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【読書記録】『鹿の王』

去年の読書記録です。未知の疫病と戦う人々の話ということで、今年こそこれを読むべきだ、と思ったことを覚えています。上橋菜穂子は守り人シリーズが好きですが、それ以外はあまり読んで来ませんでした。

2020年8月18日

お盆休みから急に現実に戻るのが難しいため、連休の最終日からファンタジーなど読み始めている。現実逃避の終わりに現実逃避を重ねていく。
今やっとヴァンとホッサルが出会ったところ。

かなり綿密に編まれた入り組んだ物語で、伏線もわかりやすくしてあるように感じた。説明的なところは浮いて見えるけれど(感染の仕組みや病原体、抗原や抗体といったものを横文字や専門用語をほとんど使わずなるだけ一般名詞を工夫して使いながら読者に配慮してるところはしかたがないとも思う)、この作者の、架空の国や文化(言語)をひとつ作り上げてしまうところは素直に凄いと思う。

2020年8月19日

読了。仕事の合間や寝る時間を削って夢中で読んだ。
終わりかたはさておき、病原を解明していくところはとてもおもしろかったし、異国もので医学や科学を描けるのが興味深かった。
活かしきれてない、描ききれてないキャラクターがあるように感じたので、これが大国絵巻のひとつという立ち位置ならば続編には大いに期待したい。

病を描くということは、自然の営みや人々の生き様、あるいは宗教を浮き彫りにするということ。医者のありようにも着目するのは良い視点だと思う。ただ、疫病と人類の戦いにありがちな結末を期待しながら読み進めていたので、やや別な方向に収束したような。
タイトルは格好いいけれど鹿の王そのものの扱いがやや弱いので、外伝『水底の橋』(未読)や今後にも展望があるなら、もっと大きな括りのタイトルにして、その中のひとつが鹿の王にまつわる話ならばより世界観に深みが増したかもしれないな、と。
人間関係や国家間・民族間の歴史のあれこれ、上橋ワールドとでも言える架空の民族や生態系のリアルな描写などは作者の強みなので(どうしても守り人シリーズと比べてしまうけれど)、医者を中心にしたこの世界観は、この先も読んでみたいと素直に思う。

以下、具体的な内容を含みつつ、すこしもやもやしたところなど。

・ユナといういかにも重要そうなキャラクターの使い方にもう一ひねりほしかった。ありがちだけど、10年後や20年後の彼女の活躍を読みたい。
・突き抜けて魅力的なキャラクターが不在だったように感じた。もう一人の主人公と謳われるホッサルは若干キャラ設定が弱いような。活躍もちょっと尻すぼみ。
・サエ、ミラルの主要キャラもややご都合的な印象。期待を裏切ってくれはしない。
・オーファンに比べてシカンの後出し感は残念だった。それまでが綿密で話が込み入っていたのを必死でついてきたということもあり、彼らの虎の子の計画を下巻の最後1/4の分量で収束させてほしくなかった。

アニメ化ですが、病気の解明に迫るややこしいけどおもしろいところを良い感じにわかりやすくして、最後も配分多くドラマチックにしてくれるんじゃないかと勝手に期待している。原作で動かしづらかったろうサエも、軽率にヒロイン役とかにされちゃうだろうけど、そこでドラマが加わるならありかも。

『水底の橋』はのんびり読むことにします。

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