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デジタル化で「議会活動はスマートになる」――議会向けICT推進セミナー

 地方議会はどのようにICTを推進・活用していけばいいのか――2023年7月21日、都内で開かれた「議会向けICT推進セミナー」では先進的な議会の議員や事務局職員などが事例を発表。「デジタル化で議会活動はスマートになる」「ICTの活用は難しくない、慣れだ」といった言葉が相次ぎ、その多彩な効果に注目が集まった。

■約650の議会・自治体が「SideBooks」導入

議会向けICT推進セミナーの冒頭、挨拶する米田英輝・東京インタープレイ株式会社社長。

 議会向けICT推進セミナーは、「ペーパーレス会議システムSideBooks」を開発・販売する東京インタープレイ株式会社の主催。

 7月20日・21日にわたってセミナーは開催され、参加者は議員や事務局職員を中心に両日合わせて200人以上と関心の高さをうかがわせた(リアルとオンラインのハイブリット開催)。このうち21日のセミナーには愛知県知立市議会の田中健(たけし)議員、茨城県取手市情報管理課長の岩﨑弘宜氏・同市議会事務局主事の髙橋賢人氏が登壇、それぞれの取り組みについて講演を行った。

 21日のセミナーでは最初に米田英輝・東京インタープレイ株式会社社長が挨拶した。「SideBooks」は2011年の神奈川県逗子市議会を皮切りに、現在では約650の議会・自治体が導入。「当初は議会での導入がほとんどだったが、最近では介護認定審査会や農業委員会、監査委員事務局などでも導入が増えている」と、需要幅が広がっていることを述べた。

■コロナ渦でも「活動・議論・公開を止めない」

「デジタル化で議会活動をスマートに」と題して講演を行う愛知県知立市議会の田中健議員。

 セミナーではまず、愛知県知立市議会の田中健議員(元議長)が「デジタル化で議会活動をスマートに」と題して講演を行った。
 知立市議会では、田中氏が初当選して4か月後の2010年12月に議会改革特別委員会が設置され、翌11年4月、議会改革検討項目にICT化を明示、13年3月に制定した議会基本条例にも「情報通信技術の活用」が明記された。

 これらでICT化が進むかと思われたが、田中氏は以後10年ほどは「暗黒の時代だった」という。進んだのは議会事務局が主体となる動画配信や会議録検索システム、電子表決システムなどで、議員が主体となるデジタル化・ICT化は、事務連絡がFAXからメールに代わる程度。先進自体議会も9市訪れたが、いつも賛否両論でICT化は進まなかったという。

 契機となったは20年春からの新型コロナ渦。「書面・対面・接触」を回避する中で、「活動・議論・公開を止めない」ためにデジタル化・オンライン化の必要性が再認識された。20年7月、各会派に端末を貸与し、議会災害対策会議をオンラインで開催したところ、「意外とやれた」と多くの議員が感じたことで弾みがついた。

■デジタル化でWINWINの関係に

 その後は、20年8月の議会改革特別委員会でタブレットの導入、議場のWi‐Fi環境の整備が承認、21年2月にペーパーレス会議システムの試験運用開始。21年に入ると、2月にタブレット・ペーパーレス会議システム・グループウエアを導入。同月、「知立市議会情報通信機器運用基準」を策定し、3月定例会より公式の会議で電子通信機器の運用を開始(1年間は試行期間として紙資料も配布。22年3月から完全ペーパーレス化)。5月の議会報告会はオンラインで開催した。

 全議員がオンラインの利便性と可能性を実感した市議会では、一気にオンラインの活用が進むことに。災害対策会議や議会報告会はもとより、常任委員会や議会運営委員会、議員視察や視察受け入れ、会派会議や執行部との打ち合わせなどオンラインの活用がどんどん進んだ。田中氏は「デジタル化で議会活動はスマートになる」と強調。そして「議員も職員も市民もみんながうれしい、WINWINの関係になる」とその効果を話した。

■ICTの活用は「難しくない」

「オンライン本会議に向かって」と題して講演を行う茨城県取手市情報管理課長の岩﨑弘宜氏(右)と同市議会事務局主事の髙橋賢人氏。

 続いて「オンライン本会議に向かって」と題して茨城県取手市情報管理課長(前議会事務局次長)の岩﨑弘宜氏と同市議会事務局主事の髙橋賢人氏が講演を行った。

 この3月末まで、通算27年にわたって議会事務局職員としての経験がある岩﨑氏と高橋氏は市議会のICTやオンライン化を下支え。岩﨑氏は「私はアナログ人間です。ICTの活用は難しくない。慣れです」と強調。業務量や経費の大幅削減、オンライン会議の開催、災害有事への備え、住民とつながる新たな広聴・広報など多彩な効果があることを語った。

 具体的にはタブレットを活用したオンライン会議(提出予定議案事前説明、市議会感染症対策会議、各委員会における審査、オンライン研修)、タブレット端末&Zoomによる現地調査など。「SideBooks」を選択した理由は▽議案等の印刷、配布業務の大幅減▽表決システムがハード不要で使用可能(経費削減)▽整理されたデジタル書籍が容易につくれる(書類検索も容易)などだったという。
 成功の秘訣として岩﨑氏は「まずは『やってみよう!』の気持ち。何といっても最後は『議会愛』」と話した。

 講演の後半は、議場内選挙投票システム。模擬議会で可否同数時の電子くじを実演し、参加者も操作を体験した。最後にオンライン本会議実現のため、地方自治法改正の必要性を訴えた。
(文・写真/上席研究員・千葉茂明)

〇日本生産性本部・地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html

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