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第二回−「助けられた一冊の本」

晴れて営業許可も降り、開業した古民家民宿「ごーやー荘」。しかしそのスタートは華々しいものではありませんでした。
営業許可を取得して1ヶ月も経たない4月中旬、GWに間に合わせようと予約体制も整っていない中での見切り発車で、最初のお客様が来るのに1週間近くかかりました。
それでも初めてのお客様は今でも覚えています(実はウェブサイトのトップページに15年変わらずに写真が載ってます(笑))。

全国デビュー

2003年当時はインターネットのISDNやADSLと言った常時接続が家庭でもほぼ普及してきた頃。宿泊施設の予約などにもインターネット予約が広がってきて、多くの宿泊施設でも独自のウェブサイトを持つようになっていました。
そのウェブサイトに宿同士相互リンクをしていて、旅人はまずお気に入りの宿を予約したら、その先の旅程の宿を相互リンクから探して予約するのが一般的でした。ちょうど検索の上位に上るようにとSEOが叫ばれるようになり始めたころで、被リンク数を増やすという目的もありました。

さて、旅人の間ではやはり人気のエリアは那覇・北谷。その次が本部半島・名護市など。沖縄市コザは人気ランキングでは下から数えたほうが早いくらいです。
インターネット予約が広がってきたとはいえ、予約の8割くらいはガイドブックや旅情報誌の施設情報から探して電話やメールで予約する時代でした。
どうすればガイドブックやメディアに取り上げられるようになるか。あれこれ考えている頃。。

ここでかなりの追い風が吹いてきたのです。ごーやー荘は古民家民宿。意外かもしれませんが当時、瓦屋根古民家の民宿というのは沖縄本島にはうちくらいしかなかったのです。
開業翌年の2004年ごろからガイドブック含めた書籍や、驚いたことに全国ネットのテレビなどから取材の申込みが増えてきたのでした。
今、数えただけでも2004-2005年の2年間だけで書籍8、テレビ2。書籍では「地球の歩き方」系列のガイドブック「沖縄の歩き方」に掲載されたことで旅好きな方にも知れることとなりましたし、驚いたことに音楽雑誌「B-PASS」で沖縄出身グループ「D51」のグラビア撮影にもかなりのページ数を使って紹介もされました。
他にデジタル系雑誌の「日経トレンディ」も沖縄移住特集を組み紹介されるなど。テレビに至っては俳優の小西博之さんもロケでご一緒しましたし、ミュージシャンの石川浩司さん(元たま)とセッションもさせていただきました。

「オキナワ宿の夜はふけて」

そう言った形でメディアに引っ張りだこで一躍名が売れたごーやー荘と私でしたが、、やはりブームは一過的にすぎるというか、どうしても一時期のものなんですよね。
(もちろん前述のメディア等でうちをご紹介頂いたライターや制作関係者の皆様には本当に感謝しています!)

でももっと大切なことを教えられたエピソードがあります。
2005年出版の「オキナワ宿の夜はふけて」と言う一冊の本。著者名はカベルナリア吉田氏(以下カベっちさん)。

ヘンテコな名前のライターさんですが、名前の由来は大好きなプロレスラーの技からとか。
カベっちさんは「沖縄の島に全部行ってみたサー」という書籍でフリーライターデビューし、実践肉弾派紀行ライター(時にフードライター)として現在も活躍しています。今でもあちこちを旅しては「ムカつく旅」などど称したトークイベントを開催していますが、その風貌や文体からガツガツ系かと思いきや、とっても繊細な心の持ち主なのです。
まず取材姿勢。電話と書面でとっても丁寧な取材依頼を頂いた記憶があります。
そして彼の文章。一読すると「てやんでぇ」口調のように思われますが、人物や宿の描写がとても心温まるんですよね。人情味があるというか。
往々にして、旅情報系雑誌だと部屋数とか収容人員などの基本情報の他「アットホームな宿」「綺麗で女性にも優しい宿」「気さくなオーナー」など、私でも考えつきそうな内容だけが書かれていることが多いのですが、カベっちさんにかかると私のことは「休日のサラリーマンのような丁寧な対応をするお兄さん」になる(笑)。
宿の間取りや雰囲気も文章に散りばめながら、居合わせた他のお客様の様子やスタッフの動きなどもしっかりと描写している。

そしてこの本に書かれていたのは「こんなに真摯に宿経営に取り組む人がいる限り、沖縄安宿の未来は明るいはずだ」。

様々なメディアにも取り上げられた後、過ぎて行くブームの最中で基本に立ち帰ろうとする私に妻からの一言。
「この本の著者さんのように、あなたのことをちゃんと理解して応援してくれている人もいるんだよ」と。
この言葉が突き刺さり、現在に至るまでの私の基本姿勢となっていったのです。

こんな風に私に影響を与えた本でもありますが、それ以上にとても助けられていることがあります。
それは発刊から10年以上経った今でも「この本で紹介されていたので泊まりに来ました」というお客様がいると言う事です!
カベっちさん自身が今でも紀行ライターとして活躍していることでもありますが、沖縄旅に興味を持った人が図書館などでこの本を手にとって旅に出ようと決意することもあるんでしょうね。いずれにしても一時的だったメディア掲載の末に、今でもお客様をごーやー荘に引き寄せてくれるこの本と、「カベっちさん」こと、カベルナリア吉田氏には本当に感謝しています。

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次回:「ごーやー荘の代名詞。三線とエイサー」(仮)。沖縄の伝統芸能である「三線」「エイサー」が広げる輪がごーやー荘の財産でもあります。そんな軌跡をご紹介します。


古民家民宿をまだまだ盛り上げたい。エナジャイズ=活性化のためのクラウドファンディングをやってます。

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