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400年の時を超えて花開く、ニューヨークワイン

ニューヨークワインと言うと新しいイメージが強いと思いますが、実は400年以上の歴史があるのはご存じですか? その歴史はカリフォルニアワインよりも遥かに長く、長い冬の時代を超えて、いま花開き始めたばかりなんです。

黎明期(17世紀初旬~19世紀前半)

入植者時代(17世紀初旬)
16世紀にアメリカ大陸東海岸から入植したヨーロッパ人が自分たちで飲むために、その地で自生するアメリカ系品種でワインを造り始めました。ニューヨークでワイン造りが始まったのは17世紀初旬。

しかしこれらのブドウは生食のため、ワインにするには酸が強く、糖度もあまり上がらず口当たりが悪い。そしてフォクシー・フレーバーと呼ばれる独特の香りがあったため、ヨーロッパからの移民の口には合いませんでした。

自然との長い闘い(17世紀中盤~19世紀前半)
その後、ヨーロッパから苗木を輸入して、ヴィテス・ヴィニフェラがニューヨークで最初に植えられたのが1642年のこと。しかし、冬の寒さの厳しいニューヨークでは失敗の連続。でブドウが全滅したり、冬の凍害によってブドウ樹が枯れるなどうまくいかず。また湿潤でカビの繁殖しやすい東海岸ではカビ病も多発。極めつけはアメリカ東海岸に生息する寄生虫フォロキセラの存在でした。ニューヨークのワイン生産者の挑戦は約200年近くに渡りましたが、当時は原因もわからず、打つ手がありませんでした。

第一次成長期(19世紀前半~20世紀初旬)

19世紀前半に入ってからはヴィニフェラの栽培をあきらめ、アメリカ原産品種ハイブリッド種を使っての商用ワインの生産が始まりました。1839年には全米最古の商業ワイナリーがハドソン川流域に設立されました。

この時代はまだ輸送手段が発達しておらず、あくまでも米国東海岸の人達が飲むためのワインを造っていた時代。船が主要な輸送手段だったことを考えると、川の近くにワイナリーが出来たのも自然な話です。

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暗黒の時代ふたたび(1920年~1933年)

その後、少しずつ発展したニューヨークのワイン業界ですが、また新たな試練が訪れます。1920年に施行された天下の悪法とも言われる禁酒法です。この法律によってニューヨーク州のワイナリーはお酒を生産することが出来なくなり、ワインからブドウジュースへシフトすることになりました。禁酒法解禁後も、その名残は続いており、実は今でもニューヨーク州はたくさんのブドウジュースが生産されています。

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第二次成長期(20世紀中盤~21世紀初頭)

新しい時代の始まり
ニューヨークワイン業界に大きな転機が訪れたのは1950年代になってから。ロシア革命と第二次世界大戦を生き延びた末に、アメリカに亡命してきたドイツ系ウクライナ人のコンスタンティン・フランク博士の挑戦から始まります。

ニューヨークよりも遥かに寒冷なウクライナでブドウ栽培博士として活躍していたフランク博士にとっては、このニューヨークでもその地にあったブドウ品種や穂木、台木を見つけることが出来れば、ヴィニフェラの栽培が可能なはずとの確信がありました。

数年間に渡り6,000パターン以上という気の遠くなるような試行錯誤の結果、ついに1957年にヴィニフェラの栽培に成功。これを機にニューヨークワインはヴィニフェラの栽培にシフトしていきます。これがニューヨークのワイン業界で語り継がれるでは「ヴィニフェラ革命」です。

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品質向上期(1960年代~2010年)
その後、法改正や支援団体の設立などニューヨーク州政府のバックアップもあり、少しずつニューヨークのワイン産業は成長していきます。米国東海岸の名門校で構成されるアイビーリーグにも所属するコーネル大学の存在も大きかったです。この学校のブドウ栽培・ワイン醸造学部は寒冷地でのブドウ栽培に関しては世界的に有名で、ワインの品質向上には大きな影響を及ぼしています。

しかし、1980~1990年代に掛けては、温暖な気候で造られる力強いカリフォルニアワインが世界的な注目を集めていた時期。それとは正反対のスタイルのエレガントなニューヨークワインはまだまだ日の目を見ることはありませんでした。

成熟期(2010年~現在)

ニューヨークワインが成熟期に入り始めたと言えるのは2010年頃です。2008年のリーマンショックを境にアメリカ人の価値観も大きく変化。ヴィニフェラ革命以降、品質の向上を続けていたニューヨークワインにも注目が集まるようになってきます。

その大きな要因が東海岸における地産地消ムーブメントの広がり。米国西海岸から広がったこのトレンドも、リーマンショック以降はニューヨークでも急速に広がりました。食材だけでなく、ワインも地元のものが注目されるようになりました。

時を同じくして、世界的なワイントレンドにも変化が起こりました。食のトレンドが繊細になっていくのに連れて、ワインもこれまでの濃厚で力強いものよりも、エレガントで食事に合わせやすいものが好まれるようになりました。

今ではマンハッタンの超高級レストランでも、地元のニューヨークワインをオンリストすることが普通になってきました。ニューヨークのソムリエ達も地元のワイン産地を訪問し、生産者達と情報交換しています。

ニューヨークでのワインツーリズムの人気も高まっています。週末に気軽にワイナリー巡りに行き、自分たちのお気に入りのワインを見つけるのもニューヨーカーの楽しみの一つです。流行に敏感なニューヨーカーに合わせて、お洒落なワイナリーも増えています。

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ニューヨークワインの未来

ニューヨークワインは成熟期はまだ始まったばかりで、これからも益々と世界的にも注目度が上がっていくと予想されます。

今後、世界のワイン市場を支えていくのはベビーブーマーに代わって、ミレニアル世代。彼らは親の世代と違い、これまでのような有名産地、ブランド、特定の品種などに拘らず、いいワインなら積極的に楽しむタイプ。世界中の誰もがその名を知っており、洗練されたイメージのニューヨークのワインにとっては嬉しい傾向です。

そして、今日世界中のワイン産地が直面している温暖化問題。湿潤なニューヨークでは山火事や水不足の心配はありません。また、ヴィニフェラ栽培の歴史が短い分、どの土地の伝統的品種を変えるという心配もありません。

ニューヨークのワイン生産者達は、「長い苦難の歴史を乗り越えて、いよいよ我々の時代がやって来た」と自信を持っています。

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まとめ

最近注目されるようになったばかりのニューヨークワインですが、実はその歴史はアメリカ大陸に入植した時代とほぼ時を同じくしています。数々の試練を乗り越え、やっと今大きな花を咲かそうとしています。

ニューヨークワインを楽しむうえで、こんな歴史的な流れを踏まえて飲むとまた違った面白さがあるかもしれませんね。長い年月を経て、いま飛躍しようとしているニューヨークのワイン産業に今後も是非ご注目下さい。

参考文献:ニューヨークワイン プロフェッショナルガイド

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