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バンド

若かりし青春時代。誰しも一度は憧れ、やってみたい、やれんのか?と思うのがバンドである。

高校時代、普段死ぬほど長い朝礼を聞いている講堂で、文化祭で思いっきり同級生がブッ放しているのを見て、心が震えた。そして急いで地元の友達を集め、バンドを結成することにした。

ギターのとはアコギで弾き語りのようなことをやっていた時期があったので、バンドへの移行は割とスムーズだった。当時流行りのスリーピースバンド。あとはドラムという最後のワンピースだった。

部活を引退したタイミングで、Tを誘う。手足がカモシカのようにすらりと長く、背丈は180を優に越えている。ハードル走でインターハイを目指した程の実力者で、運動神経は申し分ないといったところ。最後のワンピースも埋まり、ついに大航海時代が幕を開ける!

…はずだったのだがフタを開けてみたところ、

Tには絶望的に音楽センスがなかった。まず、超絶基礎の4ビートが打てない。

ズッ、タン! ズッ、タン!のフレーズが、

タン! ズッ タン! ズッ


となったときはさすがに気分が悪くなった。二日酔いなら吐いているレベル。今日は早退してもいいですか?

それからというもの、スタジオでの練習は彼の音を一切無視した。とにかく弦楽器と歌だけで合わせていく。異例のドラムミュートである。

しかしこれでは一生曲が完成しないので、電子ドラムを買って練習するように促すと、彼は喜んでポチッた。リボ払いで。彼は黒物家電に目がないのだ。とにかくテンションが上がっていたので、これはいけるという感触があった。さぁ、ここから伝説が始まる!

…つもりだったのだが、ひと月、ふた月と経っても、Tはいっこうに上手くならなかった。

ある日、Tの家に遊びにいくと、そこに電子ドラムの姿はなかった。どうしたのか聞いてみると、部屋の模様替えをするから奥の部屋に移動してあるとのことだった。ざわ…ざわ…。

それからまたしばらくして、スタジオに入る。

相変わらずどうにもならない太鼓。さすがに業を煮やしてKが詰め寄った。


お前、ホントに練習してんのか?


Tは黙っていた。これは確実にやってない時の沈黙だ。さらに突っ込む。


電子ドラムはどこやった?


…。

…売った。


売りやがった。うすうす想像はしていたが、

とうとうやりやがった。

そういえば、このリボ野郎は使いもしない黒物家電を、車を乗り換えるかのように、買っては売り、買っては売っているのを思い出した。

模様替えするから、奥の部屋に移動してあると言ってなかったか?と聞くと、

あの時にはもう…。


という申し訳なさそうな力無い言葉が返ってきたが、彼はそのウラで株式のように鮮やかに売りさばいていた。


その後、Tが上手くなることはもちろんなく、幻のバンドは蜃気楼のように消えていったのだった。

   

                  Fin.


人にやさしく!

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