妥当なのかといった点については争いは残されていますが、ハリルホジッチ氏側からの裁判などで明らかになる可能性はあるので、今回は記載しません。


A:ハリルホジッチ氏解任とその後のスタッフからわかること

まず解任後のスタッフ構成を見ると、一つのことに気付きます。

監督 西野朗
コーチ 手倉森誠
コーチ 森保一(U−21日本代表監督と兼任)
GKコーチ 浜野征哉
GKコーチ 下田崇
コンディショニングコーチ 早川直樹
コンディショニングコーチ 小粥智浩(U−19・U−16日本代表コンディショニングコーチと兼任)
また技術委員長は関塚隆が就任しました。

このメンバーには共通のキーワードがあります。

もうお判りでしょうが、それは「オリンピック」を経験した/するスタッフであること。

西野監督・アトランタ、関塚委員はロンドン、手倉森/早川コーチ・リオ、下田コーチは選手としてですがアトランタを経験しています。森保/小粥コーチは東京オリンピックのスタッフです。今回のメンバーは、過去・現在いずれかのオリンピックにかかわっており、オリンピック(育成)ジャパンと呼んでもいいかもしれません。  

急場で協会の手元にいるスタッフをかき集めたからいう反論もあるかもしれませんが、フリーのコーチ経験者もたくさんいるはずです。その中から選ばれたメンバーだとは思うと、そこに何らかの意図が働いていないとは思えません。このメンバーである意図を解きほぐしてくれれば、ハリルホジッチ監督解任の理由の一端が分かるはずです。

けれども、このメンバーを選出したのは、やはり田嶋会長に他なりません。(監督人事は会長の選任事項であるという会長の過去の発言や、西野監督の会見での発言や表情を見ても、事前に調整された様子はなかったように思えます。)そのため、スタッフ構成の判断についても、将来、語られる可能性は低いように思われます。

W杯で歴戦の強者であるハリルホジッチ監督を解任し、W杯での経験値の低いオリンピック(育成)ジャパンに切り替える判断をした理由は、時期の問題と同じく、闇の中にあります。

B:ブラックボックスに光を当てるために

しかし、私たちは田嶋会長にはなれませんが、その意図するものを読み解くことは可能だと思っています。いまオープンにされている情報から会長が何を基準に行動しているか、推測することぐらいはできるからです。

私個人としては、田嶋会長は極めて合理的な判断のできる機会主義者である可能性が高いと思っています。なぜなら、田嶋会長が、もし本当に何も考えずに行動する存在ならば、国内組織をまとめ、選挙活動を行い、なおかつ勝利して、会長に就任することなど難しいからです。(国際団体の役員も務めていたのでなおさらです。)

そこで、田嶋会長が、合理的な判断として、「ハリルホジッチ監督を解任し、オリンピックシフトをなぜこのタイミングで行ったのか」について、置かれている状況や田島会長の行ったことから探ってみたいと思います。

日本サッカー協会会長が合理的な判断力を持つ存在と仮定すると、通常、下記のことを価値として行動するはずです。

・会長という地位の保全
・会長としての社会的・経済的利益を追及

以下、田嶋会長の判断を見る上で、この二つの価値を中心に整理していきたいと思います。

C:守るべき地位である会長職について

日本サッカー協会会長に就任するには、2014年から選挙を経て、評議員に承認されることが必要になりました。

その改定後の選挙で、2回とも勝者となったのが現職の田嶋会長です。

また2018年の選挙は、評議員7人以上から推薦を受けた候補が他にいなく、そのまま田嶋会長が評議会の承認を経るだけで就任しています。

制度的には、選挙に勝つために、評議員7名の推薦を受け、本投票で出席した評議員の過半数を得票する ことが必要です。つまり、この人たちを味方につけることが会長になるための必須の行動になります。

そのためか、田嶋会長は全国を回り、県の代表者たちと面通しをしていました。
また田嶋会長は元日本代表への年金制度創設を考えているとも言われ、代表OBへの配慮も欠かしていません。https://www.nikkei.com/article/DGXLSSXK50709_S8A200C1000000/

●評議員の構成

評議員は下記のメンバーで構成されます。
・評議員(都道府県サッカー協会) 47都道府県サッカー協会各1名の計47名の代表
・評議員(評議員推薦加盟団体) 評議員推薦加盟団体11団体計28名の代表(J1クラブ計18名含む) 

日本サッカー協会の会長職に、直接、影響力を行使できるのは、上記のメンバーということになります。地方票が47とプロ関連団体よりも重い構成なのもポイントです。

●会長の選出への影響をもつ他の要素

選挙実施前の会長職はどのような形式でしょうか?

役員選考委員会で会長候補を推薦し、全国サッカー協会の代表らを中心に構成された評議員会で承認する形 でした。(FIFAからの指摘で選挙制に移行しました。

大きく分けると次の二つの傾向があります。

まず会長職については、第六代会長の藤田静夫氏以後、三菱重工と古川電工OBが、交互に就任しています。(例外は第9代会長 岡野 俊一郎 氏)

学閥については、第9代会長 岡野 俊一郎 氏以降、現・田嶋会長就任までは慶應大学と早稲田大学からという傾向が見えます。

田嶋会長は、古河電工出身者ですが、筑波大学卒です。(当初、三菱系としていましたが、ご指摘ありましたので訂正させていただきます)
筑波大学出身者は、主に、スタッフに多く、会長は田嶋会長が初となります。ちなみにスタッフの出身大学は、早稲田大学、筑波大学出身者が多いように思われます。(すべてデータされていないのでこの記述は正しくないかもしれません)

こういった関連の団体から支持を得ることが得票になることは、容易に想像できます。学閥は各大学を通じてアマチュア組織へ影響力を行使することが可能です。各企業関連OBは、当然、母体・スポンサーとなっているプロ団体のOBとなっているはずです。企業と学閥は、会長職の選任になんらかの影響を与えている要因の一つと考えられます。

●スポンサーの影響

スポンサーは、日本サッカー協会に対する影響力は強いですが、会長職に対しては、間接的な影響を持つにすぎません。

アマチュア団体の票数が多いこともあり、会長職の選任には間接的な影響しか発揮できませんし、日本サッカー協会に強い影響を与えても、会長の首が飛ぶまでには時間がすこしかかる可能性は高いです。粘れば次の選挙まで、短くとも臨時評議会の招集まで会長職に居続けることが可能でしょう。(そもそも解任方法が規定されていないようにも見えます。)
なので、アディダスやキリンなどといった言葉が躍っていますが、今回の決定にはさほど影響を与えているようには感じられません。

また解任時期の問題についても、スポンサーの圧力説では説明できないように思えます。アディダスもキリンも契約期間がまだかなり残っており、ワールドカップ後でも、会長側から関係の回復は可能と考えるのが、常識的な判断だと思います。

いろいろな要素を挙げましたが、こういった要因に配慮し、利害を調整しつつ行動することが、日本サッカー協会の会長というポジションを保持することにつながります。この関係性を保つように田嶋会長が行動することは常識的に予想されることです。

D:日本サッカー協会会長の社会的利益について

続いては、会長にとって追及すべき社会的・経済的利益について考えてみます。日本サッカー協会の給与はさほど魅力的なものではないようです。(岡野元会長は無給のままでよかったと発言しており、過去は無給だったようです。就任した方で企業時代の方がよかったというコメントをされている方もいました。)

経済的にはあまりメリットが高くないようなので、会長の行動としては、もっぱら社会的な利益・価値を追い求めていくことになるでしょう。では社会的利益とはいったいなんでしょうか?

●日本サッカー協会会長を上回る社会的職務とは?

Jリーグ設立時の中心メンバーは、メキシコ五輪代表選手でした。その後の日本サッカー協会をリードしたのも同じメンバー。田嶋会長は、そのメキシコ五輪代表の方々に仕える形で実務をこなし、ついにトップまで上り詰めました。けれども会長職が最高位です。加えて田嶋会長はまだ若い。まだ野心があると考えて当然です。

更に上のポストを目指すとすると、FIFAなど国際団体の中でさらに上を目指すか、国内の他のポストを目指すかという形になります。

FIFAは会長職やW杯誘致をめぐり、さまざまな問題があり、相当の用意が必要となることは田島会長自身もよく知っていると思います。あまり現実的な選択ではないでしょう。

一方、国内に目を転じると、一番近いところに魅力的なポストが一つあることにすぐ気付くはずです。

スポーツ庁長官。

まだ新設で方向性の見えない組織ですが、色もついていません。オリンピックでサッカー日本代表が金メダルを取ったならば、就任も夢ではないポストです。ひょっとすると国内では、オリンピックでの金メダルは、ワールドカップで優勝するよりも、社会的に評価されるかもしれません。

しかも、文部科学省は、トラブルのまっ最中。当面、内部から長官を出すのは難しいでしょう。田島会長には願ってもないシチュエーションです。

ワールドカップでの成功を考えてみると、ハリルホジッチ監督の手腕はあるにしても、相手は強敵です。今回はくじ運にも恵まれませんでした。

対するオリンピックは、ホーム開催で、日程などのアドバンテージを得ることもできます。新設のスタジアムで、誰よりも先に練習できる環境など、もう二度とないかもしれません。おまけにサッカーの有力国でもオリンピックには力を入れてこない場合さえあります。東京オリンピックでは勝ち目がないわけではありません。

あなたが会長ならどちらを優先するでしょうか?困難なW杯でのベスト4入りでしょうか?勝てそうなオリンピックでしょうか?
スポーツ庁長官になれば、サッカー界への惜しみない援助も可能になります。
一概に非難できないのではないでしょうか?田嶋会長な社会的な利益の追及が政治的な転身になることを止める権利は誰にもないはずです。

●上部団体? 文部科学省とJFA

日本サッカー協会は、かつて文部科学省の影響下にありました。
2012年3月31日までは、文部科学省が日本サッカー協会の監督官庁であり、財務諸表などを文部科学省に届ける必要があったことを忘れてしまった方もいるかもしれません。

公式には関係なくなったとはいえ、totoの収益をはじめ、文部科学省とはまだ深いつながりがあります。サッカー協会は文部科学省と強い関係を持っている団体の一つなのは間違いありません。

(参考) 田嶋会長は他の団体とも同席し、影響力を行使していることがあります
「日本サッカーを応援する自治体連盟」は7月14日(金)、東京都千代田区の衆議院第一議員会館を訪れ、総務省、文部科学省、スポーツ庁、経済産業省、国土交通省の各大臣、長官宛に、「年齢、性別障がいの有無を超えて誰もがサッカーに取り組める環境を目指して」と題した要望書を提出
http://www.jfa.jp/about_jfa/news/00014370/

●文部科学省が現在おかれている環境  ~ 東京オリンピック2020

文部科学省はスポーツ庁を創設し、東京オリンピック2020に向け、ひた走っている状況です。
サッカーも、もちろんオリンピックの中心競技であり、前々回大会では手ごたえを感じる成績も納めていました。もしメキシコ大会以上の成績、金ないし銀メダルを獲得すれば、最高に盛り上がるでしょう。

ただし、東京オリンピックを巡っては、国立建設、都知事の問題から築地問題、それ以外にも様々なトラブルが発生しているのはみなさんご存知でしょう。文部科学省にとっては、オリンピックの成功は組織の浮沈がかかっている大切なイベントです。失敗した場合、スポーツ庁解体などの憂き目をみることもあり得る大きなイベントです。

また国民の望む結果が出さえすれば、さまざまな諸問題については、ある程度、報道されることはなくなるでしょう。文部科学省からするとイベントの成功を手助けしてくれる団体への期待は高まる一方だと思います。

また全国のアマチュア団体は、ほぼ学校を中心としてなりたっており、文部科学省の管理下にあるのも重要なポイントかもしれません。

このような流れを考えると、日本サッカー協会会長として、文部行政にコミットしていくのは、当然かと思います。逆に、オリンピックへの期待が田島会長の中にも強くなりだしたと考えても不思議ではありません。

北朝鮮の動きなどで国際情勢も流動的で、国内の政局も安定しない時期に入ってきました。今後の政局次第では大きな変化があるかもしれません。W杯中止の可能性すらあります。会長自身は選挙を終えて、スポンサーの契約も安定している、今の時期に手を打たないと、政治的な局面の変化に乗り遅れるかもしれないというあせりも感じたかもしれません。この辺は全部推測ですがハリル解任に影響を与えていないとは、誰も言い切れない事情ではないでしょうか。

E:「オリンピック」という言葉から見えてきたもの

ハリルホジッチ監督解任について、著名なジャーナリストも市井の評論家もいろいろな議論が提出されました。

ただサッカー関係者の評論で一番欠けているのがこの「オリンピックの影響」という視点です。

オリンピックを起爆剤に社会変革を行おうという目論見も一部の識者にはありましたが、少子高齢化が急激に進む日本では、ほとんどの競技人口が減少するはずです。プロ選手の排出もどんどん困難になっていくでしょう。そんな中で、各種競技団体は生存競争に入るはずです。

冷静に考えるならば、日本サッカー協会という組織を維持・発展させるには、田嶋会長の行動はあながち悪い判断ではないかもしれません。悲しいですが。

私個人としてはハリルホジッチ監督の手腕が見れなかったのは本当に残念でなりません。選手、監督のほんとの実力を見てみたかったのが本音です。

ワールドカップを捨ててオリンピックで金を取りに行くのは、蛮勇なのか愚行なのか、のちの評価に任せるしかありません。ただ巻き込まれた監督・コーチ・選手たちには同情しかわきません。ハリルさんに言われた「二人の選手」も無実かもしれませんし。ハリルさんの言っていた銀座でパレードは金メダルを取ったらやるのでしょうか?そもそも日本サッカーはこれからどこへ向かうのでしょうか?

本当に悪いのはだれかということも結局はっきりしませんが、すべては決断を行った田嶋会長の責に帰することになります。なんとなく田嶋会長もオリンピック政局に巻き込まれた人という側面もあるような気もしないではありません。オリンピックに向けたシフトに、政局が混乱し出したので慌てて舵を切らざるを得なかった、そのためにハリルホジッチ監督を解任したというのが、田嶋会長の本音かもしれません。(ここの圧力はもう少し調べる必要があるとは思っています)

最後に、冒頭の二つの予言を再度記載します。

1.2018ロシアW杯において、日本代表は森保監督が中心になってチームを作っていきます。森保式3バック(変形5バック含む)もありうるでしょう。

2.日本サッカー協会の当面の目標が、東京オリンピック2020での金メダル(もしくは決勝進出)に変わります。

推論から導きだされるのは、ほぼ2の内容に尽きるのですが、1は、オリンピックに向けて、経験を積ませようという判断から森保U-23監督に任せる可能性が高いと思い、挙げました。ちょっとみんなのテンション上げたかったからかもしれません。その程度なので深く考えないでください。

以上が、私が田嶋会長が合理的に考え行動したであろうことから導き出された結論と予測です。長々とお付き合いいただいてありがとうございます。

●補足

ここでは合理的選択論のいくつかのモデルを借りて、サッカー協会会長の意思決定過程というブラックボックスに光を当ててみました。合理的選択論は政治過程論、意思決定論などで使われるモデルです。(*2)
このモデルが適用できると思ったのは、日本サッカー協会会長が、政治的な存在に置き換え可能だからです。
メンバー間の選挙で選ばれ、対外的な交渉を行いつつ、組織維持を図る。JFAの会長は政治家と同じモデルで説明可能です。


説明にあたっては、合理的田嶋人モデル(homo Tajimanics)を想定して使用しました。
「もっぱら日本サッカー協会的な合理性のみに基づいて個人主義的に行動する」と想定した人間像です。


日本サッカー協会的な価値とは以下のものを仮定しました。

・サッカーの価値を普及・育成する
・日本サッカー協会の維持・発展を目指す

個人主義的というのは、田嶋会長にとってプラスになる・メリットがある行動ということになります。

・会長という地位の保全
・会長としての社会的・経済的利益を追及

などが想定されます。

(*2)合理的選択理論は個々のアクターの選択に焦点を当て、その選択の結果として政治現象を説明するものです。方法論的な個人主義に立脚した理論でもあります。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

46

Gori_Kong

サッカー、ラグビー、組織論、WEBについて、思い付いたことを書きます

後で読む

2つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。