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フォン・ノイマンは「人間のフリをした悪魔」だったのだろうか

もしノイマンが生きていたら、「だからアメリカが圧倒的優位な1950年代初頭に、ソ連を原始時代に戻しておくべきだったと何度も言ったじゃないか!」と叫んでいたかもしれない。
『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔』高橋昌一郎


現代物理学や数学、コンピュータ・サイエンスを学んだことがある人ならフォン・ノイマンの名前は知っているはずだ。
我々の生活はノイマンの頭脳の上に成り立っている。LINEも、SNSも、ゲームも、ネット通販も、スーパーのレジや家電や自動車も、そして戦争でさえも。


『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔』(高橋昌一郎 著)には現代物理学を築いた錚々たる科学者の名前が、これでもかというほど登場する。
若い頃、現代物理学を学んでいた私は、彼らの名前を目にし、ときめきを以て読み進めていたのだが、ある辺りから科学が暴走していく様をまざまざと見せつけられる。

ロスアラモス国立研究所でマンハッタン計画に参加していた若き物理学者ファインマンが、原爆開発への後ろめたさを口にした時、衝撃的な一言をノイマンが放つ。

「我々が今生きている世界に責任を持つ必要はない」と断言して、彼を苦悩から解き放った。
『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔』高橋昌一郎

この本に書かれているのは、華々しいノイマンの一生ではない。こうして彼を取り巻く多くの科学者が非人道的行為に加担していく悪の現代科学史だ。

彼は「人間のフリをした悪魔」なのか。

ノイマンの思想の根底にあるのは、科学で可能なことは徹底的に突き詰めるべきだという「科学優先主義」、目的のためならどんな非人道的兵器でも許されるという「非人道主義」、そして、この世界には普遍的な責任や道徳など存在しないという一種の「虚無主義」である。
『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔』高橋昌一郎

ノイマンはもはや”悪魔”などという有機的な存在ではなく、彼自身が誰かにプログラムされた”ノイマン型コンピュータ”のようだ。
確かに彼は稀代の天才である。が、それを機械のように”利用”したのは、まぎれもなく”破滅を以て一刻も早く戦争を終わらせる”という人間の冀望(きぼう)であり、時代が生み出したただのマシンだったのではないか。

この本の初版は2021年2月20日、その約1年後にロシアのウクライナ侵攻が始まった。
冒頭の引用は著者のあとがきで書かれたものである。
ウクライナ侵攻を終わらせるために、ノイマンなら躊躇なく核の使用を進言するだろう。
しかし今、我々の冀望は核を使うことなく、速やかに戦争を終結させることである。
科学を破滅のために使ってはならない。
科学者もまた、破滅のために使われてはならない。

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