テルテルナース(短編小説)

現役Ns(訪問看護師) 小説家を目指し上京 仕事と両立しながら日々活動しています! n…

テルテルナース(短編小説)

現役Ns(訪問看護師) 小説家を目指し上京 仕事と両立しながら日々活動しています! noteでは短編小説を載せていこうと思っています 応援していただけるとスゴく嬉しいです☺️

最近の記事

花弁と共に(後編)

   退院後、マネージャーとして部に復帰した。  顧問の先生に受験の事もあるため退部も提案されたが、僕は残ることを選んだ。  今度は、逃げたくなかった。  できる範囲で最後までやり切る。  今はそれが必要なことだと思ったから。  後悔はあるし未練もある。  そんな簡単に割り切れるほど大人には成れない。    でも、だからって。  今までしてきた事を無かったことにはしたくなかった。   ー インターハイ県予選100kg級決勝戦 ー  両者一歩も譲らない攻めの姿勢で、激し

    • 花弁と共に(中編)

      「よっ」  振り向くと、そこには軽快な挨拶に反して固い表情をした屈強な男の姿があった。  軽量級の自分と比べると100kg級の大博は立っているだけで存在感がある。 「見舞い来るの遅いんじゃねーの?薄情者め」  久々に会った親友に軽く悪態をつく。 「すまん。色々と整理がつかなくてな」  そう言ってベッドの横にたたんでいたパイプ椅子を開き、ゆっくりと腰を下ろした。  静かな病室に椅子の軋む音が響く。 「それで、夏までには間に合うのか」  包帯で大袈裟に巻かれた右腕を見ながら、険

      • 花弁と共に(前編)

        桜を見ると、否応なく君を思い出す。 君は花弁と共に現れて、花屑が舞い散る頃には閑かに姿を消した。 刹那的で情動的な記憶を僕に植え付け、深く根をはって離れない。 幾度春を重ねようと、満開の桜を見て心動かされ魅入ってしまうように 君への想いは、薄らぐことなく揺蕩い続けている。  高校2年の春休み。  当時、柔道部に所属し学生生活の全てを注いでいた。全国的にも名の知れた強豪校で日々の練習は過酷を極めた。  春休みと言っても部活生にとっては学校がない分、一日中練習という地獄のよう

        • 口唇残香【短編小説】

          「そろそろ出ようかな」  その言葉を合図に、三十分ほど先に出社する貴方を見送るため、玄関に足をはこぶ。  靴を履き向き直ると、玄関ドアの硝子から挿す朝陽が貴方の外郭を曖昧にさせる。   親切な上り框が二人の目線を合わせ、舞台を整える。  互いに少しだけ頭を傾け、寄せると唇が重なる。  一秒程の優しい接触。  僅かに漏れる吐息からは、いつも珈琲の香りがした。   味は苦手だけど、その香りは好きだった。      目を覚ましてリビングに向かうと、寝癖をつけ目を擦る私に「おは