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若者の退職理由の「調整力しかつかない環境」を極めてきた男の例

転職サイトの大手メーカ社員の退職理由の口コミを見ていると、

「調整力しかつかない環境」

と若手社員の投稿と思われるものが多く見られます。


理系の若者にとって、何かをモノにする技術が身に付いていないという感覚は将来に不安を感じるのはよく分かります。


そこで、この若手社員の

「調整力しかつかない環境」

という退職理由の調整力を極めることになった私の話をしていきたいと思います。


●調整力とは


メーカ、つまりものづくりにおける調整力とは何か?
ですが、

「各部署の間に入ることで、入らなかったときよりも製品に対する検討の密度を上げ、あらゆる不具合を削減できる能力」
になると思っています。

あえて「あらゆる不具合」と書いたのは、
モノが入らないなどの商流や、歩留まりが悪いなどの製造面も不具合に入るためです。

●私の経歴


私が新卒の時は開発職で入社しましたが、
工場に隣接した開発室に配属になりました。

今でこそ試作設計と量産設計があると理解しており、
試作→量産で設計のフェーズを踏まないといけないと分かりますが、当時は生産現場が部屋の隣にある影響からか、いきなり量産設計から初めていました。

いきなり量産のことを考えて設計するので、
部品の見積もりを取ったり、メーカ選定資料をまとめたり、仕入れ先の工程監査をしたり、量試部品の受入検査をしたり、タクトを上げる為生産現場から情報を収集したりと、開発業務にとどまらず購買、品証、製造と協業、というより部署に入り込んでものづくりを進めていました。

また新卒入社した1社目では設計→量産出荷のフェーズを学びましたが、2社目では商社の開発部署で全て外部委託だったため、今度は要求仕様をどれだけ分かりやすく書くか、またレビューを通じて要求をどう伝えるかに注力していました。

長い間、開発や設計業務というよりは、
製品開発のために他部署、協力企業をいかに巻き込んで、推進していくかという業務に従事していました。

●調整業務の体制


新卒入社した企業の開発職では
ものづくりの業務を全てこなしていました。
そうすると主となる開発、設計業務は疎かになってしまいます。

そのため、製品開発は製品主担当、ソフト、回路、機構の4名で担当しており、調整業務は製品の主担当が行っていました。

私のキャリアとして初め回路設計をしていたのですが、2年目から製品主担当をするようになり、4年目ではそれのみに従事するようになりました。

ただ、主担当だけといっても担当する製品が多く、火の車状態でした。

設計者や各部門への指示、相談などが定時中のメイン業務で、自分の仕事は定時後から始めるという状態がしばらく続いていました。

●調整力の差に気づく


忙しく過ごす日々の中で、
ある時ふと気づいたことがありました。

それは私と同じようなキャリアパスの先輩達が抱えている製品数が私よりも1〜3種少ないのです。

それでもなぜか私と同じくらいに残業していました。

単純に「コイツら能力低いんか」と思いましたが、
実際は不具合対応に追われ、新製品の対応ができていないだけでした。

ここでポイントなのは先輩達が担当している不具合はみんな自身が主担当をしていた製品でした。


「購買のものの手配が遅れて組み立てに間に合わない。代替品を探している。」

「製造の歩留まりが悪く、設計変更の依頼がきている。」

「突然、フロント開発から設計変更の依頼が来て、出荷に間に合わない。」

「市場である条件下で製品が動かなくなっている。事務局を立上げて対応しないとならない。」

など不具合の理由は様々でしたが、

先輩方は
「マジで購買部勘弁してくれよ。」

「製造は何やってんだよ。」

と常に他の部署に対する文句を口にしていました。


当時は
「へー。みんな他部署のせいで大変やな。
いや、オレも新製品開発で大変やわ。シラネ。」

っと思っていましたが、今なら分かることがあります。


それは、先輩達の新製品開発時の調整力がイマイチだったので、担当していた製品の不具合が起こっていたことです。


つまり調整力の差で製品の品質が変わります。

●不具合に怯える


私の担当していた製品では全くと言って良いほど不具合はありませんでした。

私はとにかく新製品開発にはビビっていました。


それは先輩達に不具合出したら大変だぞと多少おもしろ半分ですが、常に言われてきたからです。

そのため、開発、設計の段階で何か問題起きる、というより心配事があればすぐ先輩や上司に相談していましたし、他の部署の同僚にも大丈夫か聞きまくっていました。


他部署に解決してもらわないといけないことも多々あり、問題を持っていくと購買と品証の先輩から

「またお前かよ!いい加減にしろよ!」

と同じようなタイミングで同じような言い方で怒られたことを今でも覚えています。


そんなビビりながら開発を進めていたことで、
製品に関わる問題は全てクリアにした上で出荷できていました。

そのため、私が担当していた製品の不具合はあらゆる工程でほとんどありませんでした。

●調整力の差とは


先輩達が言っていた以下の言動は、
すべて調整力の無さからきています。

「購買のものの手配が遅れて組み立てに間に合わない。代替品を探している。」

→事前に納期が遅れそうな部材について相談できていない。スケジュールの全体感は製品主担当が把握しているため、購買の手配状況の進捗を確認できたはず。


「製造の歩留まりが悪く、設計変更の依頼がきている。」

→試作、量産試作の段階で工程に足を運んでいない。
設計したものがどういう設備で作られるのか把握することで、事前に製造効率を上げられる可能性があった。


「突然、フロント開発から設計変更の依頼が来て、出荷に間に合わない。」

→要求仕様の確認不足。また試作がどうだったかのフィードバックの確認不足。


「市場である条件下で製品が動かなくなっている。事務局を立上げて対応しないとならない。」

→社内の性能評価のみを信じ過ぎており、製品の特性を理解した試験をしていない。


もちろん自分がどうしようもできない問題もありますが、1つ確認を入れるだけで物事が大きく変わることがあります。

このことはだいたいの人が気づいていると思います。

しかし、仕事が増えることを懸念して、確認にいきません。そしてそれを繰り返す内に確認をしないことが無意識下で行われています。


ただ、確認不足で不具合を出したとき対応工数と、
事前確認で増える対応工数は大きく異なります。

明らかに事前確認する方が工数が少なくてすみます。


これも多くの人が分かっています。


しかしながら、製品を問題なく作り上げるという意識より、自部署の目の前の業務に従事する意識が強いため、製品全体の問題を見ていない、もしくは見れなくなっています。

そのため、他部署との兼ね合いがある業務の
何を事前に確認したら良いのか理解してないことが多いです。

そこで、各部署の情報を基に、他部署への確認、相談をできる調整力があれば、製品を市場に投入する前に問題を解決することができます。

●後日談


ちなみに購買と品証の先輩から言われた

「またお前かよ!いい加減にしろよ!」

は新製品開発のたびに関わりはありましたが、
その後は一切言われなくなりました。

むしろ積極的に協力してくれるようになりました。

どう思って頂いていたかわかりませんが、
おそらく新製品開発時に私が持ってくる問題は事前に解決しておかないと市場不具合になると理解して頂けたのかな?っと思っています。

ただ、積極的な協力と言っても、
毎度むちゃくちゃイヤそうにしていました(笑)

●まとめ


「調整力しかつかない環境」
が大手メーカの若手の退職理由に多く、こんな能力を持っていても役に立たないと思われがちだと思います。

ただ、私からしたら、調整力の本当の意味を分かっているのか、高い調整力が結果として何を生み出しているのか理解しているのかと言いたいところです。

調整力は、調整力とひとまとめに言われるようなものではありません。

その土台には色んな人と話せるコミュニケーション能力、色んな専門家と同じ目線で話せる専門性、問題を細分化して整理する状況把握力、開発プロセスの理解力、スケジュール通りに物事を進める進捗管理能力など、多くの能力が必要になります。


また現実にはできませんが、全く同じ製品、全く同じ担当で製品を取りまとめる主担当だけを変えた場合、出来上がる製品の品質は全く異なるものになると思っています。

設計もしていない調整の力で製品の品質が上がるとしたら、ものづくりにおいては非常に重要な能力になってきます。

そのため身に付けるだけの価値あるものだと思います。


ただ、このような認識がされないのも現実的にあるため、調整力があっても調整力を自らアピールできないと市場に飛び込んで行くのは難しいかもしれません。

しかし、調整力にはコミュニケーション能力が不可欠のため、本当に調整力を極めているのであれば、アピールすることも大して問題になりません。


設計力、技術力は理系の若手にとっては魅力的な能力です。
ただ、調整力もものづくりおいては同じくらい魅力的な能力になるのではないでしょうか。

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