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三瓶山の噴火

ハイエースの後部座席、右側に座っている。後部左側には母が乗っている。運転席には父。助手席にも誰かが載っている。このハイエースは実家のクルマだ。

ハイエースは、とある山間のとある街の、小さな商店街のようなところに停車している。私は後部座席の窓から、ぼんやりと外の景色を見た。低い山並みの向こうに、大きな富士山型の山が見える。あれは島根県を代表する山とも言うべき、三瓶山だ。

と、その三瓶山が、突然雷鳴のような音を響かせて、噴火する。ドーン、バリバリバリバリ。激しい衝撃が伝わって来る。そして間髪入れずに、黒いモワっとした噴煙に、三瓶山は包まれた。

そして、道路の前方から、溶岩だか土石流だか、湯気を立てた溶けたアスファルトのようなものが、ゆっくりと流れて来る。

「父ちゃん、逃げな!」

私は助手席から父に叫んだ。父ももちろん心得ていて、すぐに車を発進させる。前方から溶岩が流れて来るので、ターンして少し後方に進み、左に道があったのでそちらに進む。

クルマで、高原の中のこの道を進んで行くと、路上に白い猫が二匹逃げ惑っている。

いや、逃げ惑っているのかどうか。白い二匹の猫は、路上で腹を見せてのた打ち回っているかのような動きだ。ただ、苦しいというよりは、またたびで酔っているかのような、我を失った様子だ。自然の大変動の前に、混乱しているのか。

白い猫達は路上でのた打ち回っているいるので、クルマで轢いてしまうのではないかという心配があったが、父の運転が上手なのか、猫がのた打ち回りながら上手く避けたのか、ただの偶然なのが、クルマは左右のタイヤで猫たちを跨ぐ形で、上手く通過した。

それから、クルマは右に曲がって、上り坂を進み、いくらか登ったところで、父はクルマを停止させた。溶岩から逃げてくる間、白い猫たちがいたあたりは、ずっと建物のない高原だったが、ここには、人の住む建物がある。窓の外には、木造の、二階が外に張り出したベランダのようになっている建物で、「そば屋 二階堂」という札が貼ってある。

このそば屋の前にクルマを停めて、様子をみた。いくらか登って来たから、溶岩はここまで登って来ないかもしれないな、と思った。

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夢は以上。実家のクルマは、実際にかなり長い間ハイエースだった。実家は自営業だったから社用車なのだが、もちろん自家用車兼用であり、父はドライブが好きだったので、このクルマで遠方にもよく家族で出掛けた。三瓶山の麓へも、中学生の時、家族ドライブで行った事がある。

私の実家は四人家族で、兄がおり、夢の中の助手席の人物は兄だと思われるのだが、夢の中でははっきり分からなかった。兄は三瓶山へ行く時には大学生で、一人暮らししていて、島根へのドライブ時は不在だったことが、影響しているかもしれない。

また実家では二匹に猫を飼っていたが、どちらも白猫ではないし、夢の中とは言え、飼っていた猫であれば、それと認識するだろう。飼っていた猫そのものが夢の中に出て来たことも何度かある。

二階堂というそば屋には、全く心当たりがない。そば屋どころか、二階堂という名の店にも全く心当たりがない。

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ヘッダー画像は三瓶山。これは長じてから一人で訪ねた時ののもの。なお、父はとうに亡くなっており、ハイエースを手放したのも、もう執筆時点から十五年程前の事である。

三瓶山は、出雲国風土記にある「国引き神話」において、新羅から綱を掛けて引っ張って来た土地を、繋ぐために置かれた杭だとされていて、中学生の時にも、その認識はあった。ただ、確かに火山ではあるが、噴火の兆候は全くないものと思う。生涯の中で、轟音や衝撃を伴う噴火の現場に遭遇したのは、桜島近くにいた時くらいである。

(令和二年十二月二十四日の午前に見た夢)

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